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【番外編】負け犬達の宴



「ロミアスにフラれた……」


 そう暗く沈んだ声色のまま、赤髪の青年は自らの杯にある酒を飲み干す。


 ここは屋敷に備えられた小さな中庭の一角。適当な岩に腰掛け、雲一つない美しい星空の下、俺とフェリペは屋外での酒宴に興じていた。


「……もしやとは思っていましたが、お二人は想い合う仲でなく、フェリペ殿下の片想いだったのですか」

「馬鹿をいうなパウル殿。お前も見ていただろう。ロミアスは俺を拒もうと思えば容易く拒める。互いに合意の上だ」


 先ほどの、フェリペを前にしたロミアスの戦いぶりが脳裏に浮かぶ。確かに瞬殺だったな……。彼の魔法の腕前は、傍目でみても飛び抜けたものだが、いやはや。


「……なあ、あいつは俺の何が気に食わないと思う」


 そうこちらに問いかける男の声色は、どこか不安に揺れたものだった。

 フェリペ・レムール・ナダグラ。一国の王にして帝国の第四皇子。優れた容貌と魔法の腕前を持つ、傲慢不遜な男の姿。しかしその横顔は、自身と同じ年を重ねだけの、まごうことなき若人のそれであった。


「これは不敬にあたるやもしれませんが」

「構わん。同じ男を取り合った仲だろう」

「……フェリペ殿下の普段の素行が、原因ではないかと。自分に愛を囁いておきながら、誰彼かまわず求婚する殿方の姿を見て、不安にならぬものはおらぬでしょう」


 その言葉に、フェリペはひどく驚いたような表情を浮かべた後、そうか……と微かに声を漏らす。


「つまりロミアスは、『ただ一人の為に注ぐ愛情』を俺に求めてるということだな」

「彼が実際どう思っているかは分かりませんが、一般的にはそうかと」

「ははぁ、なるほど。この俺……レムールの皇子にして時代の寵児。フェリペ様の愛を独占しようとは、あいつも中々に強欲なところがある」

「あとはその態度も、余りよろしくはないかと」

「ん? どういうことだ」

「ロミアス殿は普段謙虚な物腰ですが、ああみえて高い矜持と自負をお持ちの方。自らを侮る相手を前に、決して心を開くことはないでしょう」


 フェリペはこちらの言葉に、思うことがあったのだろう。沈黙が続いたのち、口を開く。


「侮っていたつもりはない。俺は十五の時、戦場で魔物相手に一歩も引かぬロミアスの勇姿を見て、彼に懸想した。あいつはこの俺の隣に立つにふさわしいと。そう思ったからこそ、彼を第一夫人に迎えるべくその背を追ってきた」

「第一夫人……フェリペ殿下。貴方がその調子では、俺としてもロミアス殿を譲る訳にはいかなくなります」

「……そんなに不味いのか、これは」

「彼が腹を立てた原因でしょうからね。ご自身は移り気でありながら、相手には一途な愛を求め、結婚を認めぬなどと。全くもって身勝手で、傲慢な振る舞いだ」

「……」

「フェリペ殿下としても、俺がロミアス殿と婚姻まではいかずとも、間男になることさえ許しがたいでしょう」

「当たり前だ! ……ああ、なるほど。段々と俺にも分かってきた」


 我が身の事となり、ようやくフェリペも納得がいったようだ。

 レムールは一夫多妻が盛んな国で、実際フェリペも第三夫人である母から生まれている。お互いの国の文化が違う以上、致し方ないことではあるものの。やはり気持ちの良いものではない。


「お分かり頂けたようで、何よりです」

「ああ……しかしパウル殿は、ずいぶんと人の心の機微というものに敏感だ。恋敵の俺が言うことでもないが、まこと助かった。貴殿は俺ほどではないが良い男だな」

「勿体無きお言葉……フェリペ様こそ、重ね重ねの無礼な言動も意に介さず、俺の言葉に真摯に耳を傾けてくださった。その御心の深さと度量の広さに、きっとロミアス殿も心惹かれたのでしょう」

「ハハ、どうだかなぁ。あいつが俺のどこを好いたのか、直接ロミアスの口から聞いたこともないゆえ」


 フェリペのその言葉に、ロミアスと彼の関係性を薄々と察する。きっと彼らの間には、あまりにも言葉というものが足りていないのだろう。お互い言わずとも分かる部分もあったのだろうが、煮え切らないままでは己が身を引いた意味もない。


「……後日、彼の母フラミスを交えて話をする。そこでもし、いよいよ駄目なら今度は貴殿がロミアスに求婚する番だな。パウル殿」

「殿下にしてはずいぶんと弱気な発言で」

「ハハハ! お前も言うようになったじゃないか。当然、貴殿に番を回す気など更々ない。大陸一の色男たる俺に口説かれ落ちぬ者はいないと、今一度証明してみせよう」


 先ほどのしおれた様子が嘘のよう、フェリペはその男らしくも美しい顔に不遜な笑みを浮かべる。

 ああ、敵に塩を送るなど。父がこの様を見ていたら、さぞ呆れ返っていたことだろう。だが、これで良い。俺はロミアスのことを未だ愛しているが、それ以上に、十四年想い続けてきた彼の幸福を心から願っているのだから。

 


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