84. 久しぶりだな
「なんだ、もう終わってしまったのか」
その至極残念そうな声色に、後ろを向くとそこにはアリエスの姿があった。隣には、仮面にも似た装飾で顔を隠した長身の青年の姿。あれ……リオレス? いや違う。まさか。
「まるでヴァリエに伝わるロミオとジュリオの逸話の再現。実に見応えのある修羅場……いや、恋愛劇であったというのに」
「アリエス陛下……隣に居るのはもしや」
「お、お久しぶりです。ユウマ様……」
男が、記憶よりも遥かに低い声色で、自身の顔にかかった装飾をずらす。多少外見が変わったようだが間違いない。
「リオ……! あ、いや。久しぶりだな。手紙にもあったが、見ないうちにずいぶんと背が伸びたじゃないか」
「はい。いよいよ俺にも成長期が来たようでして、毎晩体が痛くて寝れないの何の……」
なんだ、ちょっと羨ましいな。俺にはまともに来なかったからな成長期やら成長痛やら。
「彼は側付きとして実に優秀だな、ユウマ殿。俺も彼には随分助けられている。ふふ、最近では我が寝所にまでも常に侍って貰っているほどだ」
はは、中々に際どい冗談ですねぇアリエス陛下。なぁリオナ……あれ、なんだその妙に気まずさと恥ずかしさが入り混じった顔は。リオナさん?
「アリエス……この場を騒がせたことを私からも詫びよう」
「良い良い。別に皮肉で言ったつもりじゃあないさ。それよりどうだいシュルツ王子? あの二人がもし駆け落ちをするなら、ぜひ我がゼルフィ王国で受け入れよう。代わりに、この可愛いルーミエの三男坊を俺にくれよ」
「それは私の一存で決めることではない」
「すげないなぁ。なあ、ユウマはどう思う」
「あー……当人同士とご両家の好きにして貰えればよいかと」
ごめんリオナ、そんな見捨てられた子犬のような目で俺を見ないでくれ。ちょっと今、純粋にこれ以上問題事を抱えたくなくて……。
アリエスとリオナを見送った後。舞踏会は十曲目の演目を奏でる最中。いよいよ祭も終わりが近づいてきた。
あまりにも色々な事がありすぎて、つい忘れそうになるが。俺にはこの舞踏会で果たしたい一つの目的がある。
「シュルツ様」
声をかけられた彼は、俺の視線の先をたどり、ある人物の姿をみとめる。シュルツの顔色が、にわかに暗いものへと変わる。
「本当に、行くというのか」
「ええ」
「……やはり私が行こうか。ユウマばかりを矢面に立たせる訳にもいくまい」
「いえ。シュルツ様より、俺が行った方が勝算も高いでしょう。ここはお任せください」
その言葉に、シュルツはしばし沈黙した後に頷いた。
俺はいよいよ目当ての相手に話しかけるべく歩みを進める。
視線の先には、今しがた歓談相手と別れ一人きりになった対象の姿。麗しき赤の衣の貴公子。エクス・ヴァリエ・ランバルその人がいた。




