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【番外編】リオナの災難(その1)



 時はやや遡る。

 

 ゼルフィ王国首都に構えた壮麗な王宮の中心部。選王の儀の当日。アリエス陛下が外出の支度をしている間、俺が別室にて彼の娘アリエラ王女の子守りをしている時のことであった。


 突如部屋にむくつけき男数人が押し入ってきた。そうして俺とアリエラ王女は瞬く間にその身を抱えられ、共に王宮の外へと攫われたのであった。


 移動の最中、とにかく助けを呼ばねばと暴れたものの、男達は意に介さぬまま慣れた様子で宮廷内の道を進んでいく。その経路に俺はだんだん察しがついて、咄嗟に自身の腕にあるそれに魔力を通す。これで何とか気づいてもらえれば良いのだが。


 その後は訓練場に用意された疾馬の馬車に詰め込まれ、揺られること一、二時間。馬車は俺が予想していた通りの場所へと辿り着き、その外の景色に、目に涙を浮かべて震えていたアリエラ王女の顔がぱっと明るくなる。


「ちちうえのお家……!」


 アリエラ姫の心底嬉しそうな声色に、俺は「とりあえず最悪の事態は免れた」と一つ安堵の息を吐いた。



 

「リオナ・ルーミエ……お前はアリエス国王陛下から随分可愛がられている身の上だと聞く」


 安堵してる場合じゃなかったな。

 木製の椅子に縛り付けられたまま、俺は屋敷の外に建てられた小屋内にて現在進行形で監禁されている。

 

 ……ここはアリエラ姫の父の生家、ラムール家の屋敷でほぼ間違いないのだろう。ゼルフィ国王アリエスの一番目の夫マスキュラ・ラムール。彼はその血気盛んな性分ゆえ、アリエスとの離縁後に杖傷沙汰の事件を起こし、宮廷への出入りを禁じられていた筈だが……。


「貴方は確かパシータ家の三男サドスですか。これもマスキュラ様の命令で?」

「……! き、貴様、なぜ私の名を」

「え? 貴方と俺はゼルフィの宮廷で一度お会いしていますよね? ……職務柄、会った人の顔と名前は覚えるようにしてますから」


 マスキュラは第一王女アリエラの実父であり、同時にゼルフィ王国随一の武勲を誇る勇士だ。ゆえに彼を慕う若人は国内にも多く、その気になれば宮廷内の自派閥の貴族を丸め込み、こういった蛮行に及ぶのも決して不可能ではない。しかしそれにしても。


「……愚かなことを」

「っ、貴様! マスキュラ様を侮辱するのか!」


 そう言ってサドスは再び手に持つ鞭を振り上げ、そうして俺の体へと叩きつける。……いったぁ。まあ、魔法を撃ち込まれるよりまだマシなのだろうが、随分と無体なことをする。


「もう一度聞きます。俺に対するこの仕打ちは、マスキュラ様が命じたことなのですか?」


 俺の言葉に、サドスは下卑た笑みをその顔に浮かべ、こちらを見下ろした。


「……マスキュラ様からは、お前の監視のみを命ぜられている。だがリオナ殿。お前にはあの方が恋慕うアリエス陛下の関心を不当に奪い去った罪がある。ゆえに私がマスキュラ様に代わり、お前を処罰するのだ」


 そう言って、サドスは懐から短刀を取り出すとその刃をこちらの頬にかざす。


「さあどうしてやろう……そのアリエス陛下の気に入りの面を見るも無惨に刻んでやるか。それとも」


 服のえりにかかった短刀の刃先が、そのままぐっと下におろされ衣服の前面が裂ける。目の前の男の意図を悟り、自身の顔が歪むのを感じる。


「リオナ・ルーミエ。聞けばお前は転生の儀を受ける側の性だとか。今ここで身の程を弁えさせてやっても良いのだぞ……」


 その男の視線に、自らの背筋が怖気だつ。しかしそれを極力表に出さぬよう、顔を引き締めサドスの方を睨みつけた。


「自分の身の程など、とうに弁えている。俺を痛めつけたくば好きにすると良い。俺は例え……お前がどうなろうと知ったことではないからな」

「何を強がりを」


 次の瞬間。轟音と共に小屋の扉が吹き飛び、ちょうど自身の手前にいたサドスの身が、扉の直撃を受けそのまま地面に叩きつけられる。


「……てて、グエッ」

「マスキュラ。人を遣うのは勝手だが、それならもう少し頭を使わせろ。アリエラ姫だけならまだしも、リオナまで攫うのは悪手であったぞ」


 扉越しにサドスの体を踏みつけながら、そう短杖を片手に後ろを見据える絶世の美人。若きこの国の王アリエス・ゼルフィ・グロースの姿がそこにあった。その片腕には愛らしい赤毛の少女、アリエラを抱えている。姫はその緑の瞳をうるうると潤ませ、自身の母の姿を見上げていた。

 


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