71. 深夜の宴(その1)
「ユウマ殿、シュルツ王子! ずいぶん遅かったではないかぁ。ワハハ!」
「ハハ、ドミニク殿。夜半の急な誘いなのだ、無理もなかろう……さあこちらに座ると良い、ユウマ殿」
「あ、ではお言葉に甘えて隣に」
「この席には私が座ろう、ゲラン殿……フェリペから話は聞いている。マンティコア討伐の折、ユウマに色目を使っていたそうだな?」
シュルツの声が徐々に、低く凄みのあるものへと変わる。聞くものが竦みあがりそうなそれも、ゲランは軽く肩をすくめていなしていた。前から思っていたが、中々に大物だなこの人。
「ドミニク殿、このたびは酒宴の席にお招き頂きありがとうございます」
「よいよい! そう固くなるなユウマ殿。我ら四人以外誰もおらぬのだ、ここは無礼講といこうじゃないか」
この人に関してはずっと無礼講なんだよなぁ。まあただ、段々このノリにも慣れてきた。元々俺とて現代の一庶民。変に畏まられるより気も楽だ。
ドミニクの私室は広く、部屋の壁には多くの杖や剣が飾られている。きっと彼のコレクションなのだろう。用意された円卓には多くの酒瓶と軽いつまみが盛られていて、乾杯もそこそこに俺たちは本日二度目の酒を煽った。
「城には使いを出している。翌日はこのランバルの邸にて、ゆっくり体を休めてから帰るとよかろう」
「お気遣い感謝するドミニク殿……ところで、フェリペ殿はいずこに」
「息子のパウルと共に宴を抜け出したよ。ロミアス殿にフラれた者同士、今頃を傷を舐め合っていることだろう。フン、たがが男一人にフラれた程度で、情けないことだ」
なるほど、元々パウルとフェリペも加わって四人の宴だったのか。というかこれ、二人が抜ける穴を埋めるべく俺たちが呼ばれた感じだな? ……そうだとしても、今回は運が良かったと喜ぶべきなのだろう。
「ドミニク殿。無礼講ということで、ここは一つぶっちゃけた話をしても良いでしょうか?」
「良い良い、申してみよ」
「エクス王子とシュルツ王子。どちらがヴァリエの王になるのがこの国の利になるか。貴方の考えをお聞きしたい」
我ながら、本当にぶっちゃけた質問だ。緊張を隠すよう唾を呑むと、ドミニクはしばしの沈黙の後、口を開いた。
「なるほど、この国の利か。面白いことを言う」
「ドミニク殿。あなたの曽祖父ドラウ・ランバルは、当時のスーデン国王の庶子だったという噂がある。ゲラン殿との親交も、それが元となっているのでしょう」
「おお、ユウマ殿は博識だな。左様。ドミニク殿と私は、スーデンの獅子王グスタフを同じ祖にもつ同志だ」
「ええ……ドミニク殿はスーデン王国に深い縁を持つお方。しかし同時に、このヴァリエ王国の国益を真に案ずる器量も持ち合わせていると、俺は貴方と実際に話しをし、そう思いました」
「うむ、言いたいことは分かった。要は私欲を抜きにした意見を聞きたいということだろう。良い」
ドミニクは、一拍おいて自身の口を開いた。
「ヴァリエの一貴族としての立場であれば、私はシュルツ第一王子をこの国の王に推す」
「……なぜそうお思いで」
「鍵はユウマ殿、あなただ。エクス王子が国王となった後も、貴殿らの身は危険に晒され続けることだろう。私はエクス王子とそれなりに親交も深いゆえ分かる。彼はシュルツ王子、そうしてそれ以上にユウマ殿のことをいたく憎んでおられる」
えっ、シュルツよりも俺の方が憎まれてるの? い、意外……そんな悪いことしたかな、俺。
「ほう。それは初耳ですな、ドミニク殿」
「ハハ、今のはエクス王子には内密にしていてくれたまえ。ゲラン殿……ということで、その場合私は人類の利を考え、シュルツ王子とユウマ殿を国外に逃さねばならなくなるだろう。結果ヴァリエは希少な異邦人の血を失い、その国益は大きく損なわれるという訳だ」
「……ちなみに私欲を交えた場合は」
「摂政となった私の権限で、第一王子夫妻をスーデンに移住させる。その見返りとしてスーデン王国内での我が家の権威を高め、最終的にはかのファルタ家のよう。ヴァリエとスーデン双方の国王を輩出する名家として、国を跨ぐ権勢を得て我がランバルの名を大陸中にとどろかせたい」
ば、売国奴だ……ここに同席する皆を信用しての発言だろうが、それにしてもぶっちゃけすぎだろう。




