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93. レッサードラゴン



 ドラゴン。それはこの世界において魔物の最上位に君臨する存在である。


 巨大な爬虫類にも似た外観。背には蝙蝠に似た翼を有し、長い首の先にある頭部には二本の角を持つ。口からは灼熱の息吹を吐き、その体表はあらゆる物理攻撃、魔法に対する一定以上の耐性を誇るのだという。


 今回討伐するのは、正式に「ドラゴン」と呼ばれる種の中では最下位に位置する存在だ。体長7メートルから10メートル前後。生きた年数が五十年に満たない若竜を、この世界では「レッサードラゴン」と呼称する。


「このアルザス樹海にて観測された個体は、体長からおよそ二十五前後の年齢と推測されます。しかしその割に知能の発達が著しい。ドラゴンは他の魔物と異なり、およそ百年で人間の子供程度の知能を得るとされていますが、かの個体はおそらく生来の知能持ち。年数を重ね、繁殖能力を得る前に討伐する必要があります」


 魔物の中には『知能持ち』と呼ばれる、人間に近い知能を持つ個体が稀に発生する。彼らを放置すると、同じく知能持ちの個体が繁殖し、群れを成し人類の脅威と化す。


「まったく、何処から飛んで来たのやら」

「観測されたのは確か二週間ほど前でしたよね」

「ええ、グーリン領内の樹海を餌場の一つと定めたようで……罠の配置は完了しています。そろそろ来る頃合いかと」

「はい」


 手に持った封魔の杖を握りしめ、俺たちは樹海内部の開けた台地。その周辺の木々に身を潜め、獲物の襲来を待ち侘びていた。


 討伐メンバーは俺、ロミアス、ダミアンの3名。後は監視役として遥か後方にてフラミスが戦況を俯瞰する。中々にそうそうたるメンバーだ。

 今回兵の類は伴わない。通常の竜退治であれば二百以上の兵を動員するのが常だが、この討伐には「自身の魔法のみでレッサードラゴンを討伐する」という制約がある。自衛として魔物に攻撃せざるを得ないだろう一般兵らを、ここに連れてくる訳にはいかない。


「……ユウマ様」


 ダミアンが、何か物言いたげな顔でこちらを見る。ハハ、俺よりも緊張してるんじゃないか? 大丈夫だって、作戦もばっちり練ってきたし。


「手筈通りに頼みますよ、ダミアンさん」

「しかし」

「大丈夫です、ここはロミアスさんを信用しましょう」

「ええ……必ずしや私の魔法で、ユウマ様の身をお守りいたします」


 そう言って長杖を握るロミアスの顔は、ダミアンのそれより顔色が悪い。いやちょっと、ロミアスさんはしっかりして……。魔法の精度は、当人の精神状態に左右される。そこが崩れると作戦そのものが破綻しかねない。


「ロミアス……お前は何だかんだ本番に強い性質だろう。気を強く持て」

「はい、ダミアン殿」

「えーとりあえず作戦のおさらいとか、しときます? 気分が落ち着くかも」

「お気持ちはありがたいのですが、もはやその暇はないようです」


 ロミアスが静かに目を瞑り、呪文の詠唱を始める。耳を澄ますと、遠くから羽ばたきに似た大きな物音が聞こえた。見ずともわかる、いよいよ標的が姿を現そうとしているのだと。


 段取りは頭に入っている。後はそれを、作戦の通り実践するまでだ。

 大きく深呼吸をした後、手に持った勇者の杖。銀の杖身を持つ短杖に魔力を込めていく。これまでマンティコア、グリフォン、ミノタウロスと、数多の魔物を退治してきた。

 

 今回のレッサードラゴン戦は、今まで経験した中で最も手強く厳しい戦いとなるだろう。しかし不思議と、怖気付く気持ちは微塵も湧かなかった。


 だって俺はシュルツと誓ったのだ。自分たちの幸福な未来を掴む為。この強大なる敵を打ち倒し、必ずや彼のもとに勝利の栄光を捧げるのだと。

 

 

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