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50. 大人気ない



 結論から言うと、セレニケは大人気なかった。


 二度目の審査で、彼は宝飾をそのままに白絹を薄く透明なものへと変え、ひどく扇状的で麗しい姿を衆目の前に晒した。

 いやあ、男の体も磨き抜けばあれほど人々の目になまめかしく映るのだと。何だか知見の広がる心地だった。


 一方アドニスも目を惹く赤の装いから、翠玉の葉と金の蔦飾りによるシンプルながらも彼の美を際立てる上品な装いで、中々良い線はいっていた。だが悲しきかな。男のさがというのはどうも目先の色香に一も二もなく飛びつく単純な作りをしているようで。勝敗を告げられた時、アドニスはひどく悔しそうな面持ちで俯き地面を見つめていた。うん、まあでもあれは仕方ない。よく頑張った。


「ハハハ! セレニケがあれほどなりふり構わず身を切るのも珍しい。全く今日はイイもんが見れた。なぁシュルツ王子?」

「フェリペ、あまり身を乗り出すな。お前は私の隣で大人しくしてろ」

「おっとこれはお熱い台詞でこって。だが残念ながら、お前は俺の好みにゃ合わないからなぁ。せめてもう少し背が小さければ」

「ユウマに近寄るなと言っているんだ」


 俺と並ぶシュルツの隣には、いつしか新レムール帝国の皇子フェリペの姿があった。どうやら馴染みのセレニケが居ないからと、退屈してこちらの席にとやってきたようだ。だがおそらく彼の狙いは俺でなく、俺の隣に護衛として控えるロミアスのように思えた。かわいそうに、ロミアスは先ほどから息をひそめ、自身の存在を消そうと必死に努めている。


「……ああ、そうだ」


 シュルツが、ふと思いついたように言葉を紡ぐ。


「フェリペ、お前の席をユウマと替えてやろう」


 ど、どうしてそんなこと言うの?? ぎょっとしてシュルツの方を見るが、彼は至極当然といった表情をその顔に浮かべていた。


「……中々気が利くじゃないか、シュルツ殿下。それなら俺の部下を二人、ここに置いていく。ユウマ殿の護衛を一人借りても良いか」

「構わん」

「あの……シュルツ様?」


 俺が止める間もなく、とんとん拍子に話が進み。ロミアスは腕を引かれ問答無用でフェリペに連れて行かれる。

 え、今目の前で何が起きてる? 人身御供?


「…………」

「ああ、そういえばユウマには話していなかったか。フェリペは引く手数多の豪傑にも関わらず未だ独り身なのだが、それには理由があると本人から聞かされていてな」

「……一体、どういった理由で」

「彼は我が国のロミアスと恋仲の関係にあるらしい。しかし身分が違い過ぎると、彼の方がフェリペに遠慮をしているそうだ。国政に携わる私の身としても、ロミアスという優秀な人材が他国に渡るのはかなりの痛手となる。ゆえに大々的に彼らの仲を応援することはできぬが、せめて時折便宜ぐらいは図ってやろうと思ってな」


 どうしよう。俺がロミアスから聞いてた話とだいぶ仔細が異なる。


 しかし、少なくともフェリペやロミアスとの付き合いは、俺よりもシュルツの方がずっと長く親しい筈。彼が良いと判断しているのであれば、案外それも間違いでないのかも……いやどうだろうこれは。ど、どっちだ?


「そうなんですねぇー……」


 少し悩んだのち、その場は一旦流した。深く考えるのは後にしよう。そう現実から逃避すべく目を横にそらすと、斜め前の席にいたナルシスが立ち上がり、大声を張り上げて壇上の少年へと語りかけているのが見えた。


「アドニスーーーッ! お前の覚悟と勇姿! しかとこの目で見届けた!」


 おお、思ったより前向きな台詞。これはひょっとして、もしかすると。


「お前の仇は必ずや、来年この俺がとってやる! その暁に、再来年以降お前が俺に勝てたら、嫁に貰ってやってもいいぞぉアドニス! ワハハハ!」


 ダメだこりゃ。そのナルシスの態度から、彼がアドニスの一世一代の告白を、全く本気にとっていないことを傍目にも察する。まあ恋人や伴侶というより、何となく男友達のような距離感だったからなぁ、あの二人。きっと彼の勝負はこれからなのだろう。俺は全力で応援しよう、アドニス。


 

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