65. 剣と杖
「シュルツ王子、ユウマ殿。先日は貴殿らへの礼を欠き、誠意と敬意なき言動をとったことをここに詫びる。相すまぬことに御座った」
ランバルの二夜目の晩餐会にて。ドミニクはこちらに深々と頭を下げながら、そう謝罪の言葉を述べた。
「とまあ一旦互いの約束も果たしたことで、本題に入るとしよう」
「切り替えが早いですね……」
「爺の長話をご所望かね? ユウマ殿は私と同じ、言葉だけの詫びよりは実を好むと思い用意させたものがある」
ドミニクの合図と共に、使用人が大きな荷をこちらに運んでくる。
そこには大小並ぶ、装飾細かな長方形の箱が二つ鎮座していた。使用人が箱の鍵を開け、蓋を上げる。
「これは」
「千年前、ヴァリエの勇者が使っていたとされる魔法の剣と杖」
おおっ!?
「……の、レプリカとして作られたものだ。こちらを貴殿らに譲り渡そう」
まあそうですよね。
「だがこの品自体が由緒のある代物でな。百年前、異邦人が我が国に招かれたことを記念し、当時の名匠の手により作られた。一時期はヴァリエ王家が所有していたとされるが」
「ランバルに輿入れしたエスト王子が父王より譲り受け、持ち込んだものだな」
「左様」
え、それって実質家宝みたいな物なんじゃ……。
「ほ、本当に頂いてしまってもよろしいのですか?」
「構わん。本来この剣と杖は儀礼用でなく実用品として作られたそうだが、当時王より品を送られた異邦人の奥方が大層これを気に入ったそうで……結局は一度も使われることなく末子の手に渡り、そうして今ここにある」
あれだな、俗にいう「勿体なくて使えなかった」やつか。
確かに伝説の剣と杖のレプリカにしては、装飾も控えめでシンプルな代物である。柄を包むようあしらった翼の飾りと、そこに散りばめられた粒状の五色の宝石のきらめきは、素人目にも機能的な美が備わっている。
「特に剣の方は、魔力を込めれば中級の魔物にも手傷を負わせることが出来るそう。シュルツ王子にぴったりの品であろう」
「……誠に、ありがたく存じます。ドミニク殿」
「こちらからの詫びの品だ。畏まる必要はない、ユウマ殿。どうしてもお気になさると言うのなら、そうだな。貴殿と王子の子がいつかランバルに嫁ぐおり、新たな品をあつらえ返礼とされれば良かろう」
……これ本当に詫びの品であってる? 受け取っちゃって大丈夫なんだよな? シュルツ王子?
「あいも変わらず、ドミニク殿は野心家でいらっしゃる。貴殿の誠意、ヴァリエの長子シュルツ・ローエンが確かに受け取った」
「ほう。そこは未来のヴァリエ国王シュルツとでも名乗るべきでは? ハハハ!」
「……その話は、今少し酒が進んでからが良いでしょう」
シュルツの言葉に、ドミニクは「おお、そうであった」と側付きに命じ、瞬く間に宴の準備が整えられる。
昨晩の食卓と異なり、今回のそれは甚く豪勢だ。ゼルフィの美食と趣向は違えど、テーブルには豚や鳥の丸焼きやら大魚を丸々包んだパイやらのご馳走が並ぶ。確かに美味そうではあるが……りょ、量が多い。十人前はあるんじゃないか? これ。
「本日はシュルツ王子の討伐祝いということで、客人を呼んでいる。もうそろそろ来る頃合いだろうが」
ドミニクの言葉と同時、バンと扉を開け放つ音が出入り口より響く。
「久しいなユウマ殿、シュルツ王子! そうしてこの度の歓迎、誠に感謝いたす。ドミニク殿」
「おお! ゲラン殿。スーデンのベヒモス討伐は実に見事であったと聞いておりまする。さあ私の隣にお座りなされ」
現れたのは、明るい褐色の髪に髭を蓄えた大男。現スーデン国王の弟にあたる男ゲランの姿であった。




