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69. 決闘(その2)



「……な、なぜ。威力を落としたといえ、俺の雷魔法を受けて何事もなく動けるのだ。フェリペ殿」

「俺たちが使えるのは火の魔法だけじゃない。そうだろう? パウル殿。風魔法にも中々便利な使い道があってな。例えば自分の体をごく僅かに浮かせるとか。なあロミアス!」


 自身の名を呼ぶフェリペの声に、ロミアスは一拍おいて口を開く。


「……四年前のサンダーバード討伐の折ですね。飛行もしくは浮遊していれば、魔物の放つ雷をある程度は軽減する効果がある。あの時は数人がかりで対策を練り、最終的に貴方が魔物を仕留めた。しかし、一体いつのタイミングで、そんな魔法を」

「ま、こまけぇ事はいいじゃあないか! いずれにせよ俺がこの決闘に勝利したのはまごう事なき事実だ。そうだろう皆のもの!」


 フェリペは大きな声を張り上げ、俺たちの方を見回す。

 

 ……ううん、俺は種の仕掛けが分かった気がする。おそらくフェリペが自らに浮遊の魔法を掛けたのは、決闘用の杖を受け取ったタイミングの試し撃ち。そこで自らの体をほんの数センチ浮かせたところで、周りのものはそんな些細な変化に気づきようもない。


 ただそれにしても、フェリペは浮遊の魔法をかけた後、短杖にて火の魔法を撃っていた筈。通常、短杖や長杖など、使用する杖を分けた場合魔力持ちは魔法を各々並列して使用することが出来る。

 

 ただ代わりに、その行為には膨大な集中力が必要となり、必要以上に脳が疲弊するのだ。ましてや同じ杖で並行して二つの魔法を使用するなど、まず不可能だろう。


「……フェリペは『無杖』にて簡易な魔法なら撃てるという。どこかで細工をしたな」


 無杖は、魔法技術の中でもきわめて難度の高いスキルだ。

 魔法は通常、力の指向性を定めるため杖の使用がほぼ必須となる。しかし熟練の使い手や魔法の才に恵まれたものの中には、杖を使用せず呪文のみで魔法を使えるものもいる。それが『無杖』だ。


 ……俺も一応無杖の魔法はロミアスと練習し、本当に簡単なものなら成功させたこともある。しかしフェリペはおそらく無杖で浮遊の魔法を、それと並行して短杖で火の魔法を使ってみせた。

 

 すごいなレムールの第四皇子。ただ顔が良くて女癖……いや男癖が悪いだけじゃないんだ。普通に見直した。


 内心そんな失礼なことを考えつつ、俺は目の前の光景へと意識を戻す。


「……ええ、全くもって完敗です。貴方は俺が雷の魔法を使うこと、そうしてその性質のことを理解し、この短時間で十分な対策を練られていた。口惜しいですが、俺のような凡弱より貴殿の方がロミアス殿にふさわしいのでしょう」

「そう必要以上に己を卑下するな、パウル殿。俺はお前がロミアスにちょっかいをかけた事が許せなかっただけで、お前の力量そのものを軽んじる気はない。同じ火の使い手として、互いに己が技を磨いていこうじゃないか」


 波乱の幕開けとは裏腹に、両者は戦いの後。思いの外和やかな雰囲気で握手を交わす。

 おお……これはなんだかんだ結果として、良い方向に落ち着いたのでは? 一時はどうなることやと思ったが、これにて一件落着……。


「フェリペ殿下」


 氷のように冷たい声色と同時。戦いを終えた男たちの足元、いやフェリペの真横に鋭く尖った氷柱が地面から勢い良く突き出て、その鮮血の如く赤い髪の毛先を数本ほど切り飛ばす。


 文字通り、場の空気が凍った。恐る恐る声のする方を向けば、ロミアスが感情を削ぎ落とした表情のまま、フェリペの足元に向け自らの短杖を向け彼を見据えていた。

 

「まさかこれで終わりとは思いますまい。次の相手は私です」

「え……いや、ロミアス? お前も見てただろう、俺は確かに勝って」

「勝ったからといって殿下……それで私に一体何の利が発生するのです? 貴方はただ、私の婚姻の邪魔をする為だけに、わざわざこのランバルの地までこちらを追ってきたに過ぎない……今すぐ杖と剣をとれ。フェリペ・レムール・ナダグラ。フラミスが長子、ロミアス・ペーリエが貴殿の相手をいたそう」


 そのロミアスの声色は、自身も初めて聞くほどにおどろおどろしい情念と、憎しみに似た怒りが篭っていた。


 ……まだ全然終わってなかったわ、修羅場。


 というより彼が言うよう、この決闘の勝敗で決まるのはあくまで「パウルがロミアスに手を出さない」という条件のみ。こうして見るとマジでロミアスにメリットが無いな。そりゃ怒るか。


「ユウマ……今、私の目の前で一体何が起きているのだろうか。彼とフェリペは想い合う仲の筈。なぜ争う必要がある」


 隣でシュルツが、本当に何も分かって無さそうな顔つきで恐々と俺に問いかけてくる。

 ……うーん、これ正直に言っちゃった方が良いのかな。でもこのシュルツの、どこか人を疑わぬ純真な部分というか、子供の様にあどけなく夢みる無垢さというか。そういう所は失われて欲しくないんだよなぁ。どうしようかな。


「……まあ、愛憎は裏返しとでもいいますか。例え深く愛し合ってる二人だとして、何かが掛け違えばこうして争うこともあるのですよ」


 とりあえずそれっぽいこと言っておくか。実際あの温和なロミアスがあれほど激昂しているのだ。何かしらの強い感情がそこに裏付いているのは確かだろう。

 

「そうか……」


 シュルツはいまいち飲み込めていない表情で、しかし未だ困惑しつつもその目はロミアスとフェリペの方に向く。


 まあ俺とシュルツはずっとラブラブだからなぁー……ちょっとイメージつかないか。本当に可愛いなぁ、俺の伴侶は。

 そう半ば現実逃避をしつつも俺も痴情……といっても良いのだろうか。そのもつれにもつれ切った末の惨状を見届けるべく、己が前へと目を向けた。

 


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