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100. 誰!?



 ジュリオスと別れ、俺はついでに魔法の訓練をした後、遅めの夕食を摂ることとなった。普段、時間が合えばシュルツと食事を共するのだが、先ほど手紙で知らされたよう彼には今日大事な用事がある。


「この後は確か予定も無かったですよね?」

「ええ」

「よし、ロミアスさん。俺を部屋まで送り届けたら、二階の第十二番客室に向かってください」

「……? 客室ですか」

「今日、エクス様がフェリペ皇子を伴って城に戻られたそうです。ゆえにそう計らうよう、シュルツ様より連絡が」


 これは先程ジュリオスが届けた手紙にあった内容だ。今晩はシュルツとエクス、フェリペの三人で食事をした後、フェリペのみ一人部屋に戻るのだという。


 俺の言葉にロミアスは目を見開いた後、その白い頬をぱっと恥じらいに赤らめうつむいた。おお、あのロミアスがあからさまに照れてる。珍しい。


「仕事……いえ、お心遣い頂きありがとうございます。ではそのように」


 よーしよし。

 ロミアスがいくら優秀とはいえ、側仕えと護衛の兼任は流石に疲れも溜まっているはず。この機会に、遠距離恋愛中の婚約者とぜひゆっくり過ごしてリフレッシュして欲しい。


 その後はおおむね手筈通りに事も運び、俺は自室で一人寝そべり、シュルツの帰りを待つのみとなった。流石に大きな式も二つ間近に控えている状況。持ち込んだ資料を寝所の上で読むなりしていたが、段々眠気にさいなまれてきた。シュルツの手紙にも帰りは夜遅くなると書いてあったこともあり、俺は待つ事を諦め、部屋の明かりを消す。


 シュルツはエクスと二人、珍しく夜更けまで話をするのだと手紙には書いてあった。兄弟二人たまには水入らずで話すのも良い事だろう。正直あの二人の仲は、シュルツが思う以上に険悪なものである。だが今回、互いを傷つけぬという「祖の誓約」を結んだことをきっかけに、少しでもその仲がマシになることを外野の人間ながらに願ってはいた。


 ……俺は元いた世界で、実の弟と向き合うことから逃げてしまった。海外から戻ってきて早々、俺の経営していた会社を強引に乗っ取った弟に対し、何か思うことが無かったといえば嘘になる。それでも俺は肉親ゆえの情……いや惰性に身を任せ、弟の言うままに親の会社を明け渡し、その後まともに彼と話をすることもなかった。

 

 元の世界にさしたる未練はない。それでももしこうなる事が分かっていたなら、弟と二人腹を割って話す機会をもうけるべきだったかもしれないと、今でも後悔することがある。


 ……この世界で出会った愛する伴侶。シュルツには、なるべく同じ思いはして欲しくないなぁ。そんなことを漠然と考えながら、俺の意識は徐々に深い闇の底へと落ちていった。




「……?」


 暗闇の中、自身の体をまさぐる大きな手の感触に意識が覚醒する。


 シュルツ? 帰ってきたんだ。俺の寝込みを襲うとは……まあこっちも満更でも無いし良いんだけど。


「っ、ん」


 いつもよりも荒い手つきだった。ううん。もういっそ、このまま寝たフリを続けるのも悪くないかも。こちらの意識がないと思いこみ、どこまでシュルツが俺の体を好き放題する気なのか、興味がないといえば嘘になった。


「……! ん、ぅ」


 唇に柔らかい感触が触れた後、深くむさぼられる。え、ちょっと。そんなことしたら流石に起きちゃうって。もう起きてるけど。でもこの遠慮なくガツガツくる感じも堪らない。胸を揉んでいた手が、徐々に下へとおりてきて……ん?


 ふと、寝起きの頭が徐々に平常の思考能力を取り戻し。ぼんやりと感じていた違和感を明確に感じとる。あれ、流石にちょっといつもと違いすぎる気がするな……? 試しに目、開けてみちゃうか、どれどれ。


 暗闇の中、薄目にのぞく視界が徐々に焦点を結ぶ。あれ? やっぱりシュルツだな? そう思ったもののやはり違和感が拭えず、今度ははっきりと目を開きその顔を見つめる。うーん……これは……っ!? あれ!?


「誰!?」

「すみません、おそらく部屋を間違えてしまったようで……貴方がどなたかは存じ上げないのですが」


 シュルツに似ているようで、しかし明確に違う声色が自身の耳に届く。こ、これは。一体。


「っはぁ……貴方もエクス様ほどではないが、ひどく愛らしく蠱惑的だ。どうかお願いします。この一晩だけでも、俺に情けを……」


 間近に迫る、シュルツと似ているようで異なる男のひどく興奮した荒い吐息。先程まで感じていた快感の萌芽が嘘のよう、ぞわぞわと背筋が嫌悪で粟立つ。俺は数度声にならぬ言葉を発した後、一つ息を吸って今日一番の大声を出した。


「ロミアスさーん! ダミアンさーん! 助けてぇーー!!」


 いや待ってどっちも居ないわ今日!!

 ロミアスは今頃フェリペの所にいるだろうし、ダミアンもおそらくシュルツの護衛についている筈。それでも俺は、自らのあらぬかぎりの声量を振り絞って、日頃己が信頼をおいている護衛二人の名前を叫んだ。

 


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