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79. 魔物憑き



 五曲目の音楽が大広間に流れ、舞踏会も中盤にさしかかった頃合いか。俺たちは休憩がてら再び席に戻り、軽食を片手に人々の踊りを鑑賞する運びとなった。


「本当に行かなくても良いのか? ジュリオス」

「お、俺はここで大丈夫です!」


 そんな大声と共に、シュルツの背後からにゅっと俺のための酒が供される。ありがとうな、何だかんだその状態でも仕事してくれて。


 ここからしばらくは、未婚の若い貴族らが集って踊る演目が続く。初めは相手を定めず順々に巡るフォークダンスのようなものを踊り、そこから良い相手が見つかった場合、終盤の畏まった宴曲の中でワルツを踊る。


 この世界においても、舞踏会は主に王侯貴族らの出会いの場として機能してるようだ。ラケシスは……おそらく七曲目以降に踊るのだろう。五、六曲目は比較的身分の低い貴族の子息らが踊る演目だ。中には先ほどシュルツが紹介した一人、ハデーニ家の三男もいるのだとか。


 そう考えると、ジュリオスが相手を見つけて踊るとしても、おそらくラケシスと同じタイミングになるだろうか。なにせグーリン家はこの国の上流貴族の家柄だ。俺は護衛やら側付きやらして貰ってる立場なので、あまりイメージは湧かないが。


「あ、お酒がもう無い……俺、いや私が取ってまいります! ユウマ様」


 え、いいよ他の従者にお願いするから……と俺が止める間もなくジュリオスが席を外す。一人で大丈夫かな。


「ダミアンの弟か。ふふ、随分と素晴らしい隠密能力を持っている。先ほど私の背後にいたというのに、あの彼が全く気付きもしなかった」

「確かにあの時は完全に気配が消えてましたね」


 そう、実は三曲目が終わり皆と歓談する最中、シュルツの背後にはぴたりとジュリオスが張り付くようついていたのだ。


 誰一人ジュリオスの存在に気づいていなかったな。当人は中々人目を惹く容姿をしているのに。あれは確かにすごい。


「……そういえば、ジュリオスから聞いたのですが彼は魔法が上手く使えないのだとか」

「……ああ」


 軽く、様子見の話題を振る。シュルツはかすかに言い淀む様子を見せた後、言葉を紡ぐ。


「グーリン家の三男は長年『魔物憑き』を患っていると、ハラルドから聞いたことがある」


 魔物憑き。物々しい響きだが、この世界ではそこまで珍しくもない症例だそうだ。

 魔力持ちの中でも、特に魔力量の多い者が一度は患うとされている。感情の昂りに応じて魔力が暴発し、それが自らの持つ属性に応じた魔法に変換され、周囲に放たれるという症例だ。


 魔物の中には魔法を扱うものがいるが、それらは杖や詠唱を伴わず、自らの魔力のみでそれを行使する。ゆえに『魔物憑き』という用語が用いられているのだ。この状態にある魔力持ちは、杖を用いた魔法が上手く使えなくなるのだという。


「大抵は、当人の精神的成熟に伴いその症状は落ち着いていく……私もかつては同じ病を患っていた」


 おそらく、それはジュリオスの話していた十五年前の事故。弟のエクスに怪我を負わせた出来事と関係しているのだろう。しかし今はそれに触れる時でないと、口を開く。


「ジュリオスは、自分が魔法を使えないことを気にしているようでした。時間が解決するのを待つほかないのでしょうか」

「そうだな……それか直接の助けになったかは分からないが。魔物憑きとなって以降、私はダミアンの勧めで剣の稽古を始めるようになり、それから二年ほどで再び魔法を扱えるようになった。武道の鍛錬は精神の修養にもつながるという。グーリン家は魔法に限らず、数多の戦いの業を修める武門の大家だ。本人にその気があるのなら、親兄弟を師とし稽古を付けて貰うのが良いだろう」


 思っていたより脳筋な答えが返ってきた。だが確かに一理あるかもしれない。健全な精神は健全な肉体に宿るとか、どこかで聞いたこともあるしな。


「ありがとうございます、シュルツ様。ジュリオスにもそう伝えてみます」

「ああ。後はそうだな……フラミスの事例だが」


 あ、フラミスも魔物憑きになったことあるんだ。あんまり想像つかないけれど。


「周りにハンネス・ペーリエとの結婚を猛反対された際『魔物憑き』の状態になったのだとか。あまりの荒れっぷりに周囲も折れて、本人が無理やりペーリエに輿入れした後は、すっかりと症状も落ち着いたそうだ」


 やたらパンチの強いエピソードが出てきた。想像の百倍以上に情熱的だったんだなフラミス。そこはかとなく末息子との血の繋がりを感じる……。


 そう俺とシュルツが話している間にも、舞踏会は着々と進行していく。若人達が大広間の中心で円を描き、軽快なリズムに合わせた踊りを踊る。水晶張りの大天井から白月の明かりが差し込む中。祭りの夜はまだまだ続いていくのであった。


 

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