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【番外編】ユウマと弟



 十二年ぶりに会った弟は記憶よりもずっと大人びて、そうしてどこか擦り切れた目をしていた。


「お前の経営手腕はカスだ」

「ハッキリ言い過ぎだろ」


 年季の入ったオフィスビルの一階、応接室。手元のタブレットに目を通しながら、こちらに視線を合わせることすらせず弟は口を開く。


「お前が十年かけて伸ばした売り上げを、俺なら三年で達成できる」

「あー。お前の会社の三年目の売り上げ、確かそんぐらいだったもんな?」

「ほう、物覚えだけは良いようだ」

「まあ今は親会社サマですし? それに弟が頑張って立ち上げた会社のことは、俺だって前々からチェックはして……」

 

 弟、と俺がそう口にした瞬間、彼は氷のような目線で俺を睨みつけた。あー分かった分かった。こんなのが兄貴だなんて、お前も認めたくないんだよな?


 二十二歳で某欧州国の有名大学を卒業。その後は現地の仲間と起業し、いまや世界に跨る大企業のトップとなった俺の超超優秀な弟。月とスッポンという例えすら生ぬるい。マジで同じ親から産まれたとは思えないからな。


「……で、そんな経営者としてカスな俺を、お前様は一体どう扱うつもりなんだ」

「クビだ。再来週の株主総会までに、後任への引き継ぎを済ませておけ。データは今から送ろう」


 ですよねぇー。血も涙もないな。

 十年前に父が亡くなって以降、俺が引き継いで経営していた小さな会社。最初の一、二年は赤字続きだったけど、徐々に経営も軌道にのり今では売り上げ三倍、従業員数だって二倍に増えた。俺にしてはまあまあ頑張った方と思うんだけど。


「お前は俺がいない十二年間、一体何をやってきたんだ」


 うん。まあそれでも。弟の方はもっとたくさん頑張ってきたんだろう。慣れない異国の地で、肉親にも頼れず一人で歯食いしばって。それに比べりゃ俺なんか遊んでたようなもんだよな。経営も一からじゃなく親のコネとかけっこうあった訳だし。


「ハハハ。まあ元から俺、社長なんてガラじゃなかったしなぁ」

「同意見だ」

「ハハ……それに比べて、お前は本当にすごいよ。こういったら怒るかもしれないけど、お前は昔からずっと、俺の自慢の弟だった」

「今更媚びているつもりか?」

「本当に可愛げがなくなったな。まあいいや引き継ぎね。ちゃんと最後まで仕事はするから、安心してくれよ」


 俺はそう言って、自身のノートパソコンを開いて弟からの連絡をチェックする。どれどれ俺の後任は……うわっすごい経歴。こりゃ弟に言われなくてもすげ替えた方が良いわ。これで親父の会社も従業員も安泰ってわけだ。よしよし。


「お前また海外戻るんだっけ? 俺もこの後挨拶回りあるからさ。ま、じゃあ達者で暮らせよ」

「……お前がどうしてもと言うなら、俺の会社にポストを用意してやらんでもない。まあ無能に与える仕事はない故、名ばかりのお飾りだが」

「え、普通にイヤですけど?」


 俺そういうの絶対ムリだから。まあ、おそらく弟なりの温情なのだろうことは伝わってきたが、俺とて33歳の大人。面倒を見てもらわずとも自分の人生ぐらい自分でなんとかするっての。


「…………勇真」


 おいおい兄貴を呼び捨てかよ。そう思いながら見上げた先にある弟の表情は、どこか昔懐かしい色を含んでいた。


 ……ああ、本当に大きくなったなぁ。俺より小さかった背も、今や二回りも大きくなって。きらきらと俺を見上げていた丸く大きな目は、切れ長く涼やかで、そうしてすっかりと擦り切れた大人の目になっていた。昔の面影などほぼ残っていない。それでも俺にとって彼は、どこまでも可愛い弟であることに変わりはなかった。


「日本に帰ってきたらさ、また連絡くれよ。今度は二人で飲みに行こう」

「なぜ俺がそんな面倒なことを、お前がこっちに来れば済む話だろう」


 いや俺、日本語以外喋れないし……まあいいか。勉強しとこ。

 心なし柔らかくなった弟の口調に、俺も口元を緩ませ笑顔を作った。


 

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