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78. 幸せになって



 しばらくアリエスは俺たちと歓談に興じていたが、二曲目と三曲目の境で彼はラケシスと共に席を立った。

 俺たちもまた三曲目が終わった後、目当ての人物らに声をかけるべく広間へと降りる。


「ダミアンさん」


 初めに見かけた人物の名を呼びかける。ダミアンは俺たちの突然の声かけに、驚いた様子でこちらを振り返った。隣には、すらりと背の高い美女が佇んでいる。


「ユウマ様、シュルツ王子まで。一体どうしたのです」

「いやぁ、ダミアンさんの奥方とお会いするのは初めてのことだと思いまして、一言挨拶をと。今大丈夫でしょうか」

「ええ勿論にございます。彼女はヘルミナ・ローエン。私の妻にございます」

「ご紹介に預かりました。ヘルミナと申します。異邦の御客人ユウマ様。こたびは私めに拝謁の機会をくださり、まことにありがたく存じます」


 い、いや。そんな畏まらないで欲しい。何げにこの世界で、高貴な女性と話をするのは幼いアリエラ姫を除き彼女が初だ。無性に緊張する。

 

 ヘルミナはリオナと同様、血縁上シュルツの従兄弟に当たる女性だ。灰色の髪に青色の瞳。凛とした涼やかな美貌は、どことなく自身の伴侶と重なるところがあった。血を感じるなぁ……。


「久しいな、ヘルミナ」

「ええ、殿下も相変わらずのご様子で」

「下の子は、今年で二歳になるのだったか。来月の建国祭が終わった後、一度私も領地に顔を出そう」


 ダミアンは今年で28歳。妻ヘルミナとの間に、既に二人の子をもうけているのだとか。上の子は今五歳だそうで、もう一、二年すれば社交界デビューの歳になる。


 ……ダミアンの子供かぁ。正直今の気分は、年に数度会う親戚の叔父か何かのそれに近い。いつか会える日が楽しみだ。


 その後ダミアンやヘルミナと幾度か言葉を交わした後、次いでフラミスの姿を探す。……居た。には、居たが。


「あのフラミス様が、べったりと腕にしがみつき離れないかの御仁が」

「ペーリエ家の当主ハンネスだな。ユウマ、あの状態のフラミスにはうかつに話しかけない方が良い。疾馬に蹴られるぞ」


 この世界にもそういう言い回しあるんだ。

 

 元はゼルフィ王国の名門、グロース家の天才児と謳われていたというフラミスが、周りの反対を押し切ってまで嫁入りした相手。さぞやどんな筋骨隆々の豪傑か、はたまた絶世の美丈夫か一度目にしてみたいとは思っていたが。


「なんというか、普通のお方ですね。ハンネス殿は」


 パッと遠目で見た所、彼は息子のロミアスに良く似た容姿をしている。その身は大柄で長身で、シュルツぐらいの大きさはあるだろうか。


 しかしよく見れば、似ているのは雰囲気のみで、その顔貌は極めて凡庸でぼんやりとしたものだ。四十代ほどの見目をした彼は、誰がどう見ても「ごく平凡なモブ顔中年貴族」と称するものだろう。


「フラミスいわく、そこが『良い』のだとか」

「へぇー」


 人間って分からないな。もはやそんな月並みな言葉しか出てこない。

 無意識に彷徨う視線が、かの父と似て非なる姿。美しく着飾るロミアスの姿を目に入れる。


 ロミアスは淡褐色の髪を大粒の宝石で飾り、銀糸と絹糸で編まれた薄青色の布を基調とした、麗しく絢爛な装いをしていた。


 腰に巻いた帯は真紅の艶やかな絹布に、金銀宝石を織り交ぜた豪奢な紐飾りを纏わせている。その紐の先には透明度の高い、薄青に輝く宝石が一粒あしらわれていた。


 普段は質素な装いを常としているロミアスだが、なるほど。着飾った姿も堂に入っており美しい。


 声をかけようとすると、その前に向こう方、フェリペがこちらに気づいた様だ。ロミアスの白く細い手を引き、歩み寄ってくる。


「ユウマ殿、シュルツ王子! こたびは祭に招いて頂き感謝する。今日は我が自慢の伴侶を伴った。どうだ、さぞ美しかろう」

「え、ええ。そうですね、フェリペ殿下」


 いつもに増してテンションが高い。まあ、厳密にはまだ籍こそ入れてないものの、フェリペと彼は新婚のようなものだからな。俺やシュルツと同じか……え、傍目から見たらこんな感じなの? 俺たち。


「……ユウマ様、改めて先日はとんだご迷惑をおかけいたしました」

「いやもう良いですよ、ロミアスさん。それより、フェリペ殿下と婚約されたようで。おめでとう御座います」


 俺の言葉に、ロミアスは少しばかり照れくさそうに、はにかんだ笑みをその顔に浮かべた。おお、満更でもなさげな反応。


「こちらに越してくるのは建国祭の後か」

「ああ、全く嘆かわしいことだ。神と祖のもとで愛を誓った我らが、こうして国を分ち引き離されている現状は」


 仰々しいフレーズが出てきた。噂には聞いてたが、やはり本当なのか。


「……『祖の誓約』ですか、随分と思い切りましたね」

「ええ」


 祖の誓約。破れば聖教会からの破門、貴族社会での特権身分を剥奪されるという、なんとも恐るべき誓約だ。ゆえに婚姻の場ですら、この誓約が交わされるのは稀だと言われている。ひゃー。


「なるほど。流石にフェリペ殿下から誓約を持ちだされては、ロミアスさんも首を縦に振らざるを得なかったと」

「先に誓約を持ちかけたのは私です」

「えっ」


 どういうこと? 一瞬そう聞こうと思ったが、あまりに野暮な気がして言葉を飲み込む。


 そうか、ロミアスさんからかぁ。愛されてるなぁ……そんで自分も誓約結んだのかフェリペ殿下。愛し合ってるなぁ。うん、末永く幸せになってくれ。

 

 

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