88. 今じゃなきゃ駄目?
「つまりジュリオスは愛する人と引き離され、軟禁されている状況に怒りを覚え、単身で屋敷を抜け出し王城に訴えを出しにきたと」
「はい!」
「……訴えの内容は、なんだっけ」
「俺の家とランバルの家が相互不可侵だなんて、そもそもがおかしいです! 俺たち貴族は魔と戦い、民を守る義務がある。なのに貴族同士でいがみあって、しかもお互いの領地に出入りも出来ないなんて。これではいざ魔物が出た時に、貴族としての義務を果たせないでしょう! シュルツ様や王城のえらい人達が、ちゃんと俺たちの親を叱るべきだとユウマ様も思いませんか!?」
うわ〜〜……やったことめちゃくちゃだけど言ってることはごく正論だぁ。
グーリン家はアルザス樹海、ランバル家はバルト山脈と、共にヴァリエ王国屈指の魔物湧きスポットをその領内に抱えている。本来ならこの地に貴族間の私怨云々で人の出入りが制限されるなど、到底ありえない事態である。
この無茶がまかり通っているのは、なまじ両家共に戦力や人材が豊富で、互いの力を借りずとも領内の魔物をなんとか出来てしまう実態があるからだ。最も、本当にどうしようもならない脅威が迫った場合は、不可侵などと言ってる場合でもないのだろうが。いざ有事が起きてからそうなった所で、初動の遅れや現地での連携が乱れるのは目に見えている。
……確かになぁ。いずれは何とかしなきゃいけない問題だとは思うけどさぁ。それ今のこのクソ忙しい時期にやることかなぁ!?
という俺の内心の憤りを、きっとシュルツも同じくしていたのだろう。俺たちに伴われるジュリオスの姿を目の当たりにし、その訴えを聞き届けた後。シュルツはその眉間に山岳のごとき深い皺を寄せ、無言で俯いていた。
「……」
シュルツの側に控えるダミアンは、もはや言葉を失っている。その顔は見たこともないほどに青ざめ、冷や汗が噴き出ていた。長い沈黙の後、シュルツが口を開く。
「確かに、こたびの状況は我が国の内憂を払うまたとない機会ではあるだろう。ジュリオス。お前はこの城内にてしばし謹慎せよ。今後は勝手な行動を取ることは許さぬ。ロミアス!」
「は!」
「こたびの処分の件について、お前の口からユウマの意見を代弁せよ。……ユウマは私に述べたいことがあるのなら、ロミアスを通して伝えろ。会議はこの部屋にて一刻後に始める。私から言うことは以上だ。下がれ」
まあ、これが妥当なところではあるだろう。封魔の杖のことは伝えて貰うとして、後はなぁ。個人的にジュリオスとパウルの処分は軽いものにしてやって欲しいと思うが、どうだろうか。
「ユウマ様……!」
ジュリオス、そんなやり遂げたような顔で俺を見るんじゃない。後はもうちょっと……本当に大人しくしていて欲しい。頼むよ。なるべく悪い方向にはいかないよう俺も善処するからさ。




