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117. おめでとうございます



 転性の儀を施してから今日で七日目。いよいよ最終日といった日の夜のことであった。


 ロミアス、助けてくれ。

 

 そう何度本気で口にし、中断させようと思ったことか。しかしその決断をするにはいささか遅く、俺は文字通り抱き潰されるようシュルツの大きな体の下に閉じ込められ、満身創痍のていで泣いていた。もはや助けを求めるべく声を張り上げる元気もない。


「うぅ、ひっ、ひぐっ……シュルツさまぁ」

「ユウマ……今日が最後なんだ。あともう少しだけ頑張ってくれ」


 そうこちらに語りかける声色は優しく、しかしその目は未だあくことない欲でギラつき、興奮の色を見せていた。ねえ、知ってる? 俺の数え違いでなければ今晩これで七回目だぞ? 初日の記録更新目指そうとしてる?


「も、がんばらないっ、ヒッ、ぐすっ、ぅ、やだぁ」

「分かった、ならこの一回で終わりにしよう。それで良いだろう? ユウマ」

「うぅ〜〜……」


 全然良くないのだが、最早自身に彼を止める術はない。一応、シュルツ自身もあと一回という言葉を守る気はあるのだろう。その動きがより緩慢で、名残惜しげなものへと変わった。いやちょっと、終わらせるつもりあんならせめて逆だろ。こら、シュルツ。


「っふ、うぅ、ぐすっ」

「ああ……こんなに泣いて」


 彼の親指が、俺の目の縁に触れあふれる涙を拭う。そうだろ? 33歳のおじさんこんなに泣かせて楽しいか? シュルツ。お前にそんな趣味はな……。


「本当に、ユウマはどんな姿でも可愛らしい……私にお前の全てを見せておくれ。我が愛しの伴侶よ」


 ごめん、俺のことに関しては思いの外趣味悪いよな。シュルツって。この一週間で学習してない俺が悪かった。うぅ、あと一回か。今度こそ信じて良いんだよな。信じるからな。ハァ、こ、子作りって大変。

 




「おめでとう御座います。無事懐妊しておりますね」


 

 そりゃあんだけやってデキない方がおかしいんだよ。頑張った甲斐しかないからな……。


 そう喜びより冷静な思考が先んじたが、どんとぶつかるよう俺の体を抱きしめたシュルツの腕の力に、いよいよ思考どころではなくなる。ちょ、痛。分かったシュルツ。嬉しいのは分かったからぁ、いてて。


「ユウマ……ありがとう。私の子を授かってくれて」

「ハハ、まだ産まれてないのに気が早すぎますよ」


 俺たちの様子に、フラミスは柔らかな笑みを浮かべ口を開く。


「本当におめでとうございます。私もユウマ様に携わる身として、胸が熱くなる想いです」

「フラミスさん、改めてありがとうございます。いや、今後もお願いします……と言った方が良いですかね」

「ええ、転性の儀による妊娠は、男女のそれといささか勝手の違う部分もありますから。ユウマ様とシュルツ様の子が健やかに育ちますよう、私も微力ながらにお力添えいたします」


 いやぁ、本当にお願いします。

 正直、嬉しい気持ちより先に若干の不安と困惑、そうしてそれ以上に期待の気持ちが胸いっぱいに膨らんでいた。だって今俺の腹にシュルツの子がいるんだぜ? 早く会いたいな。


「私からも頼むぞ、フラミス」

「閣下のおっしゃる通りに……ふふ、しかしエクス国王の時もそうでしたが、お二人は本当に仲がよろしいのですね」

「ハハ、そんなそんな……エクス国王の時も?」


「通常。転性の儀から一週間は、術者が定期的に寝所を訪れ懐妊の有無を確認するのですよ。しかしシュルツ様はそれをお断りになり、ユウマ様も私を呼ぶことはなかった。ふふ、ご多忙なお二人にとって今回はまたとない機会ですものね。お気持ちはとても分かります」


 フラミスの言葉を受け、俺は一拍置いて横に座るシュルツの方を向く。おい、何顔逸らしてんだ。


「シュルツ様、こちらを向いてください」

「…………」

「シュルツ」

「ユウマ……ああ、そんなに怒らないでくれ。だが怒り顔のお前もまた愛らしいな」


 それで誤魔化せると思うなよ? クソッ何故そんなしょうもない隠し事を……いや理由は分かっている。分かっているが、今度という今度はもう許さん。



 結局、嘘を吐かれたことに関しては『三日間俺がシュルツと口をきかない』という罰を下すことで、けじめを付ける運びとなった。


 まったく。後からバレる嘘を吐くなんざ、この向こうみずな所は一体誰に似たんだ……あ、俺か。

 


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