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91. 覚悟しておけよ



 白月の舞踏会における二家の騒動。ゼルフィの大貴族ラケシスの縁組。各人の思惑や利害が複雑に絡み合う中、この両件は終わりを迎えた。


 ……まあ関係者への根回しや説明など、諸々大変だったらしいが。特にパウルとジュリオスを城で働かせるという俺の案を実現するに辺り、シュルツは会議後、急ぎ各家に連絡を取り今回の件への協力を求めたのだという。


 元々の案としては、パウルをランバル家の隣領ハデーニ家の養子とし、有事の際は容易にランバル領へと向かうことが出来るよう調整していたのだという。

 

 だがパウルが城勤めとなる場合、その前提が崩れる。彼がランバル家の戦力から抜ける穴をどう埋めるかという場面において、シュルツは以前ラケシスに頼まれていた件を利用することを考えた。

 

 リオレスの容態が回復し次第、自身との婚姻をルーミエ家に持ちかけて欲しい……ラケシスはどうやらそういった事を、シュルツに伝えていたそうだ。

 

 ルーミエ家からすれば、ただでさえ三男のリオナをゼルフィに取られそうな上、次男までも……という状況だ。交渉の矢面に立つシュルツは頭を抱えていたが、そこでこの件にランバル家を噛ませることを思いついた。


 ドミニク・ランバルは稀代の野心家だ。ゼルフィ王室や名門グロース家との縁を繋げる機会に、彼ならば間違いなく飛びつくとシュルツは踏んでいた。

 リオレスをランバル家の養子とすれば、家格も釣り合いラケシスを輿入れさせることが現実的となる。パウルの代わりにラケシス、リオレスがランバルに来れば十分な戦力の穴埋めとなり、一方ルーミエ家の次男が抜ける穴はパウルが埋めれば良い。


 方々の利害を加味した上での采配。……唯一この中でリオレス当人だけが何も知らされていなかったというが、「あの従兄弟殿なら大丈夫だろう」というのがシュルツの弁だった。確かにリオレスなら何か、大丈夫そうな気もする。まあいいのか。

 


「いやぁ、流石は俺の伴侶殿。まったくもって冴えておられる。そうは思いませんか? ロミアスさん」

「そうですね、ユウマ様……あの」


 屋外での魔法演習。俺はロミアスの指導のもと。新たに覚えた技の練習と、封魔の杖の試し撃ちを行っていた。


 杖に貯蔵した魔力に感覚を巡らせ、詠唱により練り上げる。異なる二種の魔法を付与したそれを、十数メートル先の的めがけ杖先から撃ち出した。


 封魔の杖自体の魔力伝導率の高さもあるのだろう。鉄で補強した的が着弾した魔法による爆発を受け、ひしゃげた支えの棒のみを残し跡形もなく吹き飛んだ。威力は十二分なほどだ。しかし。


「ユウマ様のお気持ちは甚く理解できますが……気が入りすぎる余り、必要以上に魔力を消費してしまっております。いくら杖の補助があるといえど、これでは本番に魔力切れを起こしてしまう可能性が」

「やっぱそうですよねぇ」


 自身でも、魔力を練る際どうも集中力が乱れている自覚はあった。


 魔法は、術者の精神状態の悪化や脳の疲労度に比例してその精度が劣化する。俺の場合、魔法が発動するまでの時間や威力に問題はないが、魔力の消費効率が目に見えて落ちているのだという。


「……シュルツ殿下に、現状をお伝えしましょうか?」

「その場合、俺の安全をかんがみて今回の討伐自体が中止になる恐れがある。シュルツ様には黙っておいてください」

「では、どうされるおつもりで」

「うーん……それなんですが。あえて魔力の消費量は度外視して、技の威力を上げる方向で、討伐に向けた調整をするのは難しいでしょうか?」


 実際、魔力の消費は増えているがそれに応じて魔法の威力も多少は上がっている。例えるなら今の俺は魔力を1.25倍消費している状態で、その威力を1.1倍上げてる状態といっていいだろう。これを、レッサードラゴンに一撃当てる上での最効率まで引き上げる。


「抑える方向でなく、威力を上げる方向にですか」

「ロミアスさんは確か、アースドラゴンを単身討伐した経験があるのだとか。見て頂くことは可能でしょうか?」

「……ええ。ですが、ユウマ様ご自身は、それを成せる見込みがおありなのですか?」

「いやぁ……平常心で居ろと言われるよりはね。何にでも良いから遠慮なくブチかましてやる方がマシな気分ではありまして……」


 シュルツに無視される日々が続いて早数日。警備の都合上、寝所は共にしているが当然そういった行為はこのところ一切していない。最初の二日ほどは構って貰えない寂しさや自身がしでかした事への後悔が優っていたが、今となっては我ながら理不尽なことではあるものの。純粋な怒りと鬱憤の感情の方が大きかった。


 舞踏会の前までは夜もさんざしつこく、こちらを離す気などみじんも無い体だったというのに。いざその気になれば平気で俺のこと放っておけるんだぁー……へぇー……。


「……これは、ユウマ様の心の慰めになるか分かりませんが」

「何ですか」

「ハラルド様の話によりますと、シュルツ様は多忙な政務のごく合間。道端の花に向かってユウマ様の名を呼びかけたり、蜜を求める熊の様うろうろと執務室の中をいったりきたりしているそうです」


 くそっ。だから何だっていうんだ。最初に俺への罰として「口をきかない」なんて言い出したのはシュルツの方じゃないか。そんなの自業自得……。


「……ユウマ様、元はといえばこの件は、貴方がシュルツ殿下に内密で無茶をしでかしたのが原因。もう起きたことを責めても致し方ありませんが、せめて次からは事前に周りの者には相談して頂けますと、私共としても大変ありがたいのですが」


 いやそうですよね、すみません。自業自得はまさに俺の方でした。

 だが頭では自分が悪いと、そう分かっていながら感情が追いつかないのもまた事実である。

 

 くそぉーこうなったら覚悟しておけよ。レッサードラゴン。エクス第二王子め。ぜってぇ吠え面かかせてやるからな。

 


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