【番外編】パウルの現在
「それでですねパウル様! 俺は二十もの兵達の目を掻い潜り、エク……とある貴人の部屋へといよいよ足を踏み入れ」
「うんうん、すごいぞジュリオス…………いや本当にすごいな」
ヴェイルセル王城のとある中庭の一角。俺とジュリオスは職務の合間をみはからい、束の間の逢瀬を楽しんでいる最中にあった。
王城に来てからというもの、ジュリオスは文官として日々働きながらも剣の稽古や、そうして秘密の任務と慌ただしく日々を過ごしているらしい。しかしフラミス様からの直々の依頼か……。
「そこで俺はみごと対象の咥内から、目当ての薬を探り当てたのです!」
話を聞いている所、見るからに危険な任務内容であったのが伺える。ジュリオスは言葉こそ濁しているが、彼が密かに忍び込んだと話しているその部屋の主人の名は、十中八九この国の第二王子……いや国王となるエクス・ヴァリエ・ランバルその人であろう。
俺はエクス王子と従兄弟の関係にあたるゆえ、度々交流もあった。彼は見るからに聡明で、抜け目がなく。そうしてその心の内に残忍な本性を隠しもつ御仁だ。
本当に、ジュリオスが彼を相手に何事もなく任務をこなせてよかったという安堵の気持ちと同時、純粋な感嘆と畏敬の念が胸の内へと湧き上がる。
「……あっ、すみません俺ばかり話してしまって。パウル様は明日また、ランバルの地に戻るのですよね」
「ああ。ラケシス様が輿入れするまでの間は、駐在する決まりだからな。とはいえその後は正式に王城勤務となるゆえ、俺もジュリオスと同じで仕事を覚えている最中だ」
「パウル様は何事にも秀でていますからね……城の皆さまともすぐに打ち解けたと聞いております。すごいなぁ、俺なんてまだまだだ」
「いや、ジュリオスもよく頑張っているじゃないか。最近は城の兵士達と一緒に鍛錬をしているそうだな。彼らの間で噂になっているよ。そう……」
中庭の女神だとか。深緑の姫君だとか。そういった二つ名が幾つもつけられていると……ジュリオスは幼い見目ながらも、その容貌は人並外れて優れている。正直、俺としては悪い虫が付かないか。ただそれだけが心配であった。
先ほどの危険な任務もそうだが、彼にはどうにも危なっかしい所がある。勿論それを補ってあまりある心根の強さや能力がある事も理解はしているが、正直許されるのであれば、いつ何時も彼の側にいてその姿を見守っていたい。深緑の姫君とはよく言ったものだ。
「……パウル様?」
「ジュリオス、俺がルーミエ家の正式な養子となった暁には、正式にお前へと結婚を申し込みたい」
俺の言葉に、ジュリオスはその白くまろみを帯びた頬をぱっと赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せる。
「は、はい……それまでに、貴方の隣に立つに相応しい人間となれるよう、頑張ります」
「ハハ、俺も負けてられないな」
「……! ダメですよ! 俺がパウル様に追いつかねばならないのですから、貴方は待っていてくださらなければ困ります」
その無邪気なジュリオスの言葉に、自然と口から笑みが零れる。
長年俺は自身の姻戚……ロミアスに恋をし続けてきたが、まさかこんなにも短い期間で新たな恋と出会い、そうして俺自身やその周りも大きく変わっていくとは思いもしなかった。
その変化は自身にとっても心地の良いもので、きっとこれは運命というものだったのだろう。
ジュリオスは俺に待っていろと言ったが、その約束は果たせそうにない。きたるべきその日までに、俺は相応の地位と給金を得られる立場まで登り詰める為、そうしてまとまった金を得る為、討伐や城の公式試合にも積極的に顔を出すことになるだろう。
……プロポーズの際には必ず、彼の両親がそうしたよう似合いの髪飾りを用意しジュリオスに贈ろうと思っている。
彼の緑がかった美しい黒髪に映える、とびきり大きな宝石のついた素晴らしい品を、俺からジュリオスへの愛にかえて。




