第9話 山登り&キャンプ飯でレシピを試すんだ!
沈黙が流れた、レストラン。
気まずくなったのか、鴻上刑事から、さらなる情報がもたらされた。
「あと、塚本マネージャーも評判が良くない。
あの人、もともとは母親の大女優、浅野涼子の付き人だったらしく、ずっとアンズ先生のデビューからマネージャーをやってるらしい。
有能だけど、高圧的で、何かっていうと母親の話を出してくるから面倒くさがられている。
若そうに見えて、意外と年齢も上で、頭も硬いらしい」
「あー、なんか、わかります。
だから、あんな豪華なパーティーをやりたがったんだな。
昔の芸能界みたいで、やり口が古いんだよなぁ」
と黒川が答える。
花森は情報を提供してもらえるのは、ありがたいが、刑事がこんなにペラペラしゃべっていいのかと不安になり、
「鴻上さん、
でも、そんなに親切にいろいろと教えてくれて、大丈夫なんですが」
と聞くと、鴻上は、
「まあ、これは正式な捜査じゃないからね。いろいろと教えてもらったお礼みたいなものだよ」
と苦笑いしながら、答える。
『正式な捜査じゃない? じゃあ、なぜ調べてるの?』
という表情を花森がしていると、鴻上が、
「アンズ先生のアレルギーの件は、それほど深刻な件じゃない気がするけど。
アンズ先生のことをよく思っていない人も多いようだし。
あれだけ強く、アンズ先生が『殺されかけたんだ』って言うからには、なにかあるんじゃないかと思ってさ」
と言うので、アンズ先生のことを心配してもらっているのに、犯人捜しの件を黙っていることが、心苦しくなる花森だった。
その後は、お互いが話せる情報も尽きたので、「新しいことがわかったら情報共有しよう」ということになり、ランチ・ミーティングは終了した。
お店を出て、鴻上刑事と別れると、同行してくれた黒川に、
「お忙しい中、いっしょに来てくださって、ありがとうございます。
私一人で会って取り調べみたいになると、よけいなことを言いそうな気がして……」
と花森がお礼を言うと。
「いや、僕も犯人捜しのヒントになる話は聞きたかったし。
……よけいなことって『安島があやしい』ってこと?」
「……黒川さん、どうしてそう思うんですか?」
「塚本マネージャーやスタッフの話からすると、スタッフ以外に甲殻類エキスを混入するのは難しいってことになる。
そうなると、スタッフを常に監視していたチーフの安島が一番あやしいでしょ?
まあ、スタッフが不審者を見落としていたり、なにか別の混入方法があるかもしれないけど……」
そうなのだ。
少ない調査情報から考える限り、現時点で一番怪しいのは、「安島」ということになる。
ただ、アンズ先生とスタッフたちには強い信頼関係が築かれている気がするんだよな、と花森が考えていると。
黒川が、
「あ、スタッフ以外にもキッチンに出入りできそうな人間が……」
「え。」
「いや、なんでもない。
それじゃあ、僕こっちだから、また今度」
と言って立ち去って行った。
その後、どの出版社からも「犯人がわかった」という報告はないまま、数日が過ぎた。
するとアンズ先生のほうから、
「本のためのレシピづくりを、どんどん進めているから!」
との連絡が、全員に送られてきたのだった。
確かに「#サバイバルうま飯」というタグで、アンズ先生がバンバンSNSにレシピを投稿し始めている。
ネットでは、「死にかけた料理研究家によるネタ投稿」だと、最初は面白がられていただけだったが。
意外と「美味しい、栄養価が高い、痩せられる、鮮やかで映える」と好評で。
その反響を見ていると、花森にはますますヒットの可能性がある本の企画に見えてきた。
それで、調査に進展がないまま、アンズ先生から、
「私、『サバイバルうま飯』のインスピレーションを得るため!
今度、1泊2日で山登り&キャンプ飯作りを行います!」
との連絡があったのだった。
さらに塚本マネージャーから、
「同行したい出版社の方は、参加を希望してください」
と詳しい日程と登る山の情報が送られてきたのだた。
花森は、もちろん会社に許可をとって参加するつもりだが、登山の経験はまったくない。
あわてて、登山やキャンプ飯の本を読みあさり、ネットの動画を見て、最低限の山登りの知識を頭に入れて、登山道具を買いに、御茶ノ水に出かけた。
同じく、「山登り&キャンプ飯作りに参加することにした」と連絡してきた黒川が、登山経験が豊富だということで、登山道具の購入に付き合ってもらえることになった。
お茶の水のお店で、登山靴やリック、キャンプ飯に役立ちそうな道具などを選んでいると黒川が、
「俺、本当はこういうアウトドアやスポーツ系の本を編集したくて、MARUYAMA社に就職したんだけどなー。
その手の本は『MARUYAMA社では売れない』ってことで出さなくなってて、女性向けの実用書の編集部に配属されたんだよねー。
会社選び、失敗したー。
まあ、今の編集部でレシピ本やファッション関係の本でヒット作を出したら、その実績を引っ提げて他社に転職するつもりだから。
次は、アウトドアやスポーツ系に強い出版社に転職するために、あっちこっちに顔を出して、人間関係づくりにも励んでるし」
なんて話をしてくる。
その話を聞いて、
『へー、大手出版社のエリートで、あまり仕事にやる気がないのかな? と思っていたけど、ちゃんとやりたい本とかあるんだ』
と少し黒川のことを見直した、花森だった。




