67. 表に出ろ
「ドミニク様、こたびはこの宴にお招き頂きありがとうございます」
「ああ良いロミアス殿。我らは婚姻にて繋がった親族同士ではないか。我が長男と貴殿の妹御も、領地にいれば同席させていたのだが、今は王城に出向いていてな……さて、ロミアス殿を呼んだのは他でもない」
「はい」
「昨夜話を聞いた所、我が息子のパウルはどうやらロミアス殿に懸想しているようでな。貴殿さえ良ければパウルの嫁になってやってはくれぬか」
ロミアスは絶句し、俺も思わず自身の杯を倒しかけた。
えっ、昨日は何か「パウルを俺の愛人に」みたいなこと言ってなかった!? お、俺が断ったから? それにしても昨日の今日で話が変わりすぎだろ。
「……すまない、ユウマ。今少し席を外しても良いか」
シュルツが俺の耳元で密かに囁く。
いや逃げるな第一王子! この急展開に逃げたくなる気持ちも分かるけど。
彼は俺を膝から下ろして椅子に座らせると、部屋の隅にて腕輪の魔法を起動し、何やら小声でやり取りをしていた。ダミアンと連絡を取ってるのだろう。あれかな、なんとかして早く城に帰れるよう計らってくれてるのかな。ロミアスや俺を連れて。
「父上! 何も急にこんなことを……」
「なんだ、今頃になって臆したかパウル。昨夜私の部屋に来るなり、この父に楯突いた気概はどこにやった」
「それとこれとは話が別です! なにゆえ公の場でこのようなことを」
「たわけ、公の場だからこそ話すのだろう。裏での口約束などなんの意味も持たぬ。スーデンとヴァリエの王族、異邦人殿が立ち会う御前にて、昨晩この父に申し立てたことを今口にせよ」
待って立ち合うとか言ってないから。やだよぉ〜よく分からない色恋沙汰に首突っ込んで馬に蹴られたくない。城に返して。……そ、そうだ!
「ドミニク殿! 婚姻のことは、まず先方の親に話を通すのが筋のはず。フラミス殿はこのことをご存知なのですか?」
「今朝城に伝令を送り、すでにフラミスからの返事も貰っている。『当人同士気があるのなら好きにすると良い』との事だ」
早いな行動がぁ〜〜そしてフラミスの返事も恐ろしく早い。いやまあ確かに即答しそうだけども、もうちょい悩むか焦らすなりして欲しかった。
「……ドミニク殿」
シュルツが卓へと戻り、一拍置いたのちに空いた椅子、元は俺の席だったそこへと座る。まあ一連の騒動には、流石に酔いも覚めたか。
「貴殿も彼とフェリペ皇子の話は耳にしているはず。当事者に筋を通さぬまま、話を進めるのはいかがなものか」
「ふむ……して、どうするかね」
「先ほど護衛を通してフェリペと連絡を取った。今からこちらに来るそうだ。瞬馬を借りたとのことで、一時間後にはここに着くだろう」
うわあこっちも急展開! そういえば彼はダミアンと隣領に居ると言っていた。……おそらく、合流してロミアスと会うつもりだったのだろう。
いやあ。ちょっと何とか、せめて当事者同士だけで話し合って貰えないだろうか……。
俺とシュルツと、あとゲランはここらでお暇させて頂くので……ねえ? そう思いますよねゲランさん? そんな思いを込めて、今日の来賓であるスーデン王弟たる男に目を向ける。
「ハッハハ! とうとうフェリペ殿も腹を決めるか! これは良い、我らも若人の恋の行く末を見届けましょうぞ。ユウマ殿、シュルツ王子」
ダメだこっちは高みの見物をする気満々だ。いいなぁゲランは割と無関係だもんなぁ。俺たちはこの件について、正直どっちの味方についても角が立つ気しかしない。
隣から助けを求めるようなロミアスの視線を感じる。いや本当にゴメン。でもこの件、俺たちが下手に関わり過ぎると国際問題になりかねないんだ。その意味で、当人を呼び出して話を付けさせようとしたシュルツの行動は間違いなく正しい。ロミアスには悪いが、なんとか自分で頑張ってくれ。
その後、フェリペを待つ間の歓談ということで、ロミアスとパウル双方に問いが投げかけられる。フェリペのことには敢えて触れず、あくまで望ましい婚姻の条件や相手に求めることなど、まっとうな内容の質問が多かった。はじめ明からさまに強張っていたロミアスの表情も、徐々に緩んだものへと変わっていく。
「そうですね、私は母……いえ、父と同じ魔法の道を極め、この国のお役に立ちたいと思っています。ですので出来れば城への勤務は、引き続き認めて頂けると」
「無論。私はロミアス殿の勤勉で、かつ他方に実績を残そうと、討伐から教職に至るまで自ら積極的に動き事を成そうとする意欲的な姿勢を気に入っておる。貴殿がこの家に来てくれるのなら、私とパウルは全力でその道を支援し、援助を惜しまぬと約束しよう。なあ、息子よ」
「はい。俺も今は領地の手伝いをする身の上ですが、ロミアス殿の伴侶となった暁には、武官としてヴァリエの王城にお仕えいたします。必ずしやロミアス殿の幸せを第一に考え、貴方のおそばにて誠心誠意尽くさせて頂く所存です」
おお、ずいぶん熱烈な告白だ。ロミアスもその言葉のせいか、際限なく注がれる酒のせいかは分からぬが。白く滑らかな頬を赤く染め、あながち満更でもなさそうな表情をその顔に浮かべている。というかロミアスこれ、大分飲まされてるな? ひょっとしなくてもフェリペが来る前に勝負を決めるつもりか。
思いの外和やかな雰囲気になって来た酒宴の最中、唐突にバンッ! と大きく扉の開かれる音が響く。
音のした方を振り向くと、そこには今まで見たことのない鬼気迫る形相をした、麗しい赤毛の青年の姿がそこにあった。
「ドミニク殿、突如の来訪をお許し頂きたい。シュルツ王子、こたびの件を早急に知らせてくれたこと、誠に感謝する」
「ああ」
「話は彼より聞いている。パウル・ランバル。貴殿と会うはワイバーン討伐……いや、先月のマンティコア討伐以来か」
「……ええ、フェリペ殿下」
「今すぐ表に出ろ。俺のロミアスに手を出そうとしたことを、あの世で後悔させてやる」
うわぁ〜〜ド修羅場。帰りたいなぁ。でもこれ絶対放置して帰れないなぁ。うう。




