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112. 異世界の春



「しかし、今回のことは我が弟にとってもちょうど良い機会だったのだろう」

「と、いいますと」

「どこまで本気か知らないが、実の兄である私に懸想していたなど……その間違った想いを断ち切るきっかけになったのなら、喜ばしいことではある」


 ああ〜〜……はい、まあソウデスネ。

 

 正直今までのエクスとのやり取りで、何度か「ん?」と思うことはそこそこあった。いやでもまさかさぁ。本当にそうだとは思わないよな。もし俺がシュルツと同じ立場、自分の弟に同じこと言われたら百パー鳥肌を立てる自信がある。シュルツも全く災難だ……しかし。


「まあ、俺はエクス様の気持ちも痛いほどに分かりますよ? こんな身も心も絶世のイケメンが、自分の最も身近にいてくれる兄であったのなら、俺とて懸想してしまいます」

「ユウマ……私の血の繋がった弟が、お前でなくて本当に良かった」

「ん? なぜです?」

「お前が弟であったなら間違いなく手を出してる」


 いやそんな力強く言い切られましても。じょ、冗談ですって冗談。


「ハハ……俺が言いたかったのは、エクス様の道ならぬ恋を、貴方にだけは覚えていてやって欲しいということです」

「…………」

「『死ぬその時まで、私のことを一時も忘れることなくいて欲しい』と、そうエクス様はおっしゃっていました。可愛い弟の願いは可能なかぎり叶えてやりたい。そう思い行動するのが『兄』というものなのですよ。シュルツ様」


 俺の言葉に、シュルツは青灰色の目を見開いたのち、その目元と口元をかすかに綻ばせた。


「……そうだな」

「ええ……最も今のエクス様は、自身の兄君でなくスーデンの弟君に夢中のようですが。ハハ、あの後俺は過去のマンティコア討伐で、ゲラン様に粉をかけられたことを遠回しになじられましたよ。エクス様は相当に嫉妬深くあられるようだ」

「ふ、エクスと私は兄弟だからな。そこは似通った所なのだろう」


 シュルツ……そうだな。ちょっとそこは否定できないかもしれない。いや正直俺は満更でもないから別に良いんだけど。


「ちなみにエクス様の相手が、ゲラン様だというのはあなたもご存知だったのですか?」

「もちろんだ。というよりは、私がゲランに矛先を向けるようフラミスに頼んだ」


 えっなぜ? あ、……ひょっとしてゲランが俺にちょっかいかけてたから? 無理やり弟とくっつけて落ち着かせようとしたとか?


「フラミスが当初推そうとしていた相手は、我がヴァリエ王国随一の破談数を誇る醜おと……下級貴族の長男。マルデ・サルーニであった。今年で39歳になるという」

「ひえっ。え、えげつな」

「……当初の話だと、私が王となりエクスはその男の領地にでも嫁がせれば良いとのことだった。サルーニ領は王都近郊にあるからな。監視や惚れ薬の補充もしやすいと考えたのだろう。だが」

「シュルツ様は、どちらかといえばエクス様に王になって貰いたいとおっしゃってましたからね……」

「ああ、よって代替案としてゲラン殿を推した。彼は国王の伴侶として申し分ない身分にあるからな。流石に彼本人に許可をとるわけにもいかなかったが、ドミニクには前もって話を通している」

「えっ、彼はなんと」

「願ってもないことだと喜んでいたよ」


 ああ……いや、ドミニクならそう言うだろうな。彼は以前ランバルを訪れた際、スーデン王位への野心を語っていた。自らの甥御がゲランと結ばれ、かの王家との縁が深まるのは彼としても喜ばしいことだろう。


「それにゲランはいささか豪胆すぎる嫌いもあるが、懐が広く漢気のある御仁。彼になら我が弟を任せられると思った」


 そっか。兄心だなぁ。いやあ、正直ゲランは完全に巻き込まれた形になるのだろうが、何だかんだ本人もオーケーしてたし良いのか。それにしても、この四か月弱で俺たち一体何組のカップル成立を目の当たりにしてきたんだろう……みんな春だなぁ。

 


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