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第7章 南の島で、溶けるほどの甘さ

旅行出発の朝。


グラシアス・タワー1203号室のベッドで、オレ——甘野杏は彰の胸に顔を埋めていた。

カーテンの隙間から朝の光が差し込み、白いシーツの上に淡い線を落としている。


彰の手は、ずっとオレの腰を優しく撫でていた。


ゆっくり。

何度も。

確かめるみたいに。


「杏」

「ん……?」


「旅行中は片時も離さないからな」


寝起きの低い声でそんなことを言われて、オレは思わず笑った。


「ふふっ、旅行前から独占欲全開?」

「旅行中だけじゃない。いつもだ」


「知ってる♡」


からかうように言うと、彰はオレの顎を持ち上げた。

そのまま、朝の光の中でキスされる。


「んっ……♡」


いつもより少しゆっくりしたキスだった。

熱いのに、優しい。


何度も唇を重ねられるうちに、胸の奥がじんわり甘くなる。


「彰……これから旅行なのに……♡」

「だからだ」


「どういう理屈?」

「行く前にも、杏をちゃんと感じておきたい」


「ほんと重い彼氏……♡」

「重くていい」


彰は低く笑い、オレを仰向けにした。

朝の光が、彰の肩越しに揺れる。


彰は急がず、何度もキスを落とした。


額。

頬。

首筋。

胸元。

触れられるたび、身体が小さく震える。


「あっ♡ 彰……♡」

「可愛い」


「朝から言わないで……♡」

「言う。杏が可愛いから」


彰はオレを抱きしめ、ゆっくり深く重なった。


「あっ……♡」


奥まで満たされる感覚に、息が甘く漏れる。

激しく急かすのではなく、深く繋がったまま、彰はゆっくり腰を揺らした。


「んっ♡ はぁ……♡ 彰、奥……熱い……♡」

「杏……」


「そんな顔で見ないで……恥ずかしい……♡」


彰はオレの唇を塞いだ。

深いキス。


奥をゆっくり擦られるたび、身体の芯が甘く痺れていく。


「あっ♡ ん、ぁ……♡ そこ……♡」

「声が変わった」


「言わないで……♡」

「もう分かる。杏が気持ちいい時の声だ」


「彰……覚えすぎ……♡」


そう言うと、彰の目が甘く細まった。


「忘れるわけないだろ」


その一言で、胸まで熱くなる。

彰はさらに深く抱きしめた。


「旅行に行く前にも、俺を覚えてろ」

「忘れるわけないでしょ……♡」


そう言ったのに、彰はさらに強く抱きしめてくる。


「足りない」

「彰……♡」


最後は、見つめ合ったまま、二人同時に甘い熱へ沈んだ。


「あっ♡♡ 彰……♡」

「杏……」


彰はオレを抱きしめたまま、長いキスを落とした。


「行こうか、杏。最高の旅行にしてやる」

「うん……最高の旅行にしてね」


「ああ。絶対にする」


****



「普通の南の島旅行プラン」


のはずだった。

少なくとも、彰は会社の手配担当にそう頼んだ、と言っていた。


けれど空港に着いた瞬間、オレは固まった。

目の前には、どう見ても普通ではない豪華な送迎車。


さらに案内された先には、プライベートジェット。

その奥には、笑顔のスタッフたち。


オレは彰の袖を掴んだ。


「彰」

「……なんだ」


「イベント会社の社員って、プライベートジェット乗るの?」


彰の肩がぴくっと揺れた。


「……たまに」

「たまに!?」


「VIP案件で、移動手段を確認することがある」

「確認?」


「現場確認だ」

「飛行機の?」


「……そうだ」

「イベント会社、範囲広すぎない?」


彰は目を逸らした。

明らかに怪しい。


でも、彰が困っている顔が少し可愛くて、オレは吹き出しそうになる。

彰はスマホを取り出し、低い声でどこかへ電話をかけた。


少し離れているけれど、怒っているのは分かった。


「おい玄太」


電話の向こうの声は聞こえない。

でも、彰のこめかみがぴくぴくしている。


「俺は普通の旅行と言ったよな」


少し間が空く。


「普通に最高級って何だ」


また沈黙。


「誰が最高のものと言った。……心の声を読むな」


オレは思わず笑った。


「彰、何か手違い?」


彰は電話を切り、仏頂面でオレから目を逸らした。


「……手違いだ」

「手違いでプライベートジェット来る?」


「来た」

「すごい会社だね、彰のところ」


「有能すぎる手配担当がいる」

「玄太って方?」


彰が一瞬だけ固まった。


「……ああ」

「電話でしか聞いたことないけど、すごい人だね」


「すごすぎて困ってる」

「でも、彰がオレに最高のものをって思ってくれたから、こうなったんでしょ?」


彰は黙った。

図星だ。


オレは嬉しくなって、彰の腕にぎゅっと抱きついた。


「ありがとう、彰」

「……まだ何もしてない」


「もうしてるよ」


彰の耳が少し赤くなった。

そういうところが、本当に可愛い。


****


南国に到着した直後、彰はオレをブティックへ連れて行った。


「水着を買う」

「うん、せっかくだしね」


オレは可愛い花柄のトランクスタイプを手に取った。


「これ、いい感じ」

「却下」


「早っ」


彰が迷いなく差し出してきたのは、前後の布面積がかなり少ない純白の水着だった。

オレは固まった。


「彰」

「似合う」


「まだ着てない」

「似合う」


「これ、けっこう攻めてない?」

「杏なら可愛い」


「彰の基準、オレに甘すぎない?」

「甘いに決まってる」


試着室で着替えて出ると、彰の目が一瞬で変わった。

鋭くて、熱い。


完全に理性を削られている顔だった。


「……最高だ」

「やっぱりそういう目で見てる!」


「悪いか」

「悪くないけど、ここ店だからね♡」


彰が一歩近づいてくる。

オレは慌てて後ずさった。


「待って待って、さすがにダメでしょ♡ こんな所で欲情しちゃ♡」

「……悪い、ついな。南の島だから?」


「南の島のせいにしない」

「ははは、反省するよ」


「絶対してない顔」

「少しはしてる」


「少しなんだ♡」


二人で笑う。

楽しいバカンスの始まりだった。


****


ビーチに出ると、海は信じられないくらい綺麗だった。


真っ白な砂浜。

透明な青い海。


空は高く、雲は柔らかく流れている。

オレは水着姿のまま、思わず海へ駆け出した。


「彰、見て! 水、めちゃくちゃ綺麗!」

「転ぶなよ」


「子供扱いしないで♡」


振り返って笑うと、彰がオレをじっと見ていた。

その視線があまりに熱くて、顔が赤くなる。


「な、なに?」

「他の男に見せたくない」


「またそれ♡」


ちょうどその時、少し離れた場所にいた男性スタッフが、オレの水着姿を見ていた。

彰の表情が一瞬で険しくなる。


すぐに自分のパーカーをオレの肩へかけた。


「杏、着ろ」

「暑いんだけど」


「だめだ」

「彰、顔怖い♡」


「見られた」

「その水着選んだの彰でしょ!」


「選んだのは俺が見るためだ」

「理屈が重い!」


そう言いながらも、胸は少し嬉しかった。

けれど、オレだって黙っていない。


今度は、現地の女性スタッフが彰の鍛えられた上半身へ熱い視線を向けているのが見えた。


濡れた髪。

広い肩。

引き締まった身体。


腹が立つくらい、かっこいい。

いや、腹が立つ。


オレは彰の手首を掴んだ。


「こっち来て」

「杏?」


「いいから」


ビーチの裏手、岩陰まで連れていき、オレは彰を壁際へ押し付けた。


「……見られてた」

「何を」


「彰の体」


彰が一瞬きょとんとする。

それから、低く笑った。


「嫉妬か?」

「悪い?」


「最高に可愛い」

「笑わないでよ……♡」


彰の手がオレの腰へ回る。


「杏」

「ん……」


キスされた。

潮風の中で、濃くて甘いキス。


「んっ♡」


オレの嫉妬を、全部食べられるみたいなキスだった。

今度は、彰がオレを岩陰に押し倒し、耳元で囁く。


「ここならいいだろ? 誰も見てない」

「……もう♡そういう問題じゃ」


「じゃあ、どういう問題」

「雰囲気♡」


「ああ、雰囲気ね。愛しているよ、杏」

「だから、ちが♡……う……はあっ♡」


彰の唇が首筋へ落ちる。

抱きしめられるだけで、身体の奥が甘く疼いた。


「彰……近い……♡」

「もっと近くに来い」


「これ以上?」

「足りない」


「ほんと重い……♡」


波の音に混じって、オレの甘い声が少しだけ漏れた。

彰は深くキスをしながら、オレを包み込む。


熱い指先。

重なる吐息。


南の島の空気まで、甘く溶けていくみたいだった。


****


午後、ホテルのラウンジで南国スイーツを食べた。


マンゴーのタルト。

ココナッツクリームの小さなケーキ。

パッションフルーツのソースがかかったパンケーキ。


オレはフォークを持ったまま、思わず真剣になっていた。


「このココナッツクリーム、パンに入れたら夏限定で売れそう」


彰が少し呆れたように笑う。


「旅行中まで研究か」

「だって夢だもん」


言ってから、少し照れた。

でも、これは本音だった。


いつか自分だけのクリームパンを作りたい。

ふあふあベーカリーで試している味も、学校で学ぶことも、こうして旅先で出会う甘さも、全部そこへ繋がっている気がする。


彰はしばらく黙ってオレを見ていた。


「そういう顔をしている杏は、いいな」

「どういう顔?」


「前を見ている顔」

「なにそれ。急にかっこいいこと言う」


「本当のことだ」

「じゃあ、彰も食べて。感想ちょうだい」


彰は素直にフォークを受け取った。


「どう?」

「甘い」


「それ以外!」

「杏の方が甘い」


「感想係失格♡」


オレが笑うと、彰も少しだけ笑った。

その横顔が、眩しいくらい優しかった。


****


最終日。

オレたちは船で二人だけのプライベートアイランドへ移動した。


アイランドに到着した瞬間、そこは本当に世界に二人だけの楽園だった。


真っ白な砂浜。

透明な海。

誰の気配もない静けさ。


風の音と、波の音だけが聞こえる。

シュノーケリングの後、浅瀬に戻ってきた瞬間、彰の目が獣のように鋭くなった。


「杏……もう我慢できない」


低い声に、身体がぞくっと震えた。

彰はオレを抱き寄せ、波打ち際の浅瀬で強く抱きしめる。


「彰……ここ、外……♡」

「誰もいない」


「でも……」

「嫌ならやめる」


すぐにそう言われて、胸が甘く痛んだ。

彰は強引に見えて、こういうところで必ずオレを見る。


オレは彰の首に腕を回した。


「……嫌じゃない♡」


彰の目が熱く細まる。

次の瞬間、深くキスされた。


「んっ♡」


波が足元を洗う。

濡れた肌が触れ合う。


太陽の熱と、彰の体温で、頭がぼうっとする。

彰はオレを抱きしめたまま、深く重なった。


「あっ♡♡ 彰……深い……♡」

「杏……」


奥まで満たされる熱に、身体が大きく震える。

波の音に紛れて、甘い声が漏れた。


「はぁっ♡ あっ♡ 奥……熱い……♡」


彰はオレの腰を支えながら、ゆっくり、でも逃がさないように奥を擦る。


「あっ♡ んっ♡ だめ……そこ、好き……♡」

「もう分かる」


「え……♡」

「杏が好きなところだろ」


「言わないで……♡ 恥ずかしい……♡」

「隠しても、声で分かる」


「彰……意地悪……♡」

「可愛いからな」


潮風。

波音。


重なる熱。

全部が混ざって、現実じゃないみたいだった。


奥を擦られるたび、前にも甘い熱が走る。


「あっ♡ 彰……前も……奥も……おかしくなる……♡♡」

「可愛い」


「言わないで……♡ だめ、声……出ちゃう……♡」

「出せ。ここには俺しかいない」


「彰……っ♡」


身体が甘く震え、何度も熱に呑まれそうになる。

彰は途中で動きを緩め、オレを抱き起こした。


対面で抱き合う形になる。

深く重なったまま、彰の腕がオレの背中を包んだ。


「泣いてる」

「だって……気持ちよくて……幸せで……♡」


「可愛い」


彰はオレの涙を舌でそっと拭うようにキスした。


「杏、俺を見て」

「ん……♡」


目が合う。

胸が締め付けられる。


「好きだ」

「オレも、彰が好き……大好き……♡」


彰はゆっくり奥を擦り上げる。


「あっ♡ はぁ……♡ 彰、深い……♡」

「ずっと抱いていたい」


「オレも……もっと、ぎゅってして……♡」


彰はオレを強く抱きしめた。

そのまま何度も、深く甘い熱に沈んでいく。


「あっ♡ あ、ぁ♡ 彰……♡♡」


奥を擦られるたび、身体が甘く震えた。

何度も名前を呼んで、何度も抱きしめられる。


最後は、波の音の中で、二人同時に深い絶頂へ溶けていった。


「はぁっ♡♡ 彰……♡」

「杏……愛してる」


オレたちは砂浜に倒れ込み、互いの体温を感じながら、長いキスをした。

この瞬間が、永遠に続けばいいのに。


本気でそう思った。


****


夕方。

ヨットでサンセットクルージングに出た。


船上のテーブルには、綺麗に盛りつけられたディナー。

グラスにはシャンパン。


沈みゆく太陽が、海を金色に染めている。

オレは彰の隣に座り、肩へ寄りかかった。


「彰……この旅行、本当に忘れないよ。一生の思い出だ」


彰はオレの手を握った。


「俺もだ」

「全部楽しかった。プライベートジェットも、手違いの最高級リゾートも、海も」


「手違いと言っただろ」

「うん。彰の重い愛が起こした手違い♡」


「否定しづらいな」

「否定しないんだ」


彰は少しだけ笑った。

その顔が、夕日に照らされて綺麗だった。


彰はオレを強く抱きしめ、長いキスをした。


「……俺もだ。杏と過ごした時間は、全部宝物だ」


胸が熱くなる。

オレは彰の手をぎゅっと握り返した。


「オレも。彰といる時間、全部好き」

「……杏」


「うん?」

「帰っても、またどこか行こう」


「うん。行きたい」

「次はもっと普通の旅行にする」


「本当に?」

「……たぶん」


「今、怪しかった♡」


彰が少しだけ笑う。

けれど、その笑みはすぐに淡く揺れた。


夕陽の向こうを見ながら、彰は一瞬だけ黙る。

このまま海の向こうまで、杏を連れて行けたらいい。


父親の声も、見合いの予定も、家の名前も、全部届かない場所へ。

だが、そんなことはできない。


だから彰は、せめて今だけ、杏を強く抱きしめた。

オレはその腕の強さに、少しだけ目を瞬かせる。


「彰?」

「……何でもない」


「ほんと?」

「ああ」


「じゃあ、もっとぎゅってして」


彰の表情が柔らかくなる。


「いくらでも」


残り少ない時間。

その言葉を思うと、胸が痛くなる。


でも今だけは、考えたくなかった。

彰の隣で、同じ夕日を見ていたい。


オレは彰の肩へ頭を預けた。


「彰」

「ん?」


「今日、幸せだった」


彰は静かにオレを抱きしめた。


「俺もだ、杏」


夕陽が海へ沈んでいく中、オレたちは言葉少なに抱き合っていた。

残り少ない時間を、オレたちは全力で味わおうと、心の中で誓っていた。


甘くて、熱くて、少し切ない南の島の旅。

この旅は、オレたちの心に深く刻まれた。




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