【番外編】エクス被害者の会
ここは天国とも地獄ともつかぬ狭間の世界。
何故自身らがここにいるのか。誰もそれを分からぬまま、一面の暗闇の中に、ぽっかりと空いた穴から時折下界の様子を見下ろす。
そこにいるのはいつだって一人の姿。我らの身を死に追いやった、金色の髪を持つ絶世の美男、エクス・ヴァリエ・ランバルその人の姿があった。
『エクスよ……フラミスからも体を労わるよう言われているだろう。お前の愛しい伴侶の言うことを、どうか今一度聞き届けてはくれぬか?』
『断る。私はこの国の王だぞ? フラミスやお前が何と言おうが私の勝手であろう。なあゲラン……その邪魔な衣を今すぐ捨て去り、早くお前の熱い肌で私の身を温めておくれ。我が子を孕む伴侶の体が、このまま冷えきってしまってもお前は構わないというのか?』
「あああエクス様……! 貴方ほどの気高きお方が、そんなつまらぬ男に色目を遣い端女のように媚びるなど……うう、お、俺の女神が……!」
穴の縁にかじりつくよう張り付き、嗚咽まじりに悲痛な声をあげているのはエリク・リベイジ。第二王子エクスにそそのかされ、俺の弟を直接的に死に追いやった憎い仇の一人だ。
「なあ兄ちゃん。なんであの貴族様はあんなに泣いてるんだ? それに、俺は今覗いちゃだめって……」
「カストル。もうしばらくの辛抱だからな。あの男がああして咽び泣いてるうちは穴を覗いちゃいけない。兄ちゃんと約束しただろ?」
俺の可愛い弟カストルは、屋敷に幽閉されていた期間が長いため、どこか世俗に疎いところがある。これが生きている時分なら、弟の今後のために色々教えてやることもあっただろう。しかし今は最早そうでない。彼はもうこの世の苦しみや汚れを、これ以上知る必要もないのだから。
胸が張り裂けるような男の苦悶と、淫婦のごとく無様に堕ちた雌の嬌声。そのさながら地獄絵図のような光景を前に、自身の口から微かな嘲り笑いが漏れる。
ざまあみろ。死した後に罰を受け、生きながらに恥を上塗る仇二人の末路に、心底胸がすくような想いだった。もっと苦しみ抜いて、無様を晒せ。
「兄ちゃん?」
「っああ、すまない……少しぼうっとしていた。さて、そろそろ穴から離れるか」
「うん。でも俺退屈だよ……ここは、あの穴以外に面白いものが何もないじゃないか。兄ちゃん、あのおじさんに話しかけるのはダメなの?」
「あれは俺たちの父親と同じゲロ以下の匂いがプンプンするからな。決して近寄るんじゃないぞ、カストル」
そういって俺は鎖でがんじがらめに縛った男の姿を一瞥し、弟の手を引く。あれの名はフォルガイ・ポーネンといったか。時折エリクがあの男を捕まえて拷問にかけているが、それ以外は俺の魔法により動きを封じている。俺は生前、事務的な取引で言葉を交わしたのみだが、それでも彼が弟にとって極めて有害な存在であることだけは理解が出来た。
天国とも地獄ともつかぬ狭間の世界。おそらくエクスが死ねば、この世界も徐々に閉じていくのだとそう朧げに理解はしていた。
その時には彼もまたこの世界にやってくるのだろうか。もしそうであれば、いよいよあの仇二人を鎖でふんじばり、弟の分まで存分に殴り倒すつもりであった。絶対にやってやる。だからどうか最期には、改めて私めに復讐の機会をお恵みください。神と祖よ。




