第18話 レシピを撮影したのは……
サトウから、内部の犯行の可能性を問われて、
「同じ編集部に、料理本を担当している先輩がいて。
今お聞きした条件が、すべて当てはまります。
でも、まさか……加藤さんが……」
と花森が答えると。
「もちろん、もっと時間や方法を変えて調査できます。
ただ、その女性が犯人かそうでないかを、はっきりさせたいと思います。
なにか別の材料はありませんか?」
とさらにサトウが聞いてくる。
別の材料と言われても……。
あっそういえば! 問題の投稿に映っているメモは「手書き」だった。
ということは!
なにかを思いついた花森は、いったん会社に戻ることにした。
サトウと黒川と別れて会社に戻ると、今日は加藤も出社していた。
そして、夜になって加藤が先に退社し、社内に残っているのが、自分だけになったところで……。
隣の机に貼られた付箋紙を、数枚スマホで撮って、サトウに送った。
少ししてサトウから、解析結果が花森に送られてきたのだった。
次の日。
朝一で会社に出社した花森が、部長の山下にサトウの解析結果を報告する。
そして、山下が会議室に加藤を呼ぶ。花森も、同席している。
「加藤、SNSにこの投稿をしたのは君だな」
と言って山下が、会議室に入ってきた加藤に、SNSに投稿された「手書きのレシピのメモ」の画像を見せる。
すると、信じられないという表情で、
「私のことを疑っているんですか!
私、そんなことしていません!」
と加藤が叫ぶ!
「いいか、加藤、落ち着け。
生成AIで筆跡鑑定した結果、この手書きのメモは、〝 中沢 〟 が書いたものだということがわかったんだ」
と山下が状況を説明し始めた。
そう、花森はてっきり加藤がメモしたものだと思い、会社机の上にあった加藤の手書きメモや原稿に入れた赤字などを撮影して、サトウに送ったのだが。
ふと、ひょっとして……と休職中の中沢の席から、中沢の筆跡がわかるメモも撮影して送ったところ、まさかの「中沢が書いたメモ」だったことが判明したのだった。
その結果からわかったことは、このメモは、アンズ先生が中沢とのオンラインでの打ち合わせ中に思いついたレシピを話し、それをその場で中沢が手書きでメモしたものだった。
花森が、まだ療養中の中沢に連絡して確認したところ、打ち合わせのときにアンズ先生がレシピを思いつき、それを中沢がメモして後でその内容を先生に送る、ということはよくあったらしい。
そのレシピ自体は、本のコンセプトが合わなかったので、ララサンシャイン社の本では使われなかった。
それで、その使われなかったレシピが、アンズ先生のレシピのストックとして、今回の本で使用されたことが判明したのだった。
「だが、もちろん、中沢はそのメモをSNSにアップなどしていない。
本に載せるかもしれないレシピを、流出させることなんてありえないからな。
だから、別の人物がメモを撮影して、流出させたことになる」
と言って、山下が加藤を見ると、おびえた表情を加藤が浮かべる。
「アンズ先生と中沢が打ち合わせした日は、中沢の出社日で、自分の机でオンラインでアンズ先生と打ち合わせしたそうだ。
そして、アンズ先生からレシピのアイデアの話がでたとき、このレシピを付箋にメモし手机に貼ったそうだ。
加藤、その日は君も出社していてアンズ先生と中沢がオンライン会議をしているのを、横で聞いていたはずだ。
そこで、中沢が席を外したタイミングで、メモを撮影して自分のSNSにアップしたんじゃないか?」
「そんなこと、私してません!
それに、中沢さんの机の上に貼られたメモなら、私以外にも撮影して投稿できたはずです!」
と言うと花森を、お前が投稿したんじゃないのかといった感じで、加藤が睨みつけた。
「それがな、加藤。
中沢のメモは、オンライン会議が終わってから、中沢が食事に行って戻ってくる間だけしか、撮影できるチャンスはなかったそうなんだ。
犯人は、SNSで定期的に料理のことや出版のことを投稿している人物で、アンズ先生と中沢のオンライン会議が終わった直後、オフィスに残っていた人間だ。
そうなると、該当するのは加藤、君しかいないんだ」
「私、私……」
「加藤、悪いようにはしない。正直に言ってくれ。
アンズ先生のレシピを盗撮してSNSに投稿したこと自体はよくないことだ。
だが、それをここまでの騒ぎにしたのは、別の投稿者だ。
だから我々としては、できるだけ穏便に済ませたいと思っている」
そう山下が加藤を諭すと。
加藤が「申し訳ございません!」と言って泣き出した。
そして、真相を告白し始めたのだった。
「……私、日常的に本やネットで、レシピを集めていて。
気に入ったレシピはスマホで撮影してSNSにアップするのが癖になってて。
あの日も、横で打ち合わせを聞いてて、中沢さんが何か付箋にメモしたのを見て。
それで、中沢さんが席を外したときに『面白いレシピだなぁ』と思って、会社に誰もいなかったので、参考にしようと思って撮影したんですが。
つい癖で、SNSに投稿しちゃって。
あのアカウントは匿名で作ったアカウントで、ほとんどフォロワーもいなくて、メモ代わりに使っていたものです。
それで、『いいね』もついてないし、問題にならないかと思ってそのままにしていて……。
それからしばらくして、知り合いの先生がレシピの盗作で問題になったときに、急に自分の投稿が問題になるんじゃないかとこわくなって、アカウントごと消しちゃったんです。
まさかその投稿が、スクショされて残っていたなんて……」
「そうか! そうだったのか! よく告白してくれた。
あのレシピが盗作ではないことがわかっただけでも、よかった!
これで、この問題は収束できるぞ」
とホッとした表情になる、山下と花森だった。
それで山下が、
「レシピは間違いなくアンズ先生が作ったもので間違いなく、それをララサンシャイン社が、誤ってネットに流出してしまったものだ、と公表する。
これは会社の情報管理の問題で、アンズ先生への謝罪とお詫び記事の掲載を行う。ただし、流出した人間の名前は公表しない、という方向で話を進めよう」
と話を待めると、
「社長には俺から報告するから。加藤はいっしょにこい。花森はここで待ってろ」
と言って、加藤を連れて会議室を出て行った。
えー、大丈夫かなー。こんな幕引きでアンズ先生が納得するかな? と不安に思いながらも、花森はサトウに最初に投稿したのが自分の会社の加藤だったことを報告したのだった。
すると数分後に、佐藤から「もう一人の犯人がわかったかもしれない」という連絡があったのだった。
「花森さん、どうします? 調査料金が倍になりますが、二人目の犯人も知りたいですか?」
「もちろんです!」
と連絡して、慌ててファミレスに向かう、花森だった。




