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54. ここが正念場



「いよいよ明日ですね」

「ああ」


 寝室で二人、ベッドに横たわりながら俺は目の前のシュルツに語りかける。


 この世界に召喚されて二ヶ月ほど。色々な事があったものの、現状俺たちの方針は変わっていない。


 エクスを王とし、シュルツはその臣下として政務を補佐する。この世界に召喚された当初、何も知らなかった俺は彼の言葉をそのまま実現可能なものとしか受け取っていなかった。しかし。


「もしランバルの長、ドミニク様が話をした上でなお俺たちとの対立を選んだら」

「……その場合、私はエクスと王位と争うか、この国を去ることになる」


 うん、まあそうなりますね。エクスが王となった後、俺たちの立場が危うくなるんじゃ話にならないですからね。


 元々、俺はシュルツとエクスの仲がそこまで険悪なのだと想定していなかった。いや、厳密にはシュルツの片想いで、エクスが一方的にこちらを疎み軽んじてるという方が正しいか。


 俺の見た所感として、シュルツは弟のエクスに対してとことん甘い。というより腹を割った話し合いもしないまま、肉親の情でなあなあに「彼なら大丈夫だろう」と思い込んでるように見える。まあ、分かるよ。俺も前の世界ではそうだったから。


「……俺も優しいシュルツ様が、実の弟と争わねばならぬことになる事態は避けたいと思っています」

「……」

「しかし、向こうに和解する気がないのなら話は別です。それはドミニク様に限ったことでなく、エクス様に関してもそうだ」


 この際だからもう、はっきりさせておくことにする。


「俺たちは間違いなく、第二王子派の誰かに命を狙われている。その首謀者がエクス様であった場合、このヴァリエ王国を彼と二人で治める道は絶たれると思ってください」


 ぶっちゃけこの線がほぼアタリな気もするけど。まあエクスはともかく、ランバル家のことをまだよく知らない内に憶測で決めつけるのは良くないだろう。


 一応ドミニクが首謀者の場合は、まだやりようがある。エクスを王にするという目的のみで俺たちの暗殺を目論んでいるなら、はじめから両者の利害は一致してるのだと向こうに納得させ、その後友好をはかる道もあるからだ。


 しかし、もしエクスが実の兄にすら手をかけるような人間であった場合。少なくとも彼を手放しでこの国の王にすることは出来ないだろう。


「……私は王に相応しくないと、面と向かってエクスに言われたことが何度かあるよ」

「ならば王位を譲ると、直接彼とその話をしたことは?」

「あるにはあるが。その結果、弟はひどく激昂し私を詰った。以降は口にしていない」


 駄目じゃん。というかそんな出来事があったのによく、エクスに王位を譲れると思ったな……。


「弟はプライドが高いからな。勝ち負けの結果でなく、ただ私に譲られ王となることに、我慢がならなかったのだろう。臣下の投票では私が勝ってしまった故、次は古の選王の儀に習った方式で、再度勝負を行う予定だ。エクスにもその旨は伝えている」


 選王の儀。かつてこの世界が魔物の支配下にあった頃、一国の王位を継ぐ者は、その周辺国の王達による投票で決められていたそうだ。

 一丸となって魔物と立ち向かうにあたり、愚王の存在を許容する余裕が当時の人類にはなかったからだとされている。ゆえに平和の世となって以降、王の後継はその国々で決めるのが慣習となっていたが。


「ゼルフィ王国のアリエス、ナダグラ王国のフェリペ。スーデン王国は元より親ランバル派だ。この三票……少なくとも二票はエクスに入ることだろう」


 あーだから以前アリエスに交渉を持ちかけたり、フェリペに色々便宜を図っていたのか。俺の涙? やロミアスの犠牲はけして無駄にはなっていなかった訳だ。


「エクスも各国の王に顔と恩を売るため、積極的に魔物の討伐へと赴いている。順当にいけば私でなく、彼が王となる筈だ」


 まあ、そうだよな。そりゃシュルツだって何も考えてない訳じゃないよな。今まで何となく俺一人で動くことが多かったけど、もっとシュルツとちゃんと話をすべきだったかもしれない。


「……エクス様も、自分が有利な立場にあることは理解されている筈。兄である貴方の命を狙う理由もない。だから、きっと大丈夫ですよシュルツ様」


 今後訪れるやもしれぬ弟との対決を憂う彼に、気休めの言葉をかける。


 そう、あくまで気休めだ。エクスが慢心なく、自らが確実に王となるためシュルツの命を狙っている可能性だって大いにある。


 いずれにせよ、明日以降になればきっと見えてくるものがある筈。自分達の命を狙うものの正体。そうしてその後の道筋を見定めるべく、まさしくここが正念場であった。

 


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