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83. 修羅場



 そこから先の惨状は、まさに目も当てられぬものであった。


「ジュリオス……! お前は事の重大さを分かっているのか!? その者はランバル家の四男。我らは不可侵の条約を結んでいるのだ。そんな戯言が認められる訳あるまい」

「どうしてですか父上! 家のことなんて関係ないでしょう! 俺はただパウル様との結婚を認めて頂きたいだけなのに、どうしてそんな意地悪を言うのですか!」


 うわー……あーあー……。

 辺りにとどろく親子の大喧嘩に、俺は頭を抱えて俯いた。おそらく向かいのシュルツも同じ反応をしていることだろう。と、止められなかった……うう。


「あれは……グーリン家の者達か」

「ド、ドミニク殿。これには訳が……」


 いや訳も何もないだろうが、震え声で俺はドミニクに何かしらの弁明をしようとする。


「ユウマ殿。あれはダグラスめが贔屓にしている秘蔵っ子の三男坊で間違いなかろうな。風の属性で、確か魔物憑きを患っていると」

「あ、ええ……そうですが」

「フン」


 俺の言葉を聞くと、ドミニクは大きな足音を立て堂々とジュリオス達の方に出向く。な、なんだ。一体何をする気だ。


「ジュリオス殿!」


 ドミニクの大声が辺りにとどろく。ジュリオスやパウル、その他周りの人間を含め、皆がドミニクの方へと視線を向けた。


「は、はいぃ」

「貴殿は我が息子、パウルに惚れているのか」

「……! はい! そうです」

「ならば良い。そなたをパウルの伴侶として、我がランバルの家に迎えようではないか」

「え!?」


 驚いたのは、ジュリオスだけでなく周りの俺たち全員がそうだった。

 え、なんで。ランバル家とグーリン家は不倶戴天の敵だったはずじゃあ。


「ただし、その場合ジュリオス殿には生家との縁を完全に断ち切って貰う。親兄弟と一目会うことすら許さぬ。貴殿はただその身一つ、このランバルの家に捧げ彼の地に骨を埋めると、神と祖の名において誓うのであればパウルとの婚姻を認めよう」

「あ、縁を切る……、え、ぁ」

「さあどうするジュリオス殿。ここで返答をせぬなら、話はこれまでだ。今一度、そなたの覚悟をこの私に見せてみよ」


 うわぁ〜〜……。

 ジュリオスは、しばしパウルと父ダグラスの顔を交互に見つめ、その瞳にはじわじわと涙が浮かぶ。しかしぎゅっと目を瞑り、意を決して桜色の唇を開こうとした時だった。


「ち、誓いま……」

 

「そんな話は認めん!!」


 うわっさっきのドミニク以上にデッカい声。思わず声のした方を見れば、ダグラスが大きく肩で息をしながらジュリオスの体を引き寄せ、自らの片腕の中に閉じ込めていた。


 もう片方の手には……うわっ杖握ってる! やめてここ殿中、殿中であるぞ!


 ドミニクの方も、自身に向けられる杖先を見て即座に自身の短杖を帯から抜き取る。いや待って、本当にやめて。各国の来賓まで集まる場で刃傷沙汰……いや杖傷沙汰はマジで洒落にならないって。止めなければ。


「お二方とも、落ち着いて……」

 

「ダグラス! 誉高きグーリン家の当主ともあろうものが、何という様か!」


 その時、シュルツの良く通る声が辺りに響き渡る。


 その声を聞いた途端、ダグラスは幾度も声にならぬ言葉を発するよう口を動かしていたが。やがてその唇をぎゅっと引き結び、ジュリオスの頭に手を置いた後、自らと共に深くその頭を下げさせた。


「……この場を騒がせた事を、心よりお詫びいたします。こたびの件に関する処罰は、謹んでお受けいたしましょう。シュルツ第一王子殿。どうか我らがこの場より立ち去ることをお許し頂きたい」

「……良い。許す」


 シュルツの言葉と共に、ダグラスは粛々とジュリオスの腕を引き場を後にする……え、えらいことになってしまった。


「ふん、全くつまらぬことだ」

「父上!」

「口を慎め! こたびの件はそもそもお前に責があるのだぞ! ……シュルツ王子、ユウマ殿。我々も今日はここで失礼させて頂こう。場を騒がせてしまい、相済まなかった……行くぞ、パウル」


 そう言ってドミニクとパウルらもまた、場を後にする。残された俺たちはしばし呆然としていたが、かといって舞踏会をここで中断する訳にもいかない。シュルツが改めて周りに再開の意を述べると、やがて場の空気が元の活気のあるものへと変わっていく。


「シュ、シュルツ様……」

「……ユウマ。なぜ祭りの最中にも、我らの腰に杖が下がっているか分かるか」


 あ、はい。存じ上げております。ええと。


「……かつて白月の舞踏会は、天井の欠けた廃城。白く輝く月下のもとで行われていたとされています。その為いつ魔物が宙より襲い来ても良いよう、皆その腰に護身用の杖を下げていたとか」

「そうだ。この杖は、人類一丸となって魔の脅威に抗い、今代にまで血を繋いだ先人に敬意を示すべく身に付けるもの……決して、我ら同胞が争う為に在るのではない」


 シュルツの声色は、どこまでも重く暗いものであった。


 うん、そうだよな。本当に良く無いよな。

 ……歴史書には、二、三十年に一度の頻度でこういった派手な杖傷沙汰を起こしては処分を受ける貴族が現れ、特にひどい年が続くと一時的に短杖の携帯が禁止された代もあったのだとか。


 

 良く無いけどさ……やっぱ人間って愚かだし来年から杖持ち込むのもうやめない? と、そんな身も蓋もないことは、とても言えない雰囲気だった。


 

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