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81. 駄目だこりゃ



 グーリン家とランバル家。両家はこの国を守護する軍門の家として、共にその名を国内外に轟かせている。


 英雄シュヴァン・グーリンを祖とする歴史あるグーリン家。代々名高き武勇と栄誉を誇る貴族の大家であるにも関わらず、彼らは権力や栄華に対して一切の関心を見せることはない。ただ王家への忠誠のみを自らの至上の名誉とし、一心にヴァリエ王家へと尽くしてきた忠臣の家柄だ。


 一方ランバル家は百年前に興った貴族の家にして、その短い歴史の中で瞬く間に勢力を拡大していった勢いのある新興貴族だ。特に現当主のドミニクは野心家で、まさに権力欲の化身のような人物である。それが必ずしも悪いことだとは言えないのだろうが、少なくともグーリン家の信条とは致命的に噛み合っていない。


 一応、前当主の時代まではお互い何となく距離を取る形で穏便に済ましていたそうだが、ドミニクが当主となった一年後に両者の仲は完全に断絶した。その結果結ばれたのが今日の相互不可侵だ。お互いの親族は、その敵方の領地に決して足を踏み入れてはならない。


 ヴァリエ王国としても中々に頭を悩ませた問題だったそうだが。当時の国王、シュルツとエクスの父にあたる先王はどちらかといえば事勿れ主義の性格で、この現状をなあなあで放置したまま今に至るというわけだ。



「我が息子がお世話になっております、異世界の邦人ユウマ様。お恥ずかしながら倅ジュリオスは世間を碌に知らぬ不肖の子ではありますが……何かのお役に立てて頂ければと」


 そうこちらに語りかけるのは、物腰柔らかな大男の姿。ダミアンとジュリオスの父にして、この国の大貴族グーリン家の当主。ダグラス・グーリンその人である。


 その面立ちは息子のダミアンの面影こそあるが、どちらかといえば優男という言葉が似合うような、ごく柔らかな雰囲気を纏っている。この風貌で、あの傲慢不遜なドミニクとバチバチにやり合っている仲なのだとか。人というのは見かけによらないものである。


 俺とシュルツは、大広間の片隅で楽しげに話すジュリオスとパウルに声をかけるべく、ここに降りてきた。そこをグーリン家の当主ダグラスに捕まり、今に至るという訳だ。こ、この状況は、中々にまずいのでは……。


「ダグラス殿、今は少々先を」

「そういえば、我が息子ジュリオスの姿はいずこに……」

「先……先日のアルザス樹海の報告について、今一度仔細を確認したい。少しあちらで話をしよう」


 シュルツが咄嗟に話題を逸らし、ダグラスの背に手を回すと、さりげなく俺と彼の距離を離す。今のうちに行けという伴侶の目配せに、俺は頷いてジュリオスの方へと向かう。ありがとうシュルツ。実に見事なファインプレーである。


「ジュリオ……」

「おおー! ユウマ殿。先週のヴェイルセルでの晩餐会以来か。ハハハ! あの余興は実に見事であった」


 あああー! もう!

 今度はスーデン王弟、ゲランと歓談をしていたのであろうドミニクに見つかり呼び止められる。このまま断ってジュリオスの方に行くのは、明らかに危険が伴うだろう。俺は引き攣った笑みを浮かべ、急ぎ二人の方へと歩み寄る。


「ドミニク殿、ゲラン様。お久しぶりです」

「久しいな、ユウマ殿。おっ、その腰に掲げている杖が、ドミニク殿の言っていたかの勇者の杖か。いやあ、ヴァリエの勇者の冒険譚を模したという観劇。そしてユウマ殿の素晴らしい魔法の腕前! 私も一度目にしてみたかったものだ」


 それは先週、ヴェイルセルの城を訪れたドミニクをもてなすべく、夕餉の席で催した見世物の話である。珍しい魔法を見せればドミニクも喜ぶかと思い、フラミスより習った『天』の属性の魔法を、勇者の冒険譚になぞらえいくつか披露したのだ。いやぁ、あれは中々に恥ずかしかった。だがドミニクはいたく喜んでいたので、頑張った甲斐もあったと思っていたが……。


「あれはドミニク殿が授けて下さった素晴らしい杖の力があってというもの。俺もまだまだ精進せねばと思っています……ハハ、それではこれにて」

「まあ待ちたまえ。その時に思ったことだが、ユウマ殿はその杖の他、揃いの長杖もあつらえた方が見栄えが良いと思ってな。ヴァリエの勇者が長杖を使ったという話は聞かぬが、ユウマ殿には必要なものだろう。我が領内は、大層腕の良い杖職人を数人ほど抱えていてな。彼らの腕を競わせ、その中でもより優れた品をユウマ殿に献上したいと考えているのだが……」


 ああ〜〜これ話が長引くやつ。その後もドミニクの話は続き、気づけば次の曲までの休憩時間も終わりを迎え、ジュリオスとパウルが手を取り広間の中央へと向かう。ああ……もう駄目だこりゃ。せっかく時間を作ってくれたのに、ごめんシュルツ……。

 

 

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