第30話 大女優の思惑
塚本マネージャーは、アンズ先生の母親、浅野涼子から、姿をくらますように指示を受けて、旅館「彩栄館」に逃げていのだった。
そして、塚本マネージャーから驚きの真実がアンズ先生に伝えられる。
「 浅野先生は、アンズ先生がこのまま俳優ではなく、タレントしてネットを中心に活動するぐらいなら、芸能界を引退してもらって、実家の『彩栄館』を継いでもらいたいと考えています。
そのために、私がいなくなって事務所が立ち行かなくなるようにして、アサノ企画が手助けすることでアンズ先生の仕事をコントロールしようとしたんです」
「わ、私を引退させて!
旅館を継がせるだとー!!!」
とそんな話を聞かされて、当然アンズ先生が、激オコになったので。
アンズ先生をなだめつつ、花森が「このままでは芸能界に戻れませんよ」と、塚本マネージャーにこちらの味方をするように説得して、みんなで浅野先生と戦おう! という話でまとまったのだった。
塚本マネージャーには、このまま市内で潜伏してもらい、なにか浅野先生側に動きがあったら連絡してもらうことにした。
その後は、アンズ先生一行が駅前で待っていると、旅館「彩栄館」から迎えに来たミニバンが、駅前に到着したのだった。
ミニバンの運転席から、運転手が顔を出して挨拶してくる。
まだ若く、ワイルドな風貌で、なかなかのイケメンだ。
すると、アンズ先生の口から、
「つ、ツヨシ! なんであんたがいるのよ!」
と動揺した声が、飛び出す。
どうやら迎えに来た若者と、アンズ先生は知り合いのようだ。
「なんでって、俺、旅館で板前やってて。
人手が足りないから『迎えに行け』っておふくろに言われたんだんべ」
と答えたのは、仁科剛という男だった。
8人乗りのミニバンに、アンズ先生、花森と安島たちスタッフ数人、そしてOCHAN.が乗り込んで、2時間はかかるという旅館に向けて出発した。
「先生、こちらの方は?」
と安島が聞くと、
「私、子供の頃から、夏休みや冬休みは、よくこっちに遊びに来てたのよ。
こっちでパパの映画が撮影されて、私もチョイ役で出てたりしたし。
それで、旅館で働いている人の子供たちと仲良しになって。
ツヨシは、そのころの知り合い」
「えっ! そうなんですか?」
「幼馴染ってやつですか?」
「いいなー、こんなかっこいい幼馴染がいて!」
とスタッフたちがわいわい騒ぎ出す。
ツヨシと呼ばれた男が、
「俺のおふくろが、旅館で中居として働いてて。
俺もよく旅館で遊んでたんだ」
と答えると、アンズ先生が、
「違うよー。こいつ、手の付けられない悪ガキでさー!
ツヨシのママが、旅館の板長に泣きついて。
叱られに、よく連れてこられてたんだよ!」
「叱られたどころじゃねーべ!
よく、ぶんなぐられてたさー。
板長、俺どころじゃない、街で有名な不良だったんだって!
それで高校を卒業したら、板前見習いとして無理やり就職させられたんさー」
「更生できてよかったじゃん!
あんた、野生ザルみたいだったもんねー」
なんて、しばし昔話に花を咲かせているうちに、どんどん山の中に入っていき、国道沿いにある、大きな古めかしい旅館「彩栄館」に到着したのだった。
「ただいまー!」
とアンズ先生が旅館に玄関から入ると、
「お帰りなさいませ。お嬢さま」
と、中居頭の仁科あゆ美ほか、従業員がずらっとアンズ先生たちを出迎えた。
「仁科さん、久しぶりー。元気にしてた?
おばあさまは?」
「女将はお年ですから、いまはもっぱら『はなれ』にいらっしゃいます」
「ああ、そうなの……。
部屋はどこ使っていいのー?」
「もちろん、最上階のスイートルームを用意しています。
ご案内しますね」
それで、到着が遅い時間になったし、今日はあやしまれないようにと、いろいろ探るのは明日にして、みんなで大浴場に入った後、部屋で夕食をいただく。
夕食は、この旅館自慢の和食フルコースだ! 美味しい!
群馬は海なし県だが、刺身は新鮮で、お肉も美味しくて、水がきれいな土地だからか地酒もおいしく、食が進む、進む。
女性だけだが、みんな大食漢で、どんどん料理が減っていくのを、お世話している仁科があきれて見ていた。
そこに、板長の国岡茂が挨拶に来る。
大柄でがっしりして、こわもてな風貌だったが、
「お嬢、お久しぶりです。
ずいぶん、大きくなられました。
最近、よくテレビで見かけます。ご立派になられて……」
「板長、久しぶり!
やーだー、堅苦しい挨拶しないでよ!
明日は、料理対決だね! 手加減してよね!」
とアンズ先生と親しげに会話する。
見た目はまるで、ヤクザ? こわっ! とビビる花森たちだったが。
「板長は、見た目はこんなだし、地元で有名な不良だったらしいけど。
こっちに帰省した時は、ママもパパも忙しくて、いっつも、いなかったんだ。
だから、私の料理はママ仕込みじゃなくて、板長仕込みなんだよね」
と教えてくれた。
みんな疲れたのか、先に寝てしまったり、お酒につぶれたりするなか、酒豪のアンズ先生が地酒を飲み続け、花森がそれに突き合う。
二人っきりになり、お酒も進み、最初はどうでもいいおしゃべりをしていたが、いろいろな話をし出した。
「私、料理は、誰かのためでなく、自分のために作っているの。
自分の食べたい料理を、自分で作る!
そうして作った料理を、自分以外の人が美味しいと思ってくれるのなら、うれしい。
なんかさー、私の人生って、ママから与えられたものばかり。
俳優の仕事も、料理も、ママから与えられたもの。
だけど、私が作る料理が美味しいかどうかは、私が決める。
私は、自分で、自分の人生を決めたいの」
なんてアンズ先生の話を、かなりよっぱらって聞きながらも、
私を、暗闇から救い出してくれた、アンズ先生。
私から見たら、全て完璧で満たされているように見える、アンズ先生。
だけど、そんなあなたが『かごの鳥でいるのは嫌なの』って言うのなら、今度は私があなたを救ってみせる。
そう、心に誓う花森だった。




