57. キレちまったよ
「討伐に随行するのは我が家の四男。パウル・ランバルだ」
そう言って扉から現れたのは、赤褐色の髪をした体格の良い青年。精悍ながらも美しい顔をしており、歳は20前後ほどに見える。
「……は、い。ただ今紹介に預かりました、パウルと申します。シュルツ殿下、ユウマ様。明日はどうぞ宜しくお願いいたします」
一瞬、パウルの顔に動揺の色が浮かぶものの。次の瞬間にはその顔に朗らかな笑みをつくろう。ああ、恥ずかしい。すみませんね良い歳したおじさんが若者の膝の上に抱えられてるとんだ珍光景をお見せして……明日には忘れていて欲しい。
「倅は今年二十歳になったばかりでしてな。未だ妻を伴わぬ身ではあるが、魔法の腕は中々のもの。ぜひともこたびの討伐に役立ててくだされ」
そう言って、ドミニクは俺の隣……今俺はシュルツの席にいるので、一つ空けて右隣の席にパウルを座らせる。
それから俺たちは、パウルを交えた四人で食事をする運びになった。いや、あの。もう本当に部屋に戻りたいんですけど……うわぁシュルツ頬擦りはやめて! 恥ずかしい!
「ハッハハ、シュルツ王子はずいぶんとユウマ殿に入れ込んでおる様子」
「そ、そうなんですか」
「王子は酔うと誰彼かまわず肌をよせる悪癖がある。だがここまでベッタリなのはエクス王子の時以来だ」
えっ、そうなんだ。まあシュルツも割と弟大好きなとこありそうだからな。それにしてもこのレベルのスキンシップをあのエクスにか……。
「弟の方は顔を真っ赤にして激怒しておったよ」
そりゃそうだろう。
「いやはやアレは全くの見ものであったな! ハハハ!」
「父上、少し飲み過ぎでは」
「そう言うなパウル。そうそう、お前をここに呼んだのは他でもない……ユウマ殿」
「え、あ、はい」
「我が倅を見てどう思う」
えっ、どう思うと言われましても……。
「……ええと、その。カッコ良いですね?」
「そうであろう! 更にこやつは私ほどの才こそないが、火の属性を発現させている。年も十二分に若い。どうかねユウマ殿」
「どうかね、とは一体」
「パウルをぜひ、貴殿の将来の愛人にどうかと申している」
「ドミニク」
背後から、地を這うようなシュルツの低い声がとどろく。そんな、ただの冗談なのに怒らなくても……いや、やっぱ怒ってくれシュルツ。目の前のドミニクの目は本気と書いてマジだ。何考えてんだこのジジイ。
「ドミニク殿……それは一体、どういうおつもりで?」
「無論ヴァリエの世継ぎを作るべく、王子と番う必要はあるだろう。しかしその後はどうだ? 王家の血を引く子は二人もいれば充分。ユウマ殿、天の属性と勇者の素質を持つ貴殿の血は、時に王族のそれ以上に価値がある」
「……」
「神より授かりし天の属性も、最下層の土と交えてばかりでは宝の持ち腐れだ。高貴の血はより低く、易きに流されやすい。ユウマ殿は同じ天、最低でも火属性の魔力を持つ男と番い、より多くの子を成すべきだ」
「父上!」
「ふん、王城の者どもは腰抜けばかりだ。誰も言わぬのだから私が言う他あるまい。ユウマ殿。私の言うことに何か間違いがあるか? ヴァリエの忠臣ドミニク・ランバルは、真にこの国と人類全体の利を考え、こうして貴殿らに忠言している」
ドミニクの言うことが正しいかどうかで言えば、まあある種正しいのだろう。
魔法の属性には貴賤がある。天、火、風、水、土の順で基本使える属性の種類も増え、その希少性は高まっていく。
属性は両親からによる遺伝が主だが、例えば水同士で子を成すと土の属性が生まれることがある。そうして土同士では、時に魔力のない子供が産まれることさえあるのだ。
属性は、何もしなければ徐々に低きに流れていく。ゆえにこの世界の王侯貴族は、自らの血に宿る魔法の神秘を維持すべく、その属性に重きを置くのだ。
……その観点で言えば、ドミニクの提案は非常に合理的だ。きっと城の皆ですら、頭の何処かではそう思っていることだろう。だが、それを決して口にしなかったのは。
「……ドミニク殿」
「何だ」
「賭けをいたしましょう。明日の討伐、シュルツ王子がミノタウロスを1体自らの力で仕留めることが出来なければ、私は貴殿の提案を承諾します」
背後でシュルツが何か言いかけるのを手で制す。
「ほう、ではもし王子がミノタウロスを仕留めたら?」
「我が伴侶シュルツとこの私に謝罪を。彼の生まれ持った属性を侮辱したこと……そうして俺が王子一人に捧ぐと決めた愛と忠信を軽んじたことを、詫びて頂きたい」
ドミニクは俺の言葉に唇を引き結んだ後、ふはっと息を吐き笑った。
「良かろう! 異世界の邦人ユウマよ。ランバル家当主ドミニク、貴殿に敬意を持ってその挑戦を受けようではないか。ふっ、それにしてもユウマ殿よ……伴侶の膝の上に愛らしくおさまっている割にはずいぶんと勇ましい。ふっ、はは、ハハハ!」
……言うなよぉ〜〜自分でも締まらない絵面だと思ってたんだから。とほほ。




