第23話 条件
記者会見からさかのぼる数日前の、アンズ先生の事務所で。
アンズ先生の目の前には、部長の山下と、加藤と、花森と、もう一人が座っていた。
「説明の連絡は、もらったんだけど。ええと、話を整理すると。
そもそもは、私と中沢さんとのオンライン打ち合わせ中に、私が思いついたレシピを中沢さんにメモしてもらって?」
とアンズ先生が話を切り出すと、
「はい、付箋にメモした中沢がそれを机に貼って席を離れた間に、こちらの加藤が無断で撮影して、自分のSNSに投稿したそうです」
と山下が説明する。
同行した加藤が平身低頭で頭を下げて、
「申し訳ございません!
そのころは編集者としての自覚が足りず、権利意識も薄く、SNSの怖さもわかってなくて!
そのころは個人のSNSアカウントに、メモ代わりに気に入ったレシピを投稿していて。
てっきり中沢さんのレシピだと思って、メモを撮影して投稿したこと自体、忘れてて……。
その後、だんだん自分のSNSが問題になるかもしれないと思うようになって。
アカウントを削除したので、大丈夫だと思っていたんですが……」
と事情を説明すると、山下からも補足が入る。
「中沢は盗撮に気づかず、レシピは弊社の本では採用しなかったので、アンズ先生に使わないことをご報告して、レシピの情報もお戻ししたそうです」
「そうね。そんなこともあったかもしれない。
それで、私が未使用ストックのレシピの中から、芸文館の『映える! 中華風カンタン節約レシピ』で、そのレシピを使った、と。
で、それがどうして、今になって盗作扱いされてるわけ!?」
「それは、こちらの料理研究家のOCHAN.による投稿が原因でした」
そう山下が説明してOCHAN.を紹介すると、キッと睨みつけるアンズ先生。
昨日、警察を保釈されたばかりで、アンズ先生におびえているOCHAN.先生に変わって、花森が説明する。
OCHAN.先生は、レシピを集めてデータベースに保存して分析するのが趣味で、一年前に問題になったレシピを入手していた。
またアンズ先生の大ファンで、レシピ本も毎回購入していたため、最新刊で『このレシピはどこかで見たことがある』となり、アンズ先生が盗作したものだと思い込んだこと。
さらに、コスモス出版から発売する予定だった自分のレシピ本の企画がポシャって、アンズ先生の新刊の本が出るらしいという話を聞きつけて。
盗作しているアンズ先生が新刊を出せて、自分は本が出せなくなったことに逆恨みし、「アンズ先生がレシピを盗作している」という投稿を行ってしまった、と説明した。
ちなみに、OCHAN.先生が花森たちに下剤入りのスムージーを飲ませた件は、話がさらにややこしくなるので、黙っていた。
「な・る・ほ・ど・!
どういう流れで、私が盗作犯呼ばわりされたのかは、わかったわ。
それでこの件は、いったいどう解決するつもりなのよ!」
とお怒りのアンズ先生に対して。
山下が平身低頭しながら、今後の計画を話し出した。
「まず、加藤の件ですが。
もちろん! 加藤のしたことは許されないことです。
ですが、中沢の復帰がいつになるかわからない状況でして。
いま、加藤にまで抜けられると、弊社の料理本の編集部が花森一人になりまして……。
つきましては、レシピの流出は弊社の管理責任ということで、誰が流出させたのかといった詳細の公表は控えさせていただきたく……」
「はぁっ!
何、都合のいいこと言ってるのよ!」
とエキサイトするアンズ先生に、恐縮する一同。
そこで、アンズ先生の強い視線が花森に向かい、
「あんたは、どう思うのよ、花森!」
と聞いてきた。
「正直、私も今回が初めて自分の企画を担当することになりまして……。
いろいろと加藤さんにフォローしていただきながら、編集・制作の真っ最中で。
なので、いま加藤さんに抜けられるのは、ちょっと……」
と、おそるおそる花森が答えると。
「ふーん、そうなの!
じゃあ、まあ加藤のことはいいわよ。
そのかわり、ララサンシャイン社のミスでレシピが流出したってことは、ちゃんと説明してね!
山下さん、私の配信チャンネルで記者会見を開くから、あなたに説明してもらいますからね!
これって、でっかい貸しにするからね!」
と山下に詰め寄る。
「は、はい。わかりました。
ご理解いただきまして、ありがとうございます!
それで、OCHAN.の件ですが……」
「OCHAN.だっけ? あなたのSNSとか、見せてもらったわ。
ずいぶん勉強熱心な人みたいね。ていうか料理オタク?
料理にのめり込んでいるのが、SNSからも伝わってくるわ。
……あなたは、私と一緒に記者会見で顔出しして、謝罪するのよ!」
と、OCHAN.先生に向かって言う。
「ええっ! 申し訳ございません!
賠償しますので、顔出しは勘弁していただけませんか!
私、料理しかできないんです!
顔出しして料理研究家ができなくなってしまうと……」
「あんた! 自分が何をしたのわかっているの!
私に〝レシピを盗作した〟って濡れ衣を着せたのよ!
私にとってレシピは、作品、わが子みたいなものなの!
それを、あなたは汚したのよ!」
「本当にすみませんでした! ごめんなさい!」
といってついに泣き出す、OCHAN.先生。
それに対して、
「OCHAN.さー。わかってないなー」
とアンズ先生が話し始めた。




