101. エクスの友人
あの後流石にロミアスとダミアンは来なかったものの。扉の外にいた護衛が慌てて部屋の中へと入ってきて、俺の上に乗りかかっていた男を瞬く間に拘束した。た、助かった。
「即刻、シュルツ王子に報告を」
「ちょっと待った」
先ほど男が口にしてた言葉が気に掛かり、報告に向かおうと駆け出す護衛の一人を呼び止める。困惑した様子ながらも、その足が止まったことを確認し、俺は男の方へと向き直る。
「あのー……君。さっき俺のこと知らないって言ってたよな?」
「っ、は、はい。そうです」
男は護衛の一人に拘束され、しょんぼりとうなだれながらも言葉を紡ぐ。この状況下でも、未だその息はかすかに荒く熱を持っていた。おそらく興奮剤か、媚薬の類を盛られているのだろう。
「エクス王子の名前を出してたけど、ひょっとして元々は彼の所に行こうとしてたとか」
「はい。おっしゃるとおり」
「うーん……待ち合わせ時間、いや場所をエクス王子から指定されてた? 例えば『赤い』薔薇の絵画が飾られた廊下のつきあたりの部屋に来いとか」
「っ! はい! 確かに『赤い』薔薇の絵画の近くにある部屋で、俺の訪れを待っていると。そう王子はおっしゃっていました」
……あんのやろぉ〜。
ヴァリエ王国首都。ヴェイルセルに聳える王城は恐ろしく広大で、その部屋数も非常に多い。ゆえに城の人間達の中では、城内に飾られた絵画や美術品などの目印をもって、部屋や場所などを指定することが常となっている。
この中で、今回俺とシュルツの寝室として使わている部屋はある種の鬼門と言われている。場所が分かりづらいのもそうだが、何より目印として使われる『赤い』薔薇の絵画がネックだ。ここと似たような立地の部屋で、ちょうど『青い』薔薇の絵画の近い部屋がなんと同じ階にある。そのため聞き間違いで、度々部屋を誤る貴族や使用人が数知れず。近年ではその特性を利用し、あえて両の部屋を押さえて目くらましに使用することもままあったというが……。
「多分だけど、エクス王子は『青い』薔薇の絵画と間違えて場所を伝えたんじゃないかと思う。だってここはシュルツ王子と俺、『カネナリ・ユウマ』が今日使う寝室として押さえてた部屋だからな」
目の前の男も、流石に俺の顔は知らずとも名前は知っていたのだろう。シュルツに良く似たその顔を、瞬く間に真っ青に染めうつむいた。
「ま、誠に。申し訳ございません。まさかそのようなお方であったとは、つゆほども知らず」
「うん……だからさ、こうしよう。君は部屋を間違ってここに来ただけで、俺には指一本触れていない。不審に思った護衛が君のことを知らせ、俺がこうして事情聴取をしている。その筋書きでいこう。護衛の皆も、それで口裏を合わせた上でシュルツ王子に報告して欲しい。良いか?」
これが一番角の立たない落とし所だろう。護衛達はおそるおそるといったように顔を見合わせた後、俺の言葉に頷いた。まあ結果大事に至らなかっただけで、不審者を俺の部屋に通したことが公になれば、彼らには重い処分が下る。ましてや部屋に忍びこみ、俺の寝込みを襲おうとしたこの青年の末路はいわずかもな。
十中八九、今回の件はエクス王子が仕組んだ俺への嫌がらせだろう。こんなつまらない事のために、巻き込まれた人々が重い処罰を食らうのは、俺が望むところではない。まだシュルツや周りの耳に入っていない今なら、穏便に事を済ませられる。
「ユウマ様、ありがとうございます……!」
流石に薬の効能より、今の現状に対する危機感の方がまさったのだろう。男は俺に深くこうべを垂れ、その口から感謝の言葉を述べる。
「あー……ところでさ、君の名前聞いてもいい? エクス王子とはどういった関係にあるのかな?」
「は! 私の名はリベク・エーミル。新レムール帝国東部に領地を持つ小貴族の五男になります。エクス王子とは討伐の折に知り合い、以降は彼とその……行動を共にする一友人として、側に置いて頂いております」
なるほど。先ほど寝込みを襲われた時の様子からするに、彼の愛人……いや、流石に違うか。おそらく今回の嫌がらせを実行すべく見繕い、連れてきたのだろう。
……よくもまあ、ここまで顔も背格好もシュルツに似通った男を探してきたものだ。いくらなんでも気合い入り過ぎだろ。自身が嫌っているであろう兄によく似た男。そんな相手に色仕掛けをしてまで、俺に嫌がらせをしたかったのか。どんな執念だ、まったく。




