第20話 料理教室に潜入!
長身で大柄のOCHAN.先生は、料理教室に恋人同士と偽装して応募してきた花森と黒川の二人に、ニコニコと愛想よく対応する。
「お二人は普段、料理するんですか?」
「はい! 元々は私が料理好きなんですが、もっとちゃんと勉強してみたくて。
それで、彼も私の影響で、最近自炊するようになったので。
今日、たまたま二人とも急に休みになって、特に予定もなかったので。
前から体験してみたかった、こちらの体験レッスンに応募したんです!」
と花森がハキハキと答える。
「そうだったんですね!
じゃあ、今日は〝オーガニックスパイスカレー〟を作ってみましょう!」
と準備を始めるOCHAN.先生に、事前に黒川にはOCHAN.先生の注意を引いてもらうことをお願いしていたので、
「カレーをスパイスから作るの初めてで、とても楽しみです!」
と、大きな声で調子のいいことを言う。
「今日はオーガニックスパイスカレーの予定だけど、大丈夫?
あなた、かなり体を鍛えているようだけど、オーガニックは止めて、お肉かお魚を入れたカレーにしましょうか?」
「いやー、普段タンパク質ばっかりとってるので、食物繊維のみで美味しく食べれるのなら、ありがたいです!
あれ、この野菜、見たことないんですけど?」
「ああこれは……」
なんて調子で会話が弾むので、声が大きくて社交的な黒川が付いてきてくれて助かる花森だった。
平日に急な花森からの依頼で、同行してくれた黒川だったが、黒川自身がアンズ先生の新刊を狙っていて諦めてないので、「アンズ先生の名声に傷がつくのは困る」と言う理由だ。
それで花森は、
「おトイレをお借りしていいですか?」
「はい一階の廊下の奥にあります」
とトイレを借りるふりをして、静かに階段を上がって、2階の部屋の様子を探る。
1階から黒川の大きな声が漏れ聞こえてくる中、音を立てないように静かに部屋を確認していくと……あった!
盗作を告発した匿名アカウントが載せていた画像に映っていたカーテンとテーブルと同じ柄だ!
匿名アカウントが投稿した画像は、この部屋で撮影されたんだ!
そう確信した花森は、さっそく証拠を撮影して、OCHAN.先生を問い詰めよう!
と思ったその時。
1階で、ドタバタと音がした! そしてすぐシーンとなると、階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた!
そして、部屋にヌッとOCHAN.先生が入ってきて、
「何やっているんですか、花森さん」
と花森に話しかけた。
『花森さん!?
おかしい! 私、偽名を使っているのに!
なんで、OCHAN.先生が私の名前を知っているの!』
と花森は動揺しつつも、
「アンズ先生の盗作疑惑を投稿したのは、OCHAN.先生、あなたですね!」
と叫んで、例のアンズ先生が盗作したと告発した投稿を見せると、
「なんのことですか?」
とOCHAN.先生がしらばっくれるので、
「とぼけないで!」
と、そのアカウントの、ほかの投稿を見せる。
「盗作疑惑を告発した人の、この投稿!
ここに映っている部屋のテーブルと、今いる部屋のテーブルが、同じものですよね! ここに映っているカーテンも、いっしょです。
ほら、他の投稿にも、この部屋にあるものと同じものが映っています!
これらの投稿って、OCHAN.先生がこの部屋で撮影して投稿したものですよね!」
と告発すると、OCHAN.先生の顔がこわばる。
だまったまま、にらみ合う二人。
そこで、花森がハッとして、『そういえば黒川さんは、いま何をしているの?』と気になりはじめた……そのとき!
花森の腹部を、急な激痛が襲ってきたのだった!
うっ、痛い!
おもわず、その場で床に倒れ込んだ花森を見下ろしながら、
「やっと効いてきたわ。うーん、個人差が大きいな。
黒川さんは、すぐお腹が痛くなったのに」
と平然と言う、OCHAN.先生。
『黒川? なんでOCHAN.先生は、黒川さんの名前も知っているの?』
と思いつつも、痛みが増す腹部に、花森はいますぐトイレに駆け込みたい衝動に襲われたが。
そうなった理由を、OCHAN.先生が教えてくれた。
「お出ししたスムージ、おいしくなかったでしょう?
食べ合わせの悪い食材を数種類ほど混ぜて、それに私が使っている下剤をたっぷり入れたから。
レシピ本の編集者なのに気づかないなんて、まだまだですね、花森さん」
「『花森さん』って、なんで私の名前を……」
「だって、あなた。
アンズ先生が甲殻類アレルギーで倒れたときに、配信に顔が映っていたじゃないですか。
もう一人は、MARUYAMA社の黒川さんですよね?
私、各出版社の料理本の編集者さんはチェックしているので、最初からバレバレでしたよ」
そ、それで、食べ合わせの悪い食材と下剤入りのスムージーを作って、私たち二人に飲ませたの!?
「く、黒川さんは……」
「お腹を押さえて苦しみ始めたんで、トイレまで連れて行って、スマホを奪って、そのまま閉じ込めておきました。
私、けっこう体を鍛えているんですが、それでも暴れられて大変でしたよ。
まあ、お腹が痛くて動けなくなって、いまは声も出せなくなりましたけど」
「わ、私をいったいどうするつもりですか?
閉じ込めたって無駄です!
ここに行くことは、会社に報告しているから!」
ま、まさか殺して、この件をもみ消そうなんて考えてないよね?
と花森は恐ろしい想像をして、恐怖に震えていると……。
困った表情を浮かべたOCHAN.先生が、
「えー、どうしようかな。
私、家のインターフォンに花森さんと黒川さんの顔が映って、〝正体がばれたんだ!〟って動揺して。
焦って、とりあえず用意していたスムージーに、食い合わせの悪い食材と、私が常用している下剤をぶち込んでお出ししてみたんですけど……。
この場合、私が二人を殺さないといけないのかな……。
でも、どうやって死体を処理しよう……。
どうしたら、いいですかね…… 」
と、花森に相談してくる。
『なにそれ! この人、こわっ!
こんな大胆なことしておいて、後のこと、何も考えてなかったのー!
料理研究家って、計画性のない人ばっかりなのー!』
と花森が腹痛に苦しみながらも、行き当たりばったりなOCAHN.先生に驚きあきれていた、そのとき!
「ピンポーン、ピンポーン」
と家のインターフォンが鳴る音がした。
「え、なになに! どうしよう」
と動揺するOCAHN.先生。するとさらに、
「ドン、ドン、ドン」
とドアを叩く音がして、
「警察です! どなたかいませんか!」
と声がすると、
「助けて―!」
という叫ぶ男性の声が!
黒川だ!
そして、ドアが開く音がして、「大丈夫ですかー」と言う声と、ドタドタと音がして、
「ここでーす!」
という黒川の声が聞こえてきた。
それを聞いて、顔色が真っ青になるOCHAN.先生。
そこで、花森がなんとか声を振り絞って、
「OCHAN.先生、取引しましょう……」
とつぶやいたのだった。




