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75. 知らなかった



 白月の舞踏会。『天』より夜を照らす月がその輝きを増す日。ヴェイルセルの王城では王侯貴族の集う壮大な舞踏会が催される。

 時期としてはちょうど建国祭の一ヶ月前となるか。千年前、異世界の勇者と亡国の王女が結ばれたのもこの日になるのだとか。ロマンチックな話である。


「ジュリオスもこの舞踏会に出るのは初めてなんだっけ?」

「ええ。緊張で、手が震えてきました」


 言葉の通り、俺の衣装の着付けをする手がガタガタと震えている。そ、そんなにか。


「何もなければ、一旦は俺の側付きを装うつもりなんだろ? 側に隠れてれば大丈夫だって」

「そう、ですかね」

「そうそう。あ、隠れるなら俺よりシュルツの後ろの方が良いかも。ほら大きいから、隠れ蓑にぴったり」


 半ば冗談で口にしたそれに、ジュリオスは成程と感心したような声を上げた。あ、いやまぁ。本当にやってもいいけどさ。シュルツも優しいから多分許してくれると思うし。


「できました! た、たぶん」

「どれどれ。おっ、衣装係に合わせてもらった通りだな。上手いじゃないかジュリオス」


 鏡の前まで移動し、自身の装いを確認する。うん、これなら大丈夫そうだ。


 舞踏会の衣装には、ある程度の決まりがある。

 かかとに五センチほどの高さを持たせた靴を履き、上衣の裾はくるぶしが半ば隠れるまでの長さに調整する。動きやすく、かつ公の場に相応しい豪華な装い。

 

 ヴァリエ王国では、刺繍を施した厚手の衣の正面に切れ込みを入れ、その下に柔らかくたっぷりとした素材の下衣を覗かせる服装が主流となっており、自身の装いもそれに習っている。


 濃灰色の柔らかな衣の上に、銀の刺繍を施した明るい黄褐色の上衣を纏った衣装。

 宝飾品については以前のゼルフィの祝祭、フェリペの邸にて自身が選んだそれとデザインの似たものを選んだ。しっとりと光る銀色の地金に、深青色の蒼玉と大粒の真珠をあしらった髪飾りと紐飾り。帯には銀糸と黒の刺繍をほどした灰色の絹布を使用し、全体的に落ち着いた雰囲気の装いとなっている。


 これはシュルツに内容を伏せ、俺一人で選んだものだ。

 というより最初は彼に衣装を選んでもらうつもりだったのだが、一度目の衣合わせの時、考えを改め互いで内密に選ぶことにした。


 ……どうもシュルツは、俺が良い歳した33歳のおっさんであることを失念しがちな所がある。

 桃色を基調にした衣や、愛らしい花や果実の装飾で俺を着飾ろうとした時のことは忘れまい。何考えてるんだ本当に。


 腰の帯にドミニクから貰った短杖を括り付ける。銀の杖身に小粒の宝石を散りばめた造形は美しく、後ろから見ていたジュリオスがほうと感嘆の息を漏らす。


「ああ、本当にお似合いです。ユウマ様。それは、千年前にかの勇者様が扱っていた杖を模ったものですね」

「お、知ってるのかジュリオス」

「勿論! 勇者様の使われていた剣と杖は、数多の彫像や絵画、文献の挿絵にその仔細が残されています。神と祖から賜ったとされる伝説の武具。魔の五属性を宿したそれは、天の属性を持つ勇者様にしか扱えない代物で、かの魔王もその力の前にひれ伏し……」


 そうジュリオスは饒舌に語っていたものの、やがてハッとしたように言葉を飲み込み、その小さな体を大きく縮こまらせる。


「す、すみませ……俺」

「ジュリオスは、本当にヴァリエの勇者が好きなんだな。ダミアンさんから聞いたよ」

「はい。その、今回ユウマ様の側付きとして志願させて頂いたのも、それが理由で」


 うん、知ってる。

 最初ダミアンからそれを聞かされた時には「別に俺、勇者とかなんも関係ないし……」と断るつもりだったが。一応顔だけでも合わせるかと城にジュリオスを呼び、その時俺を前にして、彼の見せた感極まった表情があまりに無邪気なものだったので考えを改めたのだ。


「ユウマ様は、本当にカッコいいです。マンティコアやグリフォンの討伐、直近ではミノタウロスも退治したと聞きました。まるで物語の勇者様みたいだ」


 ほ、褒めすぎ。そんなこと言ったって何も出てこな……そうだ。


「せっかくだし、杖持ってみる?」

「え!? い、いやいやダメですユウマさま! 俺なんかにはとても恐れ多い。ええ……本当に」


 ものすごい勢いで拒絶したかと思えば、次の瞬間にはすっかりとその肩をおとし落ち込んでしまった。なんだ、一体どうした。


「ユウマ様には、ちゃんとお伝えしないといけませんね。俺、『風』なのに弱虫で魔法が使えなくて……」

「あー……いや、それもダミアンさんから聞いてる。いいよ無理に話さなくても」

「いえ、ユウマ様にこそ聞いていただきたいんです。シュルツ王子の伴侶である貴方さまに」

 

 ん? ここでシュルツが関係してくるの?


「ランバルの屋敷にて、シュルツ王子が魔法を使ってミノタウロスを退治したと聞きました。貴方さまのお力添えのおかげだと」

「いやぁ、あれはシュルツ様がすごかっただけだよ」

「それでもです! 王子も、幼少期の事故以来まともに魔法が扱えなくなったと兄から聞きました。俺と似た理由で……だから俺、勝手にシンパシーを感じていて」


 幼少期の事故? 初めて聞く話だ。


「事故って?」

「ご存知ないのですか? シュルツ王子の魔法が暴発して、大怪我を負ったと。負傷した場所も俺と一緒なんですよ。ほら」


 そう言って、ジュリオスが自らの服をはだけ右肩を晒す。そこには引き攣れて色の変わった痛々しい傷跡が、表皮を覆うように残っていた。


「魔法で負った傷は重度の場合、緊急治療魔法でも跡が残ることが多いんです。ましてや俺は子供だったので、痛みに耐えかねて治療を中断させてしまったので……」

「そうだったのか。あれ、でもシュルツの体にはそんな傷は無かった気が」

「怪我を負ったのはシュルツ様じゃありませんよ?」

「え?」


「十五年前の事故で、怪我を負ったのはエクス王子です。城の中庭で遊んでいた折、魔法の制御をあやまり弟御に土の魔法を当てたのだとか」


 

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