第29話 いた!
雑誌『シティ情報ぐんま』の記事を見て、何かに気づいた花森だったが。
次の日の朝、アンズ先生と市内のテレビ局に向かうと、そこで合流したアンズ先生のスタッフに、先生のお世話をお願いした。
そして、テレビ局を抜け出し、一人で舞台『春にして君と別れ』をやっているはずの市民ホールに、タクシーで駆けつけたのだった。
市民ホールにがいると、すでに舞台の幕が開いていたので、立ち見のまま舞台を見て、見知った顔の女性が舞台に出演していることを確認する。
そして、舞台が終わるのを待ち、劇団員が出てくる裏口で待ち伏せして、地味な服装で他の劇団員に挨拶しながら、裏口から出てきた年配の女性の腕をガッと、捕まえたのだった。
「塚本さん!」
「は、花森さん! なんでこんなところに!」
「それはこっちのセリフです! 」
舞台に出演していたのは、失踪した塚本マネージャーだった。
テレビとラジオの収録を終わらせたアンズ先生が、サングラスにマスク姿で、市民ホール近くの喫茶店「ジョン」に現れた。
その姿を見た瞬間、喫茶店で花森と座って待っていた塚本マネージ―が、立ち上がって、
「アンズ先生、申し訳ございませんでした!」
と深々とお辞儀して詫びる。
しばらく下げた頭を上げた塚本マネージャーに、アンズ先生がグッと顔を近づけると、
「アイちゃん、なんで急に出てったりしたの!」
と、凄みを利かせる。
「そ、それは……」
「もう10年以上いっしょにやってきて、いきなりいなくなるなんて!
おかしいじゃん!
……どうせ、ママの指図なんでしょ? アイちゃん!」
と凄み続けるアンズ先生の迫力に押されながらも、
「それは……言えません!」
と黙秘する塚本。
「『言えません』じゃないわよ!
あんたが私を裏切るとしたら、ママの指図ぐらいしか考えられないのよ!
言いなさい!」
「言えません!」
「じゃあ、なんで群馬にいるのよ!
私を裏切って失踪しておいて。ママの実家がある群馬に戻っているなんておかしいでしょう!
あ、ひょっとして、『彩栄館』にかくまわれていた?
そうでしょ!
あんた、いまうちの旅館にいるんでしょ!」
「い、言えません!」
と二人の押し問答がしばらく続き、ついには二人して黙り込んでしまったので、花森が話をつなぐ。
「塚本さんって、確かこちらが地元なんですよね。
でも、実家には帰っていなくて、連絡もしていない。
『探さないでください』
なんて置手紙をして、失踪中なのに。
何で、地元の劇団の公演になんて出ているんですか?」
「それは、その……。
群馬に戻ってきて、しばらくして高校時代の友人にばったり駅前で会って。
友人は、高校時代に演劇部でいっしょだった人で、こっちで劇団を主宰していたんです。
駅前で、舞台のビラ配りをしていた友人見つかって、声をかけられて……。
それで、私が女優を目指して、親戚の紹介で浅野先生に弟子入りしたことも知ってて。
『こっちに戻ってきたんだったら、劇団を手伝ってもらえない?』
と頼まれて、つい……」
「『つい』じゃないわよ!
失踪中の人がやることなの!
……おかげで見つけることができたけどさー」
「地方の劇団だから、大丈夫だと思って……」
と言う塚本に、花森が問い質す。
「塚本さん。
私たちが群馬に戻ってくるのは、知っていましたよね?
だったら、旅館から離れて身を隠すように言われていたはずです。
なのに、高崎駅近くの市民ホールなんて、危険な場所でやっている舞台に出たんですか?」
「それは……舞台に穴を空けたくなくて。
久しぶりに舞台に立って、やっぱり楽しくて。
それに、劇団の仲間の努力を無駄にしたくなくて。
……ううん。やっぱり私、舞台に立ちたかったみたい」
と言ってうつむいた塚本に、
「ねえ、アイちゃん。
このまま、群馬で隠れて、こっそり芝居を続けるだけでいいの?
ママに代わって、私の面倒をずっと見てくれて、いままでありがとう!
でも、ママに言われたからって、芸能界から雲隠れしていたら、この先やってけないよ?
もっと大きな舞台に立って、テレビドラマとか映画に出たいと思わないの?
ママと私に人生を捧げて、それで満足なの?」
と、アンズ先生が諭すように言うと。
塚本マネージャーが、
「浅野先生とアンちゃんに人生を捧げたことには、後悔していません。
お二人を支えられて、幸せでした。
だけど、やっぱり私、舞台に立ちたい!
ドラマに出たい!
映画に出たい!
胸を張って『私、女優よ!』と言いたい!」
と、秘めていた想いを語り、瞳から大粒の涙がこぼれ出したのだった。
そんな塚本を、しょーがないわねー、といった感じで、やさしく抱きしめるアンズ先生だった。
そして、ひとしきり泣いた塚本マネージャーから、失踪の真実が語られ始めたのだった。




