第26話 マネージャーはどこ?
花森が、ジャスミン茶を飲みながら、無事作業が終了した新刊本の、制作にかかわる領収書を整理していると、
「ねー花森、私、超ヒマなんだけどー!」
と、アンズ先生からグチる連絡が届いた。
話を聞くと、直前の仕事がキャンセルになっていて、さらにその先の仕事の予定もなぜか全然なくて。
アンズ先生はやることがなく、SNSの投稿ばっかりやってるらしい。
そのおかげで、スイーツ系レシピの投稿が増えてきて非常に好評で、アンズ先生も以前よりスイーツのレシピに本腰を入れてくれるようになったのは、花森にとってはよかったのだが……。
新刊本『アンズ先生のサバイバルうま飯』のPRだけは、花森がマネージャー的な役割を担当していて、PR仕事はノーギャラなことも多いが、「暇だからタダでもやるー」とアンズ先生も言っているし。
花森も、初版10万部というプレッシャーがかかっているので、先輩の中沢や大手出版社所属でマスコミ関係に知り合いが多い黒川に、懇意にしているマスコミのリストをもらって連絡しまくった。
「ノーギャラでもいいので、番組に出演させてください!」
とかたっぱしからメディア関係者に連絡しまくると。
驚くほどに、先方から快諾の返信があり、さっそくテレビ番組への出演が決まったのだった。
ここはお台場にあるでっかいテレビ局。
花森が、申請した入館用のQRコードを読み込ませて入管ゲートをくぐると、さっそく見たことのあるアイドルやタレントが歩いていて、クラクラする。
今日は、朝からワイドショーに出演して、アンズ先生が「サバイバルうま飯」の実演を行う。
アンズ先生と、スタッフの安島たちがてきぱきと料理の準備やディレクターとの打ち合わせを慣れた様子でこなしていくのを、隅っこで花森が見学していると。
そこに、番組プロデューサーと広告代理店の者だというオジサン二人がやってきて、花森に挨拶してきた。
番組プロデューサーの新藤といういかにも業界人っぽいオジサンが、名刺を差し出し、
「あなたが、ララサンシャイン社の花森さん?
今回は、アンズ先生の番組出演、ありがとね!
いやー、いま話題のアンズ先生にはぜひ出演してほしかったんだよ!
……あの、今回は出版社から直に連絡が来たけど、アンズ先生の事務所のほうは大丈夫だよね?」
「はい! 本のPRについては、アンズ先生のスケジュールが空いている場合は、私に任せていただけることになっていますので」
「そうなんだ。よかった!
……実は、うちの番組はもちろん、他の番組にも出ていたきたくて、アサノ企画に連絡しても、ぜんぜん返事がもらえなくてねー」
えっ、どういうこと?
アサノ企画が、テレビ局からの出演依頼を無視しているの?
そんなこと、ありえる?
と花森が戸惑っていると。
高そうなスーツを着た、恰幅のいいオジサンが、
「はじめまして。
広告代理店のハクツーの、藤代と申します。
あの、花森さんにご相談するお話ではないかもしれませんが。
アンズ先生の事務所さんとは、ご連絡をとられてますよね?
アンズ先生のCM出演について、ご相談をしているのですが……。
アサノ企画からご返事いただけないんですが?」
なんてことを、花森に言ってくる。
さらに、アンズ先生が番組内で料理を実演したり、ゲストに試食してもらったり、コメントしたり、本の宣伝をしている間にも。
「いま話題のアンズ先生を、ぜひうちの番組に!」
という関係者が続々とあいさつに来て、困惑する一方の花森だったのだが。
番組の収録が終わり、アンズ先生と別れてお台場から神保町に戻った花森のスマホに電話がかかってきた。
アサノ企画からで、アンズ先生のマネジメントを代行している、伊地知というオジサンだ。
「花森さん! 勝手にテレビ番組への出演を受けられると、困るんですが!」
と一方的に怒鳴ってきた。
内心、かなり心外な花森だったが、
「すみません、テレビ局からの出演依頼が急だったもので。
伊地知様宛てにメールは送っていたんですが、お返事がなくて。
アンズ先生に相談したら、『絶対に、出る!』っておっしゃったので……。
一応、先生のスケジュールが空いていることと、本のPRをしっかいやってもらうことは確認しましただので、私のほうで話を進めても問題ないかと思ったのですが……」
と事情を説明したのだが。
「これだから、イマドキの人は!
大事なことは、まず電話で確認しょう!
今回はしょうがないけど、次からは気をつけて下さい!」
「あ、あの。そのほかのオファーについての……」
と花森が別件の出演依頼などの相談をしようとした瞬間、一方的にスマホが切られたのだった。
なんだ、この老害マネージャーは!
と憤る花森だったが、どうやら母親の事務所が、なぜかアンズ先生への出演オファーを断りまくっている様子なのだ。
心配になって、そのことをアンズ先生に報告すると……。
アンズ先生から、
「花森、今日時間ある? 私の家に来れる?」
と、返信があったのだった。




