58. 俺を信じて
「すみません……ついカッとなって勝手に決めちゃいました」
「良いんだユウマ、私の代わりに怒ってくれたのだろう? 本当にありがとう。お前のような伴侶と巡り会えて、私は幸せ者だな」
ええん優しい……。いやでも本当に申し訳ない。啖呵切っておいて、実際頑張るのはシュルツだもんな。
あの後宴はお開きとなり、俺たちは与えられたランバルの自室で明日の討伐のことについて話し合っていた。シュルツもすっかり酔いが覚めたようで、今は心なし俺から距離をとっている。やっぱ当人も恥ずかしいんだな。でもどっちかといえば今こそ引っ付いてきて欲しいよ、俺。
「一応、俺の考えでは勝算はあるのですが……シュルツ様からは何かおありで?」
「…………剣で応戦し、隙を見計らい急所を突く」
えらい物理だな。
あまり言いたくはないが、ここで濁してもしょうがないと口を開く。
「トドメに剣を使うのは良いですが、ミノタウロスの硬い皮膚は魔法で無ければ傷付けられないと言います。コボルトやオークとは勝手が違うのですよ、王子」
これはロミアスからの受け売りだ。魔法の座学や過去のオーク討伐……未遂だが、その準備の際に魔物の種類や耐久性については一通り学んでいる。
魔物、特に上位のそれは魔法以外の攻撃に強い耐性を持っている。
一応皮膚の柔らかい魔物であれば剣でも傷付けられるそうだが、魔法以外で付いた傷は通常、たちまちに再生してしまう。物理のみの場合、一撃もしくは連撃で致命傷を与えなければ倒せないのだ。故に魔物討伐は魔法の使用がほぼ必須となる。
「しかしユウマ……私は、魔物に向けて攻撃魔法を撃つことが出来ない……どうしても出来ないんだ」
それは、滅多に聞くことのない消え入りそうなシュルツの声色だった。
……そんなことはとうに知ってる。城内でも有名な話だし、実際ゼルフィのグリフォン討伐の際。シュルツが使う魔法を観察していれば、自ずとわかることだった。
しかしシュルツ本人の口から、自身にその事実を告げられたのは、これが初めてのことだった。
沈黙の後、静かに口を開く。
「大丈夫です、シュルツ様。さっきも言いましたが、俺にはちゃんと勝算があるんです。だから……どうか一人で抱え込まないでください。俺を信じて頼って欲しい」
シュルツとの距離を詰め、その首に腕を回して抱きしめる。
はじめ彼の体は強張っていたが、その後徐々に力を緩め、おずおずと俺の背に腕を回すとこちらを抱きしめ返した。
「お前は……いつだって私のことを考え、尽くしてくれる。その献身と愛情を疑ったことなど一度もない。お前を信じるよ、ユウマ。その期待と信頼に私もまた応えよう」
真っ直ぐなシュルツの言葉に、俺は彼の胸に抱かれたまま、小さく頷く。大丈夫、彼ならきっとやれる筈だ。必ずしやミノタウロスをその手で仕留め、あのドミニクをぎゃふんと言わせてやろう。
「それでは早速、ロミアスさん達を部屋に呼びましょう」
「……ああ、作戦会議か。そうだな、もう日も無いことだ。明日の段取りを決めがてら、ユウマの妙案をぜひ皆にも聞かせてくれ」
そう言って、シュルツはその形の良い唇に微かな笑みを浮かべる。うん、段々調子も出てきたようで何よりだ。
明日連れて行く護衛はロミアスと、俺としてはほぼ初めて顔を合わせる新顔二人。
明日は彼らとも確実に連携をとり、この任務を達成しなければいけない。
気合いを入れるべく、シュルツから体を離した後。俺は自身の顔を軽く両手で叩いた。




