第12話 犯人、現る
花森とアンズ先生のところに、芸文館の的場が近づいてきて、
「あーあ、アンズ先生が死んでくれていたら、君は助けられたのに」
と悔しそうに言うと、さらににじり寄ってくる。
「的場さん……。的場さんじゃないですか!
どういうことですか?」
「本当に残念だよ。
これで二人とも殺さなければいけなくなってしまった。
この状況なら、二人が溺れ死んだことにして、私たちが見つけたことにすれば、不自然じゃないだろう? なあ?」
と言って、後ろにいる、もう一人に声をかける。
雨の中で、後ろでフードをかぶって顔を隠しているけど、レインコートの下に着ている服がちらっと見えてわかった。
コスモス出版の細井だった。
黒いレインコート姿が、さっきアンズ先生を突き落とした黒い影と重なる。
そうか、そういうことだったのか!
「あなたたちが、アンズ先生を川に突き落としたんですか!」
と花森が叫ぶ。
すると、後ろの細井が!
「ぜんぶ、アンズ先生が悪いんじゃない!
私との約束を破って、新刊本の発売をキャンセルするから!」
と叫び返した。
「そんな理由で……そんな理由で!
先生を川に突き落としたんですか!」
「新人編集者のあなたには、わからないでしょうね!
アンズ先生の新刊を出せるかどうかに、今季の編集部の数字がかかっているのよ!
数字が悪かったら、編集部から別の部署に異動になるかもしれない!
私、今こんなお遊びに付き合ってる場合じゃないのよ!」
そんな細井の言葉を受けて的場も、
「俺だってそうだ。
もうあと数年で定年だってのに、今さら新しいことに挑戦しろだぁ?
もう出版業界全体が危機かもしれないってときに、何を言ってるんだ!」
と意識のないアンズ先生に向かって、吐き捨てる。
「そうよ!
先生が、こんなおばさんと新しいことをいっしょにやろう、なんて思うわけないわ。
これは、ていいのいい、リストラ、解雇宣告じゃない!」
と細井も同調する。
「だから、二人で考えたんだ。
いま、先生が死んで、『アンズ先生・追悼フェア』を大々的にできれば、新刊が出なくても、既刊の増刷や改訂版で稼げるだろうって。
そうすれば、今期の数字も安泰。定年までの時間も稼げる。
だから、アンズ先生には死んでもらうことにした」
と言って、さらに近づいてくる的場と細井に、花森の中で激しい怒りが沸き起こる。
「ふ、ざけんなー!
お前たちは、アンズ先生の担当編集者だろう!
編集者が作家を殺そうとするなんて、何を考えているんだ! 許せない!」
と強い言葉をぶつける花森だったが、二人には響かない。
「バカな娘だ。
アンズ先生を追って川に飛び込まなければ、こんなところで死なずに済んだのに。
お前も、ここで死ぬんだ!」
と言うと、的場が花森に襲い掛かって、羽交しめにした!
「ゆり香、いまだ! アンズ先生を、川で窒息させろ!」
と的場が細井に促すと、寝そべっていたアンズ先生を、細井が川に引きづっていく。
川でちっ息させて、溺れたように偽装するつもりなのだ。
「アンズ先生!」
花森がジタバタするが、動けない!
そのとき!
小雨で暗くなった川べりに、一筋の光が差し込んだ。
懐中電灯をもって、川下から走ってくる男がいた!
鴻上刑事だ!
鴻上が走ってくると、そのまま細井に突進した!
細井がアンズ先生の体を投げ出して、倒れ込んだ。
それを見た的場が、あわてて花森を放り出して、鴻上に襲いかかったものの、鴻上が背負い投げで、的場をぶん投げた!
地面に叩きつけれられて、的場が動けなくなる。
倒された細井がよろよろと起き上がったものの、その様子を見て、その場で立ち尽くした。
鴻上が二人に手錠をかけると、花森のところに駆け寄ってきて、
「大丈夫かい!! 頭から血が出てるよ!」
と心配すると、よろけながらも、
「川の中でどこかにあたって、ちょっと切ったみたいだけど。
意識はしっかりしています。
それより、アンズ先生が! 先生が危険な状態なんです!」
と花森が伝えると、
「応援を呼んでいるから、大丈夫だ!」
と力強く言って、花森に横になるようにうながす、鴻上だった。
それから救護隊が駆けつけると、アンズ先生と花森は担架で山のふもとまで運ばれて、病院へ直行となった。
幸い、二人とも川に流されたときにあちこちを打ったケガと、少し水を飲んだりしたものの、命に別状はなく、数日間の入院で済んだのだった。




