第17話 盗作騒動の犯人は誰だ?
アンズ先生とのオンライン会議が終わると、すぐ部長の山下が話し出した。
「もし裁判になったら、結論が出るのにどれくらいの時間がかかるか……。
アンズ先生のイメージだって、どうなるかわからない。
そうなったら、本だって出せるかどうか、わからなくなる。
最悪、出版停止も検討しないといけなくなるぞ」
なんて、恐ろしいことを言ってくるので、ひとまず鴻上刑事に相談した、花森だった。
すぐに鴻上から返信があり、
「大変なことになってるね。
民事不介入なんで、僕は直接協力できないんだけど。
今回の件にうってつけの人を紹介できるんだけど。
ただ、結構お金が必要になるよ。会社の経費で落ちるかな?」
ということだったが。
「私の初めての本が出せるかどうかが、かかっているんです!
この際、なんとしても領収書を落としてもらうので、紹介してください!」
と鴻上に泣きつき、ネット犯罪に詳しい人物を紹介してもらったのだった。
それで、鴻上が忙しくて動けなかったので、大手出版社、MARUYAMA社の黒川をボディーガード代わりに呼び出して、紹介してもらった人物と待ち合わせしたファミレスに向かったのだった。
指定されたファミレスに行くと、店内の隅っこの暗がりの席に、目の前にノートパソコンを置いて、黒いフードに、サングラスに、マスクという、怪しげな男が座っていた。
そのいかにもという人物に花森が話しかけた。
「えーっと、あなたがサトウさんですか」
「ああ、花森さんですね。お隣が黒川さんですか?
私がサトウです。
鴻上刑事からお話は聞いています。
普段お世話になっている刑事さんからの相談なので、協力させていただきますが。
ネットに匿名で投稿をしている人間を、特定したいんですよね。
まずは、いまわかっている情報をすべて教えてください」
とサトウが言う。
それで、さっそく、
・投稿されたレシピの画像
・それを投稿したアカウント
・その投稿を使って、アンズ先生の盗作疑惑を告発したアカウント
の説明をする。
さらに、アンズ先生の基本情報と、盗作したレシピが載っているとされた新刊本を差し出し、いろいろと状況を補足した。
「なるほど。
……刑事さんから私のことをどう聞いているかわかりませんが。
ネット上で、匿名で活動する人間を特定して、その情報を売る仕事をしています。
今回は、
・最初にレシピの写真を、ネットに投稿した人物
・その投稿をスクショして、盗作だと騒ぎ立てた人物
この二人を探す仕事ですね」
と状況を整理してくる。
「それなら、まず〝レシピを投稿した人物〟をプロファイリングしましょう。
こちらがフェイク画像だとわかれば、それで終わりですし。
本物だったとしたら、その人物と画像の取り下げについて交渉するべきでしょうから」
「はい。まずは最初の投稿者の特定でお願いします」
「ただ、レシピの写真を投稿したアカウントは、もう削除されているので、難易度があがりますね。
アカウント名とネット上の痕跡から、どこまで人物の特徴を拾えるかがカギになります」
そう花森に言うと、サトウがノートパソコンに向かって、しばらく作業を行った。
数分の時間が流れ、サトウが顔を上げて話かけてきた。
「削除されたアカウントですが、匿名ですが、捨て垢とかじゃなくて、意外と長く使われていましたね。
有名人が作った裏垢でもなさそうだ。
単に、一般の人が匿名で使ってて、ときどき動かしていたアカウントですね。
いま拾えた情報を、生成AIに読み込ませて、人物像を解析します」
と言って、またノートパソコンで作業しながら、ついでにいろいろ教えてくれる。
「いやー、AIのおかげで、この手の調査が格段に楽になりました。
匿名アカウントでも、投稿の内容から、その性別、年齢、所在地、職業など、かなり正確に分かるようになったんです。
アカウントが削除されてなくて、今でも使われていたら、一瞬で正体がわかったはずなんですが」
などとと言いながら、しばらく画面を見つめていたが、
「出ました。
犯人は、都心で働いている20〜30代の女性である可能性が高いです。
神保町駅近くに勤めている会社員で、自宅は北千住以降の千葉方面の駅近くに住んでいる。
通勤圏は1時間ぐらいで、職業は料理関係か出版関係、あるいはその両方となります」
「えっ、アカウントが削除されているのに、そ、そこまでわかるんですか?」
本当かな? と信じらないという表情で花森がサトウに聞くが、サングラスとマスクで表情はまったくわからない。
「アカウントを消しても、ネットでの行動の足跡、たとえばネットでやり取りした相手のところに残っています。
共有された投稿が画像で残ってたりもするんです。
それを生成AIが分析させるんです。
やり取りしている内容から、性別、年齢、一人暮らしか実家暮らしかどうかがわかる。
他人の投稿へ反応した時間や残っている足跡から、その行動範囲、生活空間、生活パターンを分析できます。
この人物ですが、土日は都内のお店で食事しているが、平日、昼のランチは神保町に集中していて、夜は北千住以降のお店で、遅い時間に食事しがちです。
そして、よく経費で食事していることを匂わせて、似たような料理好きの仲間に対してマウントをとっている。
おそらく、料理関係の仕事をしているか、グルメライターなどのメディア関係者かもしれない。そのほかの情報から、会社員であることは間違いないです」
「生成AIってそんなことまでわかるんすね……」
と花森はつぶやくと。
「メジャーなAIは、プライバシーや著者権でガチガチに規制されていますが、お金を積めばなんでもしてくれるAIがあるんですよ。
それに……知っていますか? AIってプログラミングができれが自分でも作れるんですよ。
自分で作ったAIなら、なんでも自由に調べることができます。まあ違法ですけどね」
と冷静に語ると、圧倒された様子の花森と黒川を見て、余談が過ぎましたと、話を戻す。
「もう少し具体的に投稿者を分析すると、
投稿日時や内容からして、平日は朝から働いていて残業も多い、土日も仕事していて、かなりワーカホリックなようです。
在宅勤務が多く、神保町のオフィスへの出社は、週1、2回と言ったところでしょうか。
投稿自体は、レシピや料理関係の投稿が多く、読書好きな一面もあり、おそらく20代で独身ですね」
「あの、それって、私の経歴に近いんですけど……。
私も、20代で、神保町にある出版社に勤めていて、料理本を担当している編集者なんです。
匿名でSNSをやっていること以外は、すべて当てはまります」
と花森が言うと、
「だったら、あなたの会社の社員なんじゃないですか?
こういう犯罪の場合、身内の犯行というのは、よくある話です」
そんな、身内なんて……。
ただ、そう思う花森だったが、そういえば! と思い当たる人物が一人、頭の中に浮かんだ。




