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【番外編】ロミアスの誓い



 どうしてこうなった。


 ヴァリエ王国ペーリエ領。のどかな田舎にぽつんと立つこぢんまりとした屋敷の一室。実家の応接間のソファに座るその男の名は、フェリペ・レムール・ナダグラ。新レムール帝国の第四皇子にして、小国ナダグラの王である。


「……殿下。いえ、陛下は一国の王。他国の貴族の家に輿入れするなど、民が許さぬことでしょう」

「俺は王を辞める。市井の代表者らとは話を付けてきた。父上や、今国を治めている代官ともだ。ナダグラ国王でなくレムールの皇子としてなら、問題はないだろう」


 いや問題しかなくないか?


 隣に座る母フラミスも、フェリペの話を聞いて神妙な顔をしている。そうだ。元々は彼との縁を断つため、多少他国の王侯貴族にも顔のきく母に頼み込んだのだ。

 本当は多忙な彼をこんな自身の不始末に巻き込みたくなかった。しかしこれ以上、ランバルの屋敷で起きたようなことがあってはならない。そう断腸の思いで決断したことだった。その筈だったのに。


「……婚姻とは本来、家同士を結びつけるもの。家格の釣り合わぬこたびの縁談は、本来こちらから謹んで断るのが筋でしょう」

「……」

「ですが私個人としては、愛するもの同士が結ばれ子を成すことこそが神の定めた自然の理と思います。ですので、こんな息子でよろしければ、どうぞお願いいたします。フェリペ殿下」

「は、母上……?」


 待ってくれ。話が違う。

 困惑を隠せない自身を前に、ふと母の美しい顔に柔らかな笑みが浮かんだ。


「実は……この会談が始まる前より、フェリペ殿下から手紙でこたびの話は伺っておりました」

「なぜそれを、私に打ち明けてくださらなかったのです」

「お前のその心底驚く顔が一目見たくて」


 こ、この……。

 あまりに悪びれぬ母の顔に、親に対して十数年ぶりの悪態が口をついて出そうになるが、その前に横からフェリペの。密かに懸想していた男の声が自身へとかけられる。


「改めて、この場で言わせて貰う。どうか俺のただ一人の伴侶となってくれ。ロミアス。俺はお前の家に輿入れし、ヴァリエの貴族となる。生涯ただお前一人を愛すると、今ここで誓おう」


 その言葉に、今一度自身の体が大きく強張る。


 言いたいことは、山のようにあった。数多のしがらみに雁字搦めにされ、いくども飲み込んだ言葉の数々。諦める覚悟はとうに出来ていた筈なのに。ああ、我ながら未練がましい。


「フェリペ様」

「……ああ」


 正面から見た想い人の顔は、見るからに緊張し、しかしどこまでも真剣なものだった。


「……私はその言葉を夢に見て、貴方をお慕いしておりました。ずっと、待っていたんです……」


 自身の声が情けなく震えているのを自覚する。ああ。でもこれだけは、はっきり言わねばと勇気を振り絞り、言葉を紡いだ。


「私も、貴方を愛しています……フェリペ様。生涯ただ一人、貴方だけにこの愛を捧ぐと。神と祖の名に置いて『ロミアス・ペーリエ』が此処に誓います」


 

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