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第25話 初版10万部!?

 あと数日で新刊本『アンズ先生のサバイバルうま飯』の編集・制作がもうすぐ終わるタイミングで、花森が部長の山下に会議室に呼び出された。

 用件は、新刊の初版部数が、社内の会議で正式決定したという話だった。 


「初版10万部!? 10万部ですか? 本気ですかー!!!」

と、今回の本の初版部数を聞かされて、驚きを隠せない花森だった。


「本気だ。

 本当は、書店から殺到した注文に答えるには15万部以上必要なんだが。

 ウチが取れるリスクをギリギリ考えた末、営業部が出した結論だ。

 初動によっては、即・重版も考えないとな!

 アンズ先生や印刷会社に、正式決定として伝えてくれ」

と説明する部長の山下。


「あの私、自分がメインの企画で本を出すの、この本が初めてなんですが!

 大丈夫なんでしょうか……」

と自信なさげに答える花森だったが。


「大丈夫。料理本のヒット作なら、最近でも30万部を超えているものもある」

「それって、年間一位のレシピ本とかのお話ですよね!

 ただでさえ、今回は『サバイバルうま飯』なんてトリッキーな企画なんですが!

 アンズ先生の前の本だって、確か累計5万部ぐらいでしたよね!」


「だから、本の内容も大事だが、PRも頼んだぞ!

 アンズ先生にもPRを強くお願いしてくれ!」


『頼んだぞって……。それは、会社がやってよー!』

と心の中で叫ぶ花森だった。


 昨今の出版不況の中で、新刊本の初版部数のあまりの多さに驚いた花森だったが、それだけアンズ先生の知名度が上がっていて、書店からも期待されているということで、期待に応える本を完成しないと! と心に誓う花森だった。


 そして、かなりの突貫工事になったものの、新刊『アンズ先生のサバイバルうま飯』はとても素晴らしい内容になり、 なんとか無事に完成データを印刷会社に納めることができた。


 コンセプト通りのレシピに鮮やかで美味しそうな料理の写真。

 表紙はアンズ先生の美しいお顔と鮮やかな料理の写真で、内容の充実ぶりと、美しくてオシャレなカバーデザインと、花森が持てる力を全て注いだ一冊になった。


 あとは本が印刷会社から出来上がってくるのを待つのみ、となった花森は、アンズ先生に作業完了を報告しようと、塚本マネージャーに連絡したのだが、なかなか返連絡がつかない。

 もちろんアンズ先生の連絡先も知っているが、礼儀として事務所に電話したところ、スタッフのほうから、

「ここ数日、塚本さんと連絡がつかなくて。花森さん、なにか知りませんか?」

と逆に聞かれたのだった。


 そこからさらに数日間、塚本マネージャーと連絡が取れず、ついには業務にも支障が出てきた。

 花森が心当たりをかたっぱしから当たってみると、この数日、まったく姿を見せていないことがわかったのだった。


 それで、塚本マネージャーは見た目は若いが意外と年齢がいってるので、まさか……と思いながら、事務所のスタッフと一緒に、塚本マネージャーの自宅マンションに行って、事情を話して管理会社に連絡して、自宅の鍵を開けてもらった。

 万一、死んでいたりしたら……と、怯えながら部屋に踏み込んだ花森たちの目に飛び込んできたのは!


 綺麗に整理整頓された部屋のテーブルに置かれた、

「事務所を辞めます。

 探さないでください」

とだけ書かれた置手紙だった……。


 マンションには、もう一枚、管理会社宛ての「しばらく留守にします」という置き手紙があって、半年分の家賃が振り込まれていたのだった。


「えっ、なにそれ? どーいうことー?

 塚本が失踪したってこと?」

と電話口で怒鳴ってくるアンズ先生に。

 花森が耳を押さえながら、

「私に言われても……。先生は何かこころあたりはないですか?」


「はー! あんた、私が原因で逃げったっていうのー!」


「い、いえ。そんなことは……。

 ただ、以前そういうスタッフもいたらしいって、聞いたことがあったので」

と花森が言うと、

「塚本は、私が子役のころから、母親代わりに私の面倒を見てきたのよ!

 イマドキの、若い、根性のないスタッフなんかと、いっしょにしないで!」

とさらに激昂したアンズ先生が、どなり散らかしてきた。


「ねー! 花森! 聞いてるー!」

「はい! 聞いてます!

 いったん会社に戻ってから、事務所に伺いますので、対策を考えましょう!」


 そういって電話を切ると、花森は、塚本マネージャーのメモを写真に撮って、刑事の鴻上に送り、部屋を出て管理人にお礼を言って、会社に戻ったのだった。


『このタイミングで、塚本さんが失踪するって、いったいになんなの?

 確かにいろいろと忙しかったけど、アンズ先生が言うように、私にも心当たりがないんだけど!』


 さらに調べてわかったことがあり、アンズ先生の直近の番組出演などのスケジュールが塚本マネージャーによって、全てキャンセルされていたのだった。

 塚本マネージャーは、アンズ先生と同じ群馬県出身で、実家にも連絡したが帰っておらず、「娘からは、もう何年も連絡がない」との返事だった。


 失踪は計画的で、事件性はなさそうな雰囲気で、失踪届など、どうするべきかを話し合ったのだが。

 塚本マネージャーは、もともと母親の大女優、浅野涼子の付き人だったので、母親の芸能プロダクションである「アサノ企画」に相談することにしたところ。

 あまり騒ぎ立てるとアンズ先生の芸能活動にマイナスになるし、業界関係者が突然いなくなることはよくあることだそうだ。


 こういう事態に慣れているということで、塚本マネージャーの捜索は、アサノ企画のほうで対応してくれることになった。


 また、当面のマネジメントも、アサノ企画が窓口を担当してくれることになったのだが……。

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