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113. 建国祭



「いよいよこの時が来ましたね」

「ああ……ふ、ユウマ。緊張しているのか」

「そりゃしますよぉ。だってこんなに沢山の人が集まる中、演説するなんて滅多にないことですから。うう、カンペ用意したけど不安……」

「言葉に詰まった時は、私が代わってやろう」

「いえ。お気持ちだけありがたく。9つも年下の伴侶におんぶに抱っこは、流石に俺の沽券に関わると言いますか」


 そう言っている間にも、エクス王子……いやエクス国王とゲランの演説が終わり、ついで自身らの番となった。ひいぃ。


 ヴェイルセル王城には、その城下をのぞむ広大なバルコニーが設けられている。俺とシュルツ、そうしてエクスとゲランはその場に立ち、ヴァリエの建国を祝福すべく集まった人々らに向けて宣誓と演説を行っていた。見下ろす先の人の海。国中から集まった貴族らや民衆が、城下町の大広間にひしめきあっている。


 ヴァリエの建国祭。千年前この国が興ったとされる月の末日に行われるという、ヴァリエ王国随一の大祭だ。

 王都だけでは人がおさまらぬため、祭りの数日前から都の周辺に仮設の拠点が出来るほどの賑わいである。城下にはずらりと屋台が並び、多くの大芸道人や楽者、踊り子らが人々の目を楽しませる。


 国王の即位式や婚姻の儀など、大きな行事もこの祭りに合わせ行われることが多い。今回はエクス王子の即位と、両王子の婚約の発表が主なイベントとなっていた。


 うう、緊張する。心なし足取りも固い俺の腰に、シュルツの大きな手が回る。儀礼用の分厚い衣服越しに、しかし不思議と俺は彼の体温を間近に感じていた。その温もりに、僅かながらの勇気が胸の内に湧き上がる。


 そうだよな。俺の隣には今、最高の伴侶がいるんだ。世界で一番幸せ者なはずの俺が、今胸を張らずしてどうする。


 中央からしりぞき場所を譲るエクスの顔は、見るからに喜びと誇りに満ち溢れたものであった。数多の宝石を縫い込んだ豪奢な赤衣を身に纏い、金色の髪のてっぺんには輝く大きな王冠が被せられている。そうしてその片腕には彼の愛しき伴侶となったゲランの逞しい腕をとらえ、ひどくご満悦な様子であった。そうだな、俺もこの弟王子に負けてはいられないな。


 初めにシュルツが、城下の人々に向け大きく通る声で宣誓の言葉を述べる。


「我がヴァリエの民達よ。今日はよくぞこの祭に集った。私の名はシュルツ・ヴァリエ・ローエン。国王エクス・ヴァリエ・ランバルの兄にして、今日よりこのヴァリエ王国の宰相を務める者である。我ら兄弟は共に手を取り合い、千年前祖先が築いたこの国を治めていく。汝らは我らの庇護する民として。そうしてこの国を支える礎として。今後ともこのヴァリエ王国に忠を誓い、よく働き仕えよ」


 そう。エクスが国王となった後、シュルツは正式にこの国の宰相となり、王に代わって政務を取り仕切る立場となる。それは当初よりシュルツが思い描き、望んでいた形だ。いやあよかったよかった。


「シュルツ・ヴァリエ・ローエンが汝らの前で宣言する。我が隣に立つは、召喚の儀により異世界から来られたし異邦の者。かの勇者の同胞たる勇士カネナリ・ユウマである。私は『転性の儀』があいなった後、このユウマを我が伴侶として迎え、この者と共にヴァリエ王家の血を後世に残すこととする」


 そう言い切った後、シュルツがこちらに目配せする。そうだよな、いよいよ次が俺の番だな。ええと。


「……俺の名はカネナリ・ユウマ。宰相シュルツによりこの地へ呼び出された異邦の者。ヴァリエ王国の皆々方よ、俺はこれよりかの者の伴侶となる誓いを立て、汝らと同じヴァリエ王家に忠を捧げるものとして、共にこの国を支える礎の一人となることをここに宣言する」


 やばい、噛んでないかな。なんか間違えてたらどうしよう。しかし城下から湧き上がる大きな歓声に、どうやら上手くいったのだろうとホッとする。


「ユウマ」


 こちらを呼ぶ伴侶の声を耳にし、横へと振り向いた。


 ああ……ハハ、なんて顔してるんだ。さっきのエクスと良い勝負。いや、これはシュルツの勝ちだな。そんな顔されたら、思わず俺まで釣られてしまいそうだ。


「この世界に来てくれて、私の隣にいることを選んでくれて、本当にありがとう」

「感謝するのはこちらの方ですよ、シュルツ様。俺をこの世界に呼んでくださり、貴方の隣においてくださって、本当にありがとうございます。ふふ、これからずっと一生。シュルツ様には責任をとって貰わねばなりませんね」

「もとよりそのつもりだ」


 シュルツの言葉に、俺の口元がだらしなく緩むのを感じる。ああ、今。本当に幸せだ。


 俺の宣誓を最後に、バルコニーの周りからぶわりと魔法で生み出した花弁が舞い踊り、俺たちの未来を祝福するかのよう降り注ぐ。千年前、ヴァリエの勇者と姫もこの場所にて、二人共に手を取り合い、この世界の明るい未来を築いていくとそう宣言したのだという。


 俺とシュルツを引き合わせ、かけがえのない幸福を授けてくれたこの素晴らしい世界。次は俺たちが、世に対し恩返しをする番なのだろう。


 ……いやー腕が鳴るな。前の世界で会社経営は投げ出しちゃったけど、今回は投げ出せないからな。まあでもシュルツもいるしなんとかなるだろ。ハハハ。



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