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82. 後の祭り



 一度曲が始まってしまえば、俺とシュルツのすることはただ一つ。ジュリオスとパウル。互いの親の目が広間の中央へと向かぬよう、この場に繋ぎ止めることであった。


「そ、そういえばゲラン様! 先ほどは我が国の第二王子と一緒にいらした様で。お二人は仲がよろしいのですか?」

「む、エクス王子のことか。そうだなぁ……ドミニク殿の手前、こんな話をするのも不躾とは思うが」

「私は一向に構いませんぞ、ゲラン殿。どうぞ素直な心の内を、私めに打ち明けてくだされ」

「では遠慮なく……私はエクス王子と公私共に友好的な関係を築きたいと思っているが、あちらはどうもそうは思っておらぬ様子。一国の王となれば振る舞いも変わろうが、正直今の段階では、兄のシュルツ王子に比べエクス王子はいささか青い部分があるといえよう。公に立場のある御仁である以上、少なくとも自らの悪感情をむやみに表に出すべきではない」


 なるほど、最もな意見である。特に最後のくだりは、今まさに目の前のドミニクにもブッ刺さってる部分なのだが、当人は分かっているのかいないのか、神妙な顔付きでゲランの言葉に頷く。


「殿下の言うことは最もだ。私からも、王子に忠言することにいたしましょう。彼は若さゆえの驕りにて、いささか物の見え方の狭いところがある。今は見逃されていようと、いずれ王となって頂く以上、悪癖は改めて貰わねばなりません」

「ハハハ! まあ私も、人の事をとやかく言えるような身ではありませぬゆえ。どうかお気に召されぬよう。なあ、ユウマ殿」


 うおっ、い、いきなり人の腰を抱くのはやめてくれませんかね。ここ公の場だから。いや公じゃなくても駄目だけどぉ。ひぃ。


「いささか戯れが過ぎますぞ、殿下」

「戯れなどではない、私はいつだって真剣だとも。スーデンは一夫多妻の国だが、同時に多夫一妻も認めている。異邦より来られたし尊き天の御子が、たった一人の夫御しかその身に持てぬというのもおかしな話であろう」


 いやおかしくない! 全然おかしくないから!


「ゲラン様! シュルツ王子に見られるより前に、今すぐこの手をお離しください」

「見られていなければ良いのか? ハハ、今のは冗談だ。ほら、もう手は離したぞ。だからそう顔をしかめるものではない。ユウマ殿の愛らしい顔にシワなど残そうものなら、それこそ王子に叱られてしまう」


 く、くそぉ……やっぱ油断ならないなこの王弟。


 しかし幸か不幸か、今のやりとりでドミニクの意識と視線は完全にこちらへと向けられている。あともう少しの辛抱だ。


「そういえば、今日はパウル殿も祭に参加されているとか ……おお、あそこにおりましたな。何やら愛らしい御仁を伴い、ずいぶんと仲睦まじい様子。ハハ、ロミアス殿をめぐりフェリペ殿との恋を鞘当てを演じて早々、盛んなことだ」

「ん? どれどれ」


 わぁ〜〜〜!!


 両者の視線の先には、三拍子のステップを踏みながら踊る若人の姿。

 ジュリオスの足捌きは見るからに辿々しいものだったが、パウルがその身を支え彼の歩幅に合わせた振りに変じて、上手くカバーしている。


 緑の黒髪をたなびかせ踊るジュリオスの顔は、いささか緊張を伴っているものの、それ以上に自身を巧みにリードする美しい青年に見惚れるよう、恍惚の色を浮かべていた。


「ほう……ずいぶんと可憐な若人をたらし込んだ模様。あれは何処ぞの貴族の子息であろうか。どこかで見た顔の様な気が……」


 ……ん? もしかして気付いてない?

 ドミニクは、自らの四男がグーリン家の子息と踊る姿を目の当たりに、存外平静な様子であった。


 確かジュリオスは、長年屋敷に引きこもっていたと聞いている。きっとドミニクはジュリオスの存在そのものを認知していないのだろう。た、助かった。


 やがて音楽も終わりを迎え、若い二人は互いに礼をして、広間の中央を後にする。声をかけるなら、間違いなく自身の方からだろう。一歩踏み出すも、ジュリオスは何やらパウルの手を引き、あろうことか自身の父であるダグラスとシュルツの方へと勇んで歩み出す。


 ワー! やめて! く、来るならせめてこっちにして……!


 パウルも、ジュリオスが向かう方向を見て段々と顔が引き攣り青ざめていく。いやまあ、そうだろうな。彼とはそこまで長い付き合いでもないが、その性格上ジュリオスがグーリン家の人間だと分かっていれば最初から踊りに誘うことも無かっただろう。あぁ、あーあ……。


 

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