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52. シュルツの朝練



 シュルツと俺の仲はおおむね順調だ。


 時折羽目を外しすぎることはあれど、毎晩健やかに夫婦としての営みを送り、日々満たされている。ゼルフィから戻って数日が経ち、互いの生活も落ち着きつつある頃だった。


「っん、シュルツ様……?」


 普段、俺は割と寝汚い方で、ぎりぎりまで惰眠を貪るのが常なのだが。今日は珍しく隣から聞こえる物音に目を覚ました。


「こんな時間から、一体どこに」

「ああ、朝の鍛錬だ。お前はもう少し寝ていると良い」


 そう言ってこちらの頭を撫でる手に、絆されそうになるのを寸での所で堪える。鍛錬。そんなことをしてるとは初耳だ。


「俺も行きます」

「……そんなに大層なものでもない。部屋の外の離れた場所で、少し素振りをするだけだ。警護のこともあるからな」


 俺とシュルツの部屋の警備は、現状ダミアンとロミアスを初めとした数名の護衛が交代で行っている。以前はもう少し緩かったそうだが、昨今の事情から致し方ないことなのだとか。


「……以前は何処かに行かれていたのですか」

「中庭にダミアンを伴い、時折手合わせなどもしていた」

「今日の警備担当はたしか彼ですよね。俺も一緒に行くなら問題はないと思うのですが、どうでしょう?」


 彼は少し考えた後、「それもそうだな」と俺の言葉に頷く。

 やった。我が自慢の伴侶、シュルツの肉体は美しくも実用的な筋肉に覆われよく鍛えられている。そんな彼が汗を流し鍛錬する姿は、さぞや目の保養になることだろう。


 シュルツが静かに扉を開けると、そこにはすでにそばで控えているダミアンの姿。彼に連れられるまま、俺たちは城の中庭へと移動した。



 ヴェイルセル王城。この城にはいくつもの庭園や中庭が存在し、今ここに立つ場所は城内でもっとも広く人目も多いところにある。

 現に離れた場所では、城の兵士たちが集まって日々の鍛錬を行っていた。朝からみんなご苦労なことで。


「早朝、ここを訪れるのは久しいですね殿下。体が温まって参りましたら、一度手合わせをいたしましょう」

「ああ、頼む。ダミアン」


 そういってシュルツは練習用の木剣を手に、幾度か構えを変えながら素振りを行う。


 はぁ、カッコ良い……本当に好き……。


 長年練習してきたのだろう。シュルツの動きは全てが堂に入っていて、彼の男振りに一層の磨きをかけていた。

 しばらく絶世の美丈夫が鍛錬を積む姿を目に焼き付け、だがふと気付けば、先ほどと異なる視点で彼の動きに魅入る己を自覚する。

 

 武術に関しては全く素人の筈なのだが、不思議と彼の目にも止まらぬはずの剣さばきを、俺は自身の目で追うことができた。


「重心も刃先も全くブレてない。すごいですね、シュルツ様の剣の腕前は。ダミアンさんが一人で教えていたんですか」

「ええ。私も祖父の受け売りではありますが、多少剣の心得がありますので」

「……ゼルフィで賊に襲われた時も、シュルツ様は剣一本で複数の刺客をいなしたと聞きました。あなたの教えた剣のおかげで、彼はこうして生きて俺の側にいる。改めてありがとうございます」


 そう俺が礼を口にした途端、普段表情の乏しい彼の顔が一瞬微かに歪んだように思えた。少しの躊躇いの後、ダミアンが口を開く。


「こんな事を……ユウマ様の前で申すのは大変おこがましいと承知の上なのですが。私は己の非力をこれまでずっと恥じておりました。もし私がたった一人で、あの時ユウマ様をお守り出来るだけの力があれば。ロミアス殿をシュルツ王子の側に向かわせ、主君の命を危険に晒すことも無かったと……」


 ダミアンの声は、今までに聞いた事がないほど震えたものだった。


 そうだよな。俺もあの日シュルツが何者かに攫われたと聞いた瞬間、文字通り血の気の引く思いがした。

 ダミアンとは短い付き合いだが、彼が生真面目で責任感の強い性格をしてることはすぐ理解が出来た。そうして同時に、自身の護衛対象であるシュルツのことをとても大切に思っていることも。


 だから、俺はあえて明るく軽い調子を装い口を開く。


「……ま、これからは大丈夫ですよ! 俺は天の魔力持ちで、伝説の勇者と同じ異邦人で。おまけにマンティコアとグリフォンも倒した。俺もこれからずっと、シュルツ様のお側にいますから。その上貴方やロミアスさんがいれば怖いものはありません」


 ダミアンは俺の言葉に目を見開いた後、やがてその精悍な面立ちに不器用な微笑みを浮かべて、言葉を紡いだ。


「まこと、ユウマ様のおっしゃる通りでございます……私は未だ若輩の身なれど、今後ともシュルツ殿下とユウマ様に、変わりなき忠誠を捧げることをここに誓います」


 

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