第6章 兄の訪問と、養ってる男の睨み合い
朝のグラシアス・タワー1203号室。
浴室には、熱いシャワーの音が響いていた。
オレ——甘野杏は、湯気の中で髪を濡らしながら、小さく息を吐く。
昨日の夜も、彰はなかなか離してくれなかった。
抱きしめられて、キスされて、寝る直前まで「杏」と低い声で呼ばれて。
思い出すだけで、顔が熱くなる。
「……ほんと、重いんだから」
そう呟いた瞬間。
ガラスドアが、勢いよく開いた。
「わっ……彰!?」
全裸の彰が、何食わぬ顔で入ってくる。
濡れた黒髪。
鍛えられた肩。
熱を帯びた目。
その姿を見ただけで、心臓が跳ねた。
「杏」
「な、なに? 朝から……」
彰は答えず、オレの後ろに立った。
熱い胸板が背中へ密着する。
大きな手が、オレの腰へ回る。
「彰……」
「朝から欲しくて我慢できなかった」
低く掠れた声が、耳元で響く。
次の瞬間、オレは浴室の壁へ軽く押し付けられていた。
「わっ……♡」
「杏……」
彰の唇が首筋へ吸い付く。
熱いお湯が二人の肌を流れていく中、彰のキスが首の後ろから肩へ落ちていく。
「んっ……♡ 彰、激し……」
「悪い」
「悪いって顔じゃない……♡」
「今日は朝から、めちゃくちゃ甘やかしたい」
「それ、甘やかすって言うの……?」
「俺の中では言う」
「彰の基準、重い……♡」
彰は低く笑い、オレの手首を軽く押さえた。
強いのに、乱暴ではない。
捕まえるようでいて、痛くない。
その加減を知っているのが、余計にずるい。
「杏、こっち向け」
「むり……顔、近い……♡」
「近い方がいい」
彰の唇が重なる。
シャワーの音に紛れて、深いキスの音が響いた。
「んっ……♡ ふ、ぁ……♡」
熱い。
息が苦しい。
けれど、離れたくない。
彰の手がオレの身体を支えながら、ゆっくり背中を撫でる。
「朝から、こんな顔するな」
「彰がさせてるんでしょ……♡」
「そうだな」
「認めた……♡」
彰はオレを抱きしめたまま、深く重なった。
「あっ……♡♡」
奥まで満たされる感覚に、足から力が抜けそうになる。
彰はすぐに腰を支えた。
「大丈夫か」
「う、ん……でも、急に深い……♡」
「杏が可愛いのが悪い」
「またオレのせい……♡」
熱いお湯。
濡れた肌。
彰の腕。
全部が混ざって、頭がぼうっとする。
彰はオレを壁に支えさせながら、ゆっくり奥を擦るように抱いた。
「あっ♡ ん、ぁ……♡ そこ……♡」
「今の震え方、覚えた」
「覚えなくていい……♡」
「無理だ。杏のことは全部覚える」
「ほんと、重い……♡」
オレは壁に手をつき、甘い震えに耐えようとする。
けれど、彰の手が腰を支え、もう片方の手がオレの前へ触れるように回ると、身体がびくっと跳ねた。
「あっ……♡ 彰……前、だめ……♡」
「だめじゃない」
「朝から……こんなの……♡」
「朝からお前を独占したい」
「ほんと、獣……♡」
彰は耳元で低く笑った。
「杏限定だ」
その声だけで、さらに身体の奥が甘く痺れる。
深く重なったまま、奥も前も甘く擦られて、声が止まらなくなった。
「あっ♡ あ、ぁ……♡ 彰……♡♡」
「杏」
「いっ……♡ 彰、だめ……気持ちよすぎる……♡♡」
最後は強く抱きしめられたまま、二人同時に甘い絶頂へ溶けていった。
「はぁっ♡♡ 彰……♡」
「杏……」
荒い息の中、彰はオレの身体を優しく支える。
さっきまでの熱が嘘みたいに、手つきが丁寧になる。
「……朝から、ごめんな。たまに、杏を独占したくなる」
オレはぐったりしながらも、彰の胸に寄りかかって小さく笑った。
「もう……本当、朝から獣なんだから♡」
「反省はしてる」
「嘘だ」
「少しはしてる」
「少しなんだ」
彰は満足げに微笑みながら、オレの身体を丁寧に洗ってくれた。
湯気の中で、オレは恥ずかしさをごまかすように彰の胸を軽く叩いた。
「今度から、入る前に声かけてよね」
「努力する」
「努力じゃなくて守って」
「……分かった」
でも、その顔は全然守る気がなさそうだった。
****
午後。
オレがキッチンでクリームの配合メモを見直していると、スマホが震えた。
表示された名前を見て、思わず背筋が伸びる。
「兄さん?」
甘野蓮。
オレの兄だ。
メッセージを開く。
『近くまで仕事で来た。少し顔を見たい。無理なら外でいい』
胸が少し跳ねた。
蓮兄さんは、昔から心配性だ。
母さんと一緒に、上京前から何度も言っていた。
金持ちには近づくな。
特に財界や政界の関係者。
家柄で人を見る男には気をつけろ。
甘い言葉をそのまま信じるな。
それを思い出して、オレは少しだけ彰を見た。
彰はリビングで資料を見ている。
休日なのに仕事の資料を読んでいる時点で、やっぱり仕事ができる人だと思う。
でも、オレの前では重いし、甘いし、すぐ抱きしめてくる。
怖い人じゃない。
兄さんにも、ちゃんとそう分かってほしい。
「彰」
「どうした」
「兄さんが、近くまで仕事で来てるって」
彰の手が、資料の上で止まった。
「兄さん?」
「うん。少し顔を見たいって。無理なら外でいいって言ってる」
彰は一瞬だけ黙る。
「……そうか」
「オレ、外で会ってくるね」
そう言ってから、少し迷った。
蓮兄さんは、彰に一度挨拶したいと思っているかもしれない。
でも、ここは彰の部屋だ。
勝手に家族を呼ぶのは違う。
オレはスマホを握りしめたまま、控えめに続けた。
「その……兄さんが、彰に一度挨拶したいみたいで……でも、彰が困るなら、外で会ってくる」
彰がオレを見る。
「困らない」
「本当?」
「ああ」
「無理しなくていいよ? 急だし、仕事の資料もあるし」
「杏の兄だろ」
彰は資料を伏せた。
「ここで会おう」
胸が、ほっと温かくなる。
「ありがとう、彰」
「礼を言うことじゃない」
そう言いながらも、彰の表情は少し硬かった。
オレは首を傾げる。
「彰、緊張してる?」
「普通だ」
「普通の顔じゃないよ」
「……兄に会うんだ。緊張くらいする」
「そっか」
それを聞いて、少し嬉しくなる。
彰でも緊張するんだ。
彰は立ち上がり、部屋を軽く見回した。
「少し片付ける」
「え、全然綺麗だよ?」
「念のためだ」
「兄さん、そこまで細かく見ないよ」
「そうか」
彰は低く答えたが、表情は真剣だった。
****
杏が洗面所へ行った隙に、彰はスマホを取り出した。
通話がつながるなり、玄太の明るい声が飛ぶ。
『社長、ついに杏様へ正式なご挨拶を?』
「違う。杏の兄が来る」
『それは正式なご挨拶より緊急でございますね』
「黙れ。部屋で不自然なものは何だ」
『社長、この部屋は存在そのものが不自然な高級物件でございます』
「黙れと言った」
『承知いたしました。社章入り資料、契約書類、専用端末、ワインセラーの限定ボトルあたりは見えない場所へ』
「今やっている」
『あとは社長の態度でございます』
「俺の態度?」
『普通のイベント会社社員らしく、自然に、柔らかく、年収を感じさせず』
「最後が余計だ」
『杏様のお兄様は鋭そうです。ご武運を』
「切るぞ」
彰は通話を切り、深く息を吐いた。
仕事なら、どれほど厳しい交渉相手でも揺らがない。
だが、杏の兄となると話が違う。
しかも、杏の家族は金持ちや家柄のある男を警戒している。
自分は、その警戒対象そのものだ。
彰は奥歯を噛んだ。
まだ言えない。
今は、ただ杏を大事にしていることだけは、伝えなければならない。
****
しばらくして、インターホンが鳴った。
モニターには、整った顔立ちの男性が映っている。
落ち着いた雰囲気。
優しい目。
でも、どこか隙がない。
オレはドアを開けた。
「兄さん!」
「よう、杏」
蓮兄さんは穏やかな笑顔で立っていた。
「急に悪いな。近くまで仕事で来たから、様子を見に来た」
「ううん。来てくれて嬉しい」
蓮兄さんの視線が、オレの後ろに立つ彰へ移る。
空気が変わった。
彰は静かに一歩前へ出た。
「大鷹彰です。杏を支えています」
蓮兄さんは微笑んだ。
けれど目は笑っていない。
「甘野蓮です。弟が世話になっています」
「こちらこそ」
「……いい部屋ですね」
その一言に、彰の肩がわずかに固まった。
オレは慌てて笑う。
「彰の会社、VIP案件とか多いんだって。ここも、仕事の関係で使える場所みたいで」
蓮兄さんは、ゆっくり彰を見る。
「イベント会社の社員、でしたね」
「はい」
「なるほど」
その「なるほど」が、全然納得していない響きだった。
オレは慌てて二人の間に入る。
「兄さん、取り調べみたいになってる」
「まだ何も聞いてないだろ」
「聞く前の顔が怖いの!」
彰は低く言った。
「杏を大切にしています」
「それは、これから聞こうと思っていました」
二人の視線がぶつかり合う。
笑っているのに、空気が怖い。
「二人とも、やめてよ!」
オレが声を上げると、二人は同時にこちらを見た。
「やめている」
「何もしていない」
「してる顔だよ!」
彰はオレを背中側に庇うように立ち、蓮兄さんはそれを見て少し眉を上げる。
「ずいぶん守りが固いな」
「当然です」
「杏は昔から、甘いものに釣られて変な人について行きそうなところがある」
「兄さん!?」
「否定できるか?」
「……ちょっとだけなら」
彰が低く言う。
「今後は俺が見ています」
「見すぎるなよ」
「無理です」
「即答するな!」
部屋の空気がどんどん妙な方向に張り詰めていく。
結局、オレは耐えきれずに提案した。
「外で話そう。ここだと、なんか二人とも変になる」
「変にはなっていない」
「なってる」
彰と蓮兄さんが同時に黙った。
三人で、近くのファミレスへ移動することになった。
****
ファミレスでの面談は、予想以上に緊張感があった。
テーブル席に、オレ、彰、蓮兄さんが座る。
ドリンクバーの機械音だけが妙に明るい。
蓮兄さんは水を一口飲み、静かにオレを見た。
「母親から、杏の様子を見てくるように言われた」
「母さんが?」
「ああ。期限は絶対に守れと」
その言葉に、胸が少し重くなる。
一年限定。
その約束は、まだ消えていない。
オレは膝の上で手を握った。
「分かってるよ」
「本当に?」
「うん」
蓮兄さんの視線が、彰へ向く。
「男に溺れているんじゃないかと心配だ」
「ちょ、兄さん!」
顔が一気に熱くなる。
彰の目が少し鋭くなった。
「杏は、溺れているだけではありません」
「では?」
「本当に一生懸命です」
彰は静かに口を開いた。
その声は、いつもの独占欲むき出しの重さとは少し違う。
真剣で、まっすぐだった。
「朝早くからバイトに行って、夕方学校、夜も勉強して……俺はそんな杏を全力で応援しています」
蓮兄さんは黙って聞いている。
彰は続けた。
「杏が笑顔でいられるなら、俺は何だってします」
「……何だって、か」
「はい」
「軽く言っているようには見えないな」
「軽く言っていません」
彰の目は揺れなかった。
オレは胸が熱くなって、彰を見つめる。
「彰……」
彰は一瞬だけオレを見る。
その目が、すごく優しかった。
蓮兄さんは少し黙った後、低く言った。
「母さんが言っていただろ。財界や政界の家の男には近づくなって」
オレの肩が小さく揺れる。
「……うん」
「家柄で囲おうとする男には気をつけろって、あれだけ言われただろ」
彰の表情が、ほんの少しだけ硬くなった。
でも、オレはそれに気づかないふりをして、蓮兄さんを見た。
「彰はそういう人じゃないよ」
「なぜ言い切れる」
「だって……オレを、ちゃんと見てくれるから」
自分で言って、胸が熱くなる。
「お菓子食べすぎると怒るし、勉強してたら邪魔しないようにしてくれるし、バイトで落ち込んだら背中撫でてくれるし……重いけど、優しい」
「重いのか」
「かなり」
彰が小さく咳払いした。
「そこは否定しません」
蓮兄さんは少しだけ目を細めた。
「仕事は?」
彰が答える。
「イベント会社に勤めています。現場管理や、VIP案件の手配も担当しています」
「会社名は?」
一瞬、空気が止まった。
オレは慌てて口を挟む。
「兄さん、取り調べ!」
「大事なことだ」
「でも急に会社名まで聞かれたら、誰でも怖いよ!」
彰は落ち着いた声で言った。
「杏に不安を持たれるような仕事はしていません」
「それは答えになっていませんね」
「兄さん!」
蓮兄さんはオレを見る。
そして、少しだけ息を吐いた。
「……分かってる。杏が大事にされているのは、見れば分かる」
「兄さん……」
「ただ、心配なんだ」
蓮兄さんの声が柔らかくなる。
「お前は昔から、好きなものにまっすぐすぎる。パンも、お菓子も、人も」
オレは少し俯いた。
「……うん」
「クリームパンの研究は続いてるのか」
その言葉に、顔を上げる。
「うん。でも、まだ理想の味には遠い」
「そうか」
「でも、彰が味見するって言ってくれてる」
彰がすぐ言う。
「一番に食べます」
蓮兄さんは彰を見た。
「味が分かるんですか」
「杏が作るなら分かります」
「それは信用できませんね」
「兄さん、オレも今そう思った」
「杏?」
彰が少し傷ついたような顔をする。
それが可愛くて、少し笑ってしまった。
蓮兄さんも、ほんの少し表情を緩める。
やがて、蓮兄さんは深いため息をついた。
「……分かった」
「兄さん?」
「母には『二人の味方をする』と言っておくよ」
「本当?」
「ああ」
蓮兄さんはオレの肩を軽く叩いた。
「残りの時間、しっかりな」
その言葉で、胸がきゅっとした。
嬉しい。
でも、同時に少し切ない。
残りの時間。
それは確実に減っている。
彰も、その言葉を聞いてわずかに目を伏せた。
蓮兄さんは彰に向かって小さく頭を下げた。
「杏を頼みます」
彰も、静かに頭を下げる。
「必ず、大事にします」
「重そうだな」
「重いです」
「そこは否定しないんだな」
「杏限定です」
「……なるほど」
蓮兄さんは少しだけ笑って、店を出て行った。
****
家に戻ったオレは、玄関を閉めるなり彰に飛びついた。
「彰、ありがとう……兄貴に味方されて、嬉しい」
彰はオレをしっかり受け止める。
「当然だ。お前は俺の大事な人だから」
「そういうの、すぐ言う……」
「言う」
「照れるんだけど」
「照れろ」
「命令?」
「お願いだ」
「お願いの顔じゃないよ♡」
彰は低く笑い、オレを抱き上げた。
「わっ……!」
「杏」
「なに?」
「今日は、ちゃんと抱きしめたい」
その声が、いつもより静かだった。
オレは彰の首へ腕を回す。
「うん……オレも」
彰はそのまま寝室へ向かった。
****
その夜の営みは、これまでで一番優しく、深く、未来を誓うようなものだった。
彰はオレをベッドへ優しく横たえた。
乱暴さはない。
焦りもない。
ただ、オレの顔を見つめて、ゆっくり額へキスを落とす。
「杏」
「彰……」
「怖かったか」
「兄さんと彰が睨み合ってた時?」
「ああ」
「ちょっとだけ」
「悪かった」
「でも、嬉しかった」
「何が」
「彰が、オレのこと大事にしてるって、ちゃんと言ってくれたから」
彰の目が甘く揺れた。
「言葉だけじゃ足りない」
「じゃあ、どうするの?」
「全部で伝える」
低い声。
そのまま、唇が重なった。
「んっ……♡」
彰は何度もキスを繰り返した。
唇が離れても、すぐまた重なる。
舌が触れ合い、息が混ざる。
深くて、甘くて、溶けそうなキス。
「彰……熱い……♡」
「杏」
彰はオレを抱きしめたまま、ゆっくり深く重なった。
「あっ……♡」
奥まで満たされる熱に、身体が甘く震える。
彰は動かず、しばらくそのままオレを抱きしめていた。
「彰……」
「少し、このまま」
「うん……♡」
繋がったまま、彰はオレの唇を何度も奪う。
濃厚なキス。
身体が一つに溶け合うような感覚。
オレの頭の中が、とろとろに溶けていく。
「彰……熱い……奥が、彰でいっぱい……♡」
「杏……お前の熱が、俺を離さない」
「離したくない……♡」
「俺もだ」
彰は繋がったまま、ゆっくりと小さく腰を動かした。
深く、深く。
奥を優しく擦られるたび、身体が甘く震える。
「あっ……♡ んっ……♡ 彰、深い……♡」
「苦しくないか」
「大丈夫……気持ちいい……♡」
彰の腕が、オレを包み込む。
強いのに、優しい。
まるで、オレの全部を守ろうとしてくれているみたいだった。
「彰……もっと、キスして……♡」
「いくらでも」
また唇が重なる。
「んっ♡ ふ、ぁ……♡」
キスが深くなるたび、身体の奥が甘く痺れる。
ゆっくり奥を擦られ、前まで熱くなっていく。
「あっ♡ 彰……前も……奥も……熱い……♡」
「杏、可愛い」
「言わないで……♡」
「言う。全部可愛い」
「彰……ずるい……♡」
身体が何度も甘く震える。
激しいわけじゃないのに、深い。
深すぎて、涙が浮かんだ。
「あっ♡ ん、ぁ……♡ また……いっちゃう……♡♡」
「いい。俺の腕の中で、何度でも」
「彰……♡」
オレは彰の背中に爪を立て、連続する甘い熱に身体を震わせた。
彰も、オレを抱きしめたまま、何度も深く息を漏らす。
「杏……」
「彰……好き……♡」
「俺もだ」
「残り少ない時間、全部……彰といたい……♡」
彰の動きが少し止まった。
蓮兄さんの言葉が、二人の間に落ちる。
残りの時間。
彰にも、その言葉は重く響いていた。
父からの催促。
見合い。
家の名前。
言えないものが、胸の奥に積もる。
それでも今、腕の中にいる杏だけは離したくなかった。
彰はオレをさらに強く抱きしめる。
「杏……残り少ない時間を、全部お前に捧げる」
その言葉に、涙が滲んだ。
オレは彰の首に腕を回す。
「うん……オレも、彰と一緒に……この時間を、全部愛し尽くしたい」
彰はオレの額に優しくキスを落とした。
「絶対に離さない。お前は俺のものだ」
「うん……♡」
そのまま、深く重なり続ける。
奥を擦られるたび、身体も心も満たされていく。
「あっ♡ 彰……だめ……好きすぎる……♡♡」
「杏」
「はぁっ♡♡ 彰……♡」
最後は、彰の腕の中で、甘く深い絶頂へ溶けていった。
しばらく、二人は繋がったまま、互いの体温を感じ合っていた。
彰の手が、オレの髪を優しく撫でる。
オレも、彰の胸に頬を寄せた。
「彰……」
「ん?」
「兄さん、味方してくれてよかった」
「ああ」
「でも、残りの時間って言われると、ちょっと痛いね」
「……俺もだ」
「でも、だからこそ、大事にしたい」
彰はオレを抱きしめ直した。
「全部、大事にする」
その声が、夜の部屋に静かに響いた。
蓮兄さんの訪問で現実を突きつけられた夜、オレたちは残り少ない時間を全力で愛し合うことを、改めて誓い合った。




