114. 後日談
建国祭が終わった後も俺たちの生活は続いていく。というよりむしろここからが本番といえよう。
「……経過はすこぶる順調のようですね。この調子であれば一ヶ月後には『転性の儀』を行えると思います」
「本当ですか!?」
こちらの身体を検診した後のフラミスの言葉に、思わず大きな声が自身の口から漏れる。うおお……! う、嬉しい。いよいよこの時が近付いてきたかぁ。
俺がこの世界に呼び出されてそろそろ七ヶ月となる頃。初めフラミスは、俺たちが転性の儀を行うのに最長一年の時間がかかると言っていた。しかしどうやら運よく、いや日頃の努力が身を結んだようで、予想していたより早く儀が行えそうとのことだった。
「いやあ、エクス陛下らには先を越されてしまいましたが。嬉しいなぁ。楽しみだなぁ」
「彼らは『風』と『水』、近しい属性同士であれば二ヶ月ほどで儀を行えますからね。ふふ、それにしてもあの二人は随分と適合が早かった。相当励まれたのでしょう」
フラミスの唇にはどこか愉快気な笑みが浮かんでいた。いやあ、改めて怖いな惚れ薬。あのエクスがゲランにべったりで、政務の最中もなかなかそばを離れようとしないのだから、これは夜もさぞかし……いや想像するのはやめよう。
宮廷魔法使いである彼から知らせを受けた後、俺はウキウキで自らの職務へと戻った。今俺は宰相シュルツの伴侶として、彼の政務を手伝う立場にある。いうなれば秘書官のようなものか。そのため日中も基本、俺はシュルツと行動を共にしているのだ。何とも幸せなことである。
「……どうであった? ユウマよ」
ヴェイルセル王城の執務室において、そうシュルツがこちらに問いかけて来た。俺がフラミスの所に行っていたのを、彼は把握している。俺は少し悩んだ後、口を開いた。
「結果は今日の政務が終わった後、私室にてお伝えします。そうせねば仕事が手に付かぬことでしょう? シュルツ閣下」
「……今この時点で、内容が気にかかるあまり仕事が手につかぬと言ったらどうする?」
「えーどうしましょう? ハラルド殿」
「ハァ……ここでおっしゃって頂いても構いませんぞ、ユウマ殿。急ぎの仕事は全て終えておりますゆえ、明日より励んでいただければ結構」
手に持った羽ペンを机に置き、ハラルドが小さくため息を零す。彼はシュルツが宰相となった後、摂政の座より降りて今は一文官として引き続き政務に携わっている。シュルツと違い、まだまだ新米の俺はよく彼に助けられている身の上だ。いやでも本当にすごいよこの人。ずっと元気に長生きして欲しい。
「フラミス殿から、あと一ヶ月で儀を執り行えるだろうと」
「……! 本当か!」
「おお、それは誠にめでたい話。よかったですな、ユウマ殿。シュルツ閣下」
シュルツもハラルドも、そう嬉しそうな声色で俺の知らせを祝ってくれた。いやあそうだよな、めでたいよな。へへ。
「しかし転性の儀……実はフラミス様から未だ詳細を伺っていないのですが、シュルツ様は儀について何かご存知でしょうか?」
「ほう? ユウマにしては珍しい。普段であれば分からぬことはすぐさま自身で調べているであろうに」
いやそうなんですけどね。こと自分に関わることだから、つい調べようにも臆してしまって。
「……現在懐妊中のエクス様を見るに、見た目や体が女になるという訳ではないのでしょう?」
「ああ。外形上の見目はそのままに、子を産む器官のみが体内に作られるのだと聞く」
「なるほど」
「儀を行なって一週間、子を授からねばその器官は自然と体内に取り込まれ消滅する。その場合は再び前準備を行い、儀をやり直すこととなる」
「やり直す……えっ、ひょっとしてまた一年」
「いや、一度儀が成立すればその後の準備は一ヶ月ほどで十分だそうだ。ユウマが心配するような事態にはならない」
あ、そうなんだ。良かったようなちょっと複雑なような。
「しかし一週間かぁ」
「ほほ、エクス陛下とゲラン様のよう、ユウマ殿らにも一週間の休暇を用意せねばなりませんな……この爺にお任せくだされ」
「あ、そういえば以前二人とも城に顔を出さない期間がありましたね。やはり儀の後も色々やらねばならぬことがあるのですか」
「ユウマ……やることは一つだけだ」
「一つだけ……? あっ」
シュルツの、微かに言い淀むようなその言葉に全てを察する。
ああー、そっか。一週間しか無いんだからそりゃ増やすよな、試行回数を。がっつり短期集中でいくってことね。なるほどぉ…………もつかなぁ俺の腰。




