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77. 出会いの場



 いよいよ舞踏会の最初の曲が始まった。


 音楽の始まりに合わせて、決まった足を前に出す。ええと、半歩前、その後は。

 ぎこちない動きながらも、体に染み込むまで覚えさせたステップを順々に踏んでいく。あ、やばいシュルツの足が着地点にっ。


「わっ」


 シュルツがぐんと俺の体を傾け、かろうじて足が彼の靴すれすれの所に降りる。た、助かった。


「大丈夫だユウマ、十分上手に踊れている」


 頭上から、伴侶の穏やかな声色が降りてくる。うう、優しい……次こそはとステップを踏むものの、何だかんだ三度は軽いミスを繰り返し、その都度シュルツがカバーをしてくれた。


 ようやく曲が終わり、俺たちは観客に軽く目礼をしたのち、自らの席へと戻る。き、緊張で周りどころかシュルツの顔もロクに見れなかった……。


「全然ダメだった気がする」

「そんなことはない。初めてにしては上出来の踊りだ。何よりお前の初々しいステップは愛らしく、見ていて心が洗われるようだった」


 褒めてるようで褒めてないんだよなぁ。こう言う時、どういう顔をして良いか分からないよ俺。


「とても素晴らしい踊りでしたよ! ユウマ様」


 彼の背後から、可憐なジュリオスの声が響く。本当にすっぽりと収まってるな、シュルツの後ろの席で。よしよし。俺たちが席を立つ時も、ちゃんとぴったりついてその位置キープしとくんだぞ。


 大広間には、中央の空間を臨むよう高台に乗せた座席が用意されている。王族や高位の貴族らのために設えた席で、大半の貴族は立ち見や立食のスペースで各々歓談に勤しむ。

 俺たちも四六時中ここに座りっぱなしという訳でもなく、折を見て他の王侯貴族と歓談するため席を降りる予定だ。


「三曲目にフラミスさんや、ダミアンさんが伴侶を伴って踊るのですよね」

「ああ、二曲目が他国の来賓。次いで我が国の順で、既婚の者達がパートナーと共に踊る決まりとなっている」


 となると、席を立つのは三曲目が終わって以降か。日頃世話になっている彼らだが、各々の伴侶は城に住んでおらず、国内の領地に留まっている。挨拶をするには今が良い機会だろう。


「……そういえばエクス様は、あ、ゲラン様と話してる」


 いや、絡まれてるといった方が正しいか。ばんばんと背中を叩かれ、エクスの顔があからさまに引き攣っている。やっぱ苦手なタイプなんだ。マンティコア討伐で同席していた時もあまり会話をしているイメージもなかったが、二人同士だとあんな感じなんだな。


「ロミアスさんはっと……」

「やぁーシュルツ王子、ユウマ殿。久しいなぁ。直接会うのは先月の祝祭以来か」


 席をかき分けやってきたのは、なんとゼルフィ国王アリエス陛下その人だった。薄緑を基調に幾重もの薄絹を重ね、要所に金剛石と翠玉の飾りを散りばめた豪奢かつ優美な装いをしている。後ろに伴っている青年は確か……彼の叔父のラケシスだったか。


「アリエス陛下。本日はご多忙のところ、我が国の催しに足をお運び下さりありがとうございます」

「ふふ。礼には及ばないさ。ユウマ殿こそ、先日はゼルフィの祝祭を楽しんで貰えたようで何よりだ」

「陛下とラケシス殿の踊りは……あっ、そのぉ」

「ハッハハ! ユウマは緊張で周りが見えていない様子だったからなぁ。全く面白いものを見せて貰った……ん? ああ。悪いな」


 アリエスは周りが急遽、彼の為にともうけた席へ腰掛ける。隣のラケシスにも椅子を薦めるが、彼は遠慮がちに首を振りながら言葉を紡いだ。


「お気遣いに感謝いたします。ですが、私はそろそろ失礼しますので……」

「失礼をするな、ラケシス叔父上。良縁を求めて、このヴァリエの催しに足を運んだのだろう?」


 えっ、そうなの?


「アリエス陛下! ……あ、いえ。その、シュルツ殿下、ユウマ様。どうか私めのことはお気になさらず」

「ほら、直近ロミアスがレムールのフェリペ皇子を夫に迎えたそうじゃないか。その知らせを聞いて……ふふ、叔父上は随分と焦ったようでな。普段はこういった催しなど目にもくれぬというのに、珍しく私に頼み事までしてきた」


 あ……なるほど? ううん、だんだん話が見えてきた気がする。


 ラケシス・グロース。彼はゼルフィの大貴族グロース家当主の末弟であり、フラミスやロミアスとも血縁だ。齢はたしか28歳。独身。美人揃いと称されるグロースの家の者らしく、その顔立ちは人並外れて美しく整っている。


 ……別に焦らなくても、その気になればいくらでも良縁が舞い込んできそうな見た目なんだよな。どうしてヴァリエにまで来て。


「叔父上はな、とにかく条件が細かいんだ。背が高く筋肉質で、歳は二十歳前後の若い男が良い。顔が派手なのは嫌だ。でも人並みに見れる容姿ではあって欲しい。仕事に理解のある殿方じゃなきゃ嫌だ。自分を大事にしてくれる誠実な相手が良い」

「う、う……」

「そういういい感じの相手いたら紹介してやってくれよ、シュルツ。俺にはもうお手上げだ」


 婚活事情ってどこの世界でも世知づらいものなんだな。そんな月並みな感想が頭を過ぎる。いやまあ、ラケシスさんほど美人で家柄も魔法の腕も優れた人間なら、そらより好みもしたくなるだろう。でもなあ、そんな全ての条件に当てはまる都合の良い人間が……。


「その条件であれば、二人ほど心当たりがある」

「えっ」

「今日参加している者の中では、フルーメ家の四男とハデーニ家の三男がちょうど良い頃合いだろう。彼らが踊るのは中盤の宴曲。ラケシス殿が良ければ、こちらから話を通しておくが」


 け、結構いた。しかもスッと出てくるんだ。流石第一王子というべきか、臣下の家族構成や情報など、頭に入っているのだろう。

 

「……あ、その。ええと」


 ラケシスも、まさか本当に紹介されるとは思っても見なかったようで。しばし困惑と誘惑の間で彷徨った後。彼は恥じらいを残した表情のまま、それでもこくりと一つ頷いた。


 

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