89. シュルツの裁定
会議を終えて早々の翌日、王城は瞬馬を出しグーリン家とランバル家の当主、そうしてパウルをここに呼び出す運びとなった。元々シュルツはこの件に関して裏で動いてはいたらしく、杖の件も含め処分の内容は思いの外すんなりと決まった。それにしても急ではあるが、まあ長引かせてもしょうがないしな。
数刻も経たずして、城の会議室にはシュルツと俺、ロミアス、そうして今回の当事者達である両家当主とその子息二人の姿が揃った。シュルツの側にはハラルドの姿も控えている。こちらも心なし顔色が悪く、微かに顔を顰めていた。まあ、胃も頭も痛いよなこの状況……。
「これより、白月の舞踏会により起きた騒動に対する処分を下す。グーリン家当主ダグラス。ランバル家当主ドミニク」
「はっ!」
「……うむ」
「本来は神聖な祭儀の場にて杖を抜いた貴殿らに処罰を下すところだが……我が国の不利益を鑑みて、こたびは騒動の原因を作った貴殿の息子らに責を負わせることとする。よってグーリン家三男ジュリオス、ランバル家四男パウルはこれより王城の預かりとし、その家名と貴族の特権身分を永久に剥奪する」
「……! か、畏まり、ました。殿下」
「……」
「ただし、こちらの出す条件を飲むのであれば、息子らへの処罰を特別に緩和しよう。まずは両家、互いの領土への不可侵条約を破棄するのであれば、貴族身分の剥奪は免除する。この場合、各々の子らは王城の定めた貴族の家へと養子に出す」
これは、元々シュルツが考えていた案の一つだ。ただ不可侵の破棄のみで、今回の件を白紙にするのは流石に諸貴族に示しが付かないと頭を悩ませていたのだとか。
なお「王城の預かり」は俺が提案した内容だ。貴族身分を剥奪される場合は下働きとして、養子に出される場合は城に仕官する官僚として、このヴェイルセルの王城にて彼らを雇い入れる。これに関してはシュルツも了承し、良い案だとその内容を褒めてくれた。俺でなく代弁したロミアスに対して。くそぅ。
次いで、シュルツが言葉を紡ぐ。
「あとはドミニク殿……貴殿の場合は子息の件のみならず、先日の言動にも目に余るものがあった。よって貴家には先ほどの処罰に加え、家財の一部の供出を命ずる。品はこちらから指定しよう。拒むのであれば、これに代わる相応の処罰を下す」
「お待ちくだされ、シュルツ王子。確かにグーリン家の息子の不始末については、正しく殿下のおっしゃるよう。しかしランバル家として、あの場を騒がせたのは我が息子パウルでなく、私個人のみであったはず。しかも杖を抜いたのは先方の親御殿が先なのですぞ。私どもへの罰として、息子を見せしめにするのは他の貴族への示しをつけるためには結構なこと。しかし我が家のみがグーリン家と同等の処罰を受けた上、家財まで取り上げられるとあらば。これは王城の私利私欲による不当な裁きであると、周囲よりそしりを受けることでしょう」
まあドミニクの件は、正直杖を借りるための方便で、言いがかりに近いっちゃ近いからな。しかもあの場で騒いでいたのはグーリン家の親子と、ランバル家は当主一人のみ。公の場を騒がせた罪……広義でいう不敬罪の名目であれば、罪状が重くなるのは間違いなく前者の方だ。
「……相も変わらずがめついことだ、ドミニク・ランバル。貴殿が不平を漏らすのであれば良いだろう。我が家はランバルより多くの家財を供出し、その上で同じ罰を受ける。これで文句はあるまい」
「ダグラス。余計な事を」
「両者、静粛に。ドミニク殿、確かに貴殿の言うことは一理ある。家財の没収は、公の処罰としては取り消す。ただし貴殿の言動の責は取らせてもらおう。神聖な神と祖の誓約を、貴族同士の不和を招くために用いようとした件。そもそも貴殿の不用意な挑発がなければ、我が国の忠義の臣グーリン家の者が杖を抜くこともなかったのだ」
「むう……」
おお、あのドミニクを言い負かしてる。いいぞシュルツ。
「……『封魔の杖』をアルザス樹海でのレッサードラゴン討伐の間、我らに貸し出すのであればこの件は不問としよう。如何かな、ドミニク殿」
「宜しいでしょう。我が家の宝が魔を退け、この国ひいては人類の平和の礎となるならば、これ以上の喜びはございませぬ。ぜひともお貸し致しましょう」
良かった、とりあえず当初の目的の一つは果たせそうだ。あとは……。
「して、話を戻しますが。子息らの処罰の恩赦についてはいかがされるか、ダグラス殿。ドミニク殿」
ハラルドが、そう静かな声色で両者へと語りかける。
いよいよ本題だな。少なくともダグラスの方はジュリオスを心底可愛がっているようだし、言うなりに条件を飲むことだろう。
「……グーリン家は以降、ランバル家の領内への立ち入りを認める。故に、どうか我が息子ジュリオスへの恩赦を願いたい」
「父上」
今までのやり取りを経て、自らが招いた事の重大さを理解したのだろう。顔を青くして俯いていたジュリオスが、パッと面を上げ涙に潤んだ目でダグラスの方を見つめる。
「ごめんなさい、父上。俺のせいでこんな大変なことに。他の家に貰われた後も、俺は変わらず貴方のことを想い続けます。愛しい父上」
「ジュリオス……」
ダ、ダグラスさん。号泣してる……。
いや、まあ。泣きたくなる気持ちも分からなくはないけど。そんなに可愛くて仕方がなかったんだな、末っ子のジュリオスのことが。
……気を取り直して。いよいよ次はランバル家の番か。ドミニクはしばしの間、沈黙を保っていた。その静寂を破ったのは彼でなく、息子パウルの方であった。




