第28話 群馬県にGO!
新刊の見本が完成してから、数日後。
花森がアサノ企画に連絡して、
「本のPRのために、アンズ先生のおばあさまが女将をされている群馬の旅館『彩栄館』で、アンズ先生が料理でコラボして配信したいんですが」
とアンズ先生の祖母が経営する旅館での、新刊本のPRを目的としたコラボ動画の撮影を提案する。
「旅館にとっても宣伝になりますし、久しぶりのアンズ先生の帰郷で地元でも話題になると思います」
と花森が説明すると、老害マネージャーの伊地知もまんざらじゃない様子で、
「涼子先生に確認してみます」
と言って、電話を切った。
実は、この前アンズ先生の自宅に行ったとき、母親の弱みを握るための重要な手がかりを、アンズ先生が花森に話していたのだった。
「母の実家の旅館、あそこにはなにかあると、思っていたの。
私、子供の頃、長い休みのときは旅館によく泊まりに行ってたんだけど。
あるとき旅館が新築されて、旧館が『はなれ』と呼ばれるようになったんだ。
『はなれ』は、新築した本館と道を隔てた少し奥の方に建ってて、長期滞在するVIPのお客様が泊まる場所になって。
私みたいな子どもは『近づいちゃいけない』って厳しく言われたんだけど。
私は女将の孫だから、本館で働いている人はみんな私に挨拶してくれて知ってたんだけど。
『はなれ』で働いている人は完全に別の人たちで、私も誰も知らなかったんだ」
と、新築された本館とは、別に存在した「はなれ」の不自然な様子を語った。
「ある日、こっそりとのぞきに行ったことが会ったんだけど。
なんか怖そうな人と、とってもきれいな女の人がいるのを見たことがあったんだ。
だけど、のぞきに行ったのがバレて、ママやおばあさまからこっぴどく叱られて。
しばらくは、おこづかいも『なし』になったから。
二度と『はなれ』には、行かなかったんだけど」
そういうと、少しためらう様子をみせたものの、意を決したアンズ先生が、花森に重大な秘密を伝えた。
「『はなれ』にいたの、暴力団や売春をしている女性だったんじゃないかって、あとになって私、思ったの」
「えーっ! それって、ご実家の裏で〝闇ビジネス〟が行われていたってことですか!」
「コロナ禍よりずっと前の話だけど。
田舎の旅館だったら、コンパニオンを呼んで接待とか普通にしていたらしいけど。
私、もっとヤバいことをしていたんじゃないかと思うの」
もっとヤバいことって……。
「でも、もし、それが事実だとしたら。
浅野先生の弱点なだけじゃなくて。
それを暴くことは、ご実家やアンズ先生自身にも、とんでもない被害が生じるんじゃ……?」
「うん。そこまでして、ママと刺し違えるかどうか、だよね……」
と言うと、黙り込んでしまった。
それで、ひとまず母親の弱みを探すため、新刊本のPRのために、実家の旅館とコラボする名目で、旅館に行って探りを入れることを花森からアンズ先生に提案したのだった。
コラボの話は、新刊本の宣伝にも実家の旅館の宣伝になるということで、母親の浅野涼子も簡単にOKを出したようだ。
アンズ先生の故郷に帰ることになったので、二泊三日のPRを兼ねた小旅行を計画する。
新刊本のPRを目的として、地元の書店でのサイン会と、地元のテレビ局、ラジオ局の番組に出演をした後で、実家の旅館「彩栄館」に泊まって、板長と料理のコラボ動画を撮る予定だ。
やる気のない老害マネージャーはついてこないので、花森がマネージャーをかねて、アンズ先生やスタッフといっしょに行動するということで許可をとった。
今日は待ちに待った! 『アンズ先生のサバイバルうま飯』の発売日だ!
本当は、都内中の歩き回って、新刊本が書店に並んでいる姿を見たかった花森だったが。
早朝から眠い目をこすりながら、アンズ先生と東京駅に集合して、新幹線で群馬に向かった。
群馬の高崎駅に着くと、そのまま駅前にある大型書店『深林堂』に直行した。
そして、お店の人に挨拶を済ませると、発売日を記念するサイン会がスタート!
サイン会には、200人以上のファンが集まってくれて、大盛況になった。
さら地元のマスコミも来てくれて、サイン会の前に囲み取材を行った。
サイン会には、芸能人としてのアンズ先生のファンはもちろん、子供連れの主婦や高齢の人まで、料理研究家としてのアンズ先生の、幅広い層のファンが多数詰めかけたのだった。
午前中から行われたサイン会が大盛況で終わると、花森は書店の店員さんたちにお礼して、アンズ先生に少しだけ時間をもらって、書店の売り場をチェックする。
新刊『アンズ先生のサバイバルうま飯』と、ララサンシャイン社から発行したアンズ先生の本が、書店の入り口付近に作られた特設コーナーで山積みなっているのを見て感動に震える。
それらを写真や動画に撮って、アンズ先生やララサンシャイン社のSNSで公開して、新刊本の発売日を盛り上げる。
そして、さらに書店の棚をチェックして、群馬のローカル情報誌が売られているのを発見した。スケジュールが詰まっているので、群馬で観光する時間などないが、こういう地方誌は、全国誌にはない魅力が詰まっているものだ。
花森は、地方に行くたびに書店に寄っては、東京では買えない地方誌を読むのを楽しみにしているので、一冊購入した。
今日はこのまま市内のホテルに泊まって、明日はテレビ局とラジオ局の番組収録に行って、夕方には旅館から迎えの車が来ることになってる。
アンズ先生のスタッフも明日から合流になるので、今日は市内のビジネスホテルに泊まり、アンズ先生お勧めのお店で名物の「水沢うどん」ほか郷土料理を堪能して、ホテルに戻ったのだった。
アンズ先生にお休みの挨拶をして部屋に戻り、シャワーを浴びて、髪を乾かしながら、さっき買った雑誌『シティ情報ぐんま』に目を通す。
群馬の飲食店やイベント情報などを読んでいると、地元にある劇団の公演を紹介する記事があった。
それは、いま高崎駅の近くの市民ホールで上映中の舞台『春にして君と別れ』の練習風景と、団長へのインタビュー記事だった。
『もう秋なのに、季節が春の舞台なんだ……。
群馬って、劇団とか盛んなのかな?』
と記事を眺めていて、劇団の稽古風景を紹介する写真に目が止まる。
『あれっ、この人、どこかで見たことある気が……』
その記事には、小さくだが花森が会ったことがある、美しい中年女性が映り込んでいた。




