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【番外編】結婚しましょう!



「あっ! す、すみませんっ、パウル様」

「ハハ、ジュリオスの体は羽のように軽い。何も心配はいらないさ」


 踊りの最中、幾度かパウルの足の先を踏んでしまう。しかし彼はそんなことを意にも介さず、軽やかなステップでこちらの動きをカバーしていた。


 う、うぅ……こんなことならちゃんと、ダンスの練習をしておけば良かった……。


 白月の明かりが差し込む大広間にて、俺は美しくも逞しい青年パウルと、衆目の前で踊っている。


 ああ、周りから変に思われていないだろうか。今日は人目を忍ぶ筈だったので、家にあった中でも一番貧相でみすぼらしい衣装を選んでしまった。


 深緑の薄衣に、灰色の質素な上衣。これなら父の選んだ桃色のひらひらした上衣の方が……いや、やっぱりあれは恥ずかしいから良いか。唯一、身飾りだけは父が譲らずまともなものをつけているのが幸いなことだ。


「その髪飾り、とてもよく似合っている」


 パウルが、振りに合わせこちらの身を引き寄せながら、耳元で囁く。心臓が口から飛び出そうな心地を味わいながらも、俺は震える声で言葉を紡ぐ。


「母の、形見なんです」

「形見……」

「母は俺が小さい頃に亡くなって、その時にこの髪飾りを遺してくれた。父が母にプロポーズする時に贈った、とても大切な品だって……」

「そうだったのか」


 パウルの手が、踊りの最中こちらの髪へと触れる。飾りをつけていない方の髪を梳かれ、その長い指が自身の頬を包む。


「なあ……俺からジュリオスにも、新しい髪飾りを贈らせてくれないか」

「え、それは」

「一目見た時から、俺の心はずっと君に奪われたまま。君の父上が母上にそうしたよう、俺も自らの愛を形にしてジュリオスに贈りたいんだ」


 自身の都合の良い幻聴でさえなければ。それは紛れもなく、己の16年生きてきた人生で初めて受ける愛の告白であった。

 同時に俺もまた、己の気持ちを今はっきりと自覚する。


「ぜ、ぜひよろこんで。あの、実は俺も、パウル様のこと初めて会った時からずっと好きで」

「……! そうか。ハハ、それは何とも喜ばしいことだ!」


 そう答えるパウルの顔は、驚きの後に、満面の笑みと純真な喜びに満ち溢れていた。美しい青年の頬が紅潮する様に、自身の気持ちもみるみるまに昂っていく。

 

「俺たち、両想いってことですね……!」

「ああそうだな」

「ならば結婚しましょう、パウル様! 踊りが終わったら、父上に許しをもらいにいくのです。俺の父はとても優しい人ですから、パウル様のこともきっと気に入って認めてくれるるはず」

「え…………っふ、ハハハ! いやあ、これは先を越されてしまったな! 俺から君に婚姻を申し込もうと思っていたが……いいだろう。ぜひこのパウルめを、君の未来の伴侶としてお父上に紹介してほしい。ジュリオス殿」


 パウルは心底愉快そうに笑いながら、こちらの体を引き寄せ、彼の腕に誘われるまま俺の体がくるりとターンを描く。ああ、そのまま宙にでも浮いていってしまいそうな心地だ。


 愛だの恋だの、自分には一生無縁のことだと思っていた。ああ。でもこれは。この胸の内から溢れる感情は、何と素晴らしくも輝かしいものなのだろう!

 

 ヴァリエの勇者とその伴侶の姫君も、かつてこの城の広間にて互いへの愛を誓い合ったのだという。


 千年も前から、変わらずこの地を見守り続ける白月の下。まるで二人の愛を祝福するかのよう、その光は柔らかく辺りを照らし、俺たちの身を包み込んでいた。

 


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