【番外編】シュルツとアリエス
「お前とこうして踊るのは、実に六年ぶりになるな」
美しい銀髪を優雅にたなびかせ、目の前の昔馴染みはそう悪戯げに笑う。
「覚えているか? 我らの父上が俺とシュルツの婚姻を持ちかけた日のことを」
「……ああ」
「白月の下で、この身を抱いたお前の腕の逞しさ、俺は今でも忘れてなどいないよ……」
「戯れはよせ、アリエス。私の伴侶はああ見えて嫉妬深い。お前もユウマのことはそれなりに気に入っているのだろう?」
俺の言葉に、アリエスはその翡翠の瞳を見開くと、ふっとその唇に笑みを浮かべる。
「この短期間で、随分あしらいというものが身に付いてきたじゃないか。よほど伴侶殿の教育が良いと見える」
「お褒めに預かり光栄だ」
「今のは皮肉だっての。全く、昔の可愛げは一体どこにいったというのか。お前の従兄弟殿とは大違いだ」
「……リオナは息災のようだな」
「ああ、そのことなんだが……建国祭までといわず、あと二ヶ月ほど彼を貸してはくれないか? いま『試し』の最中なんだ」
『試し』と、そうアリエスは言った。嫌な予感に、背筋を汗が伝うのを感じつつ、恐々とそれを口にする。
「まさかとは思うが……手を出したのか?」
「そのつもりで彼を差し出したのだろう」
「そんな訳があるか!」
「ハハハ! お前もまだまだ青いなぁシュルツ王子。俺の通り名を忘れたか? まあ安心しろ、万が一とあった時に産むのは俺の方だし、本人が望むなら責任も取るさ」
……流石に一欠片も想像してなかったといえば嘘にはなるが。思っていた中では相当悪い部類の展開に、胃が痛くなる。
「せめて、手を出す前に一言相談してくれ……なんの為に日頃文を交わしているのか」
「お前に止められたところで聞かぬぞ」
「物事にも順序というものがあるのだと言っている」
「俺がそんなものを律儀に守る性格と思うか? 24年も生きていて何を見てきたんだ、お前は」
これに関しては、全くもってアリエスが正しいと思った。
そうだな……そもそも彼にリオナを差し出すという判断をした、私が全面的に悪かった。今回の話を、一体どうリオナの親御方に伝えたものか。改めてかの家には迷惑ばかりをかけている。
「……リオナの件に関しては、善処する」
「ふふん、腹を括ったか。まあ悪いようにはしないさ。王位継承の件に関しても引き続き協力はしよう」
「弟のエクスから、何か働きかけはあったか」
「先日王宮にやってきたよ。手土産の宝飾と俺好みの年若い美男を連れて。あいつホント、連れてくる男の趣味だけは良いんだよな……リオナが妬くから今回供の方は断ったけど」
あまり知りたくなかった情報の数々に、思わず眉間に皺がよるのを感じた。
当然だがエクスも、選王の儀に対して本腰を入れて動いている最中のようだ。
五票のうち、少なくとも三票はこちらでも根回しが済んでいる。しかし相手は一国の王。刻々と変わる状況の中、自らが背負う国と民を第一とした判断を、彼らは常に求められている。その最中で、自らとした約束が必ず果たされるとは限らない。
今、ユウマがエクスの元に交渉へ赴いている。その結果次第で、今後の方針がいよいよ明確に決まるだろう。
「アリエス……」
「なんだい幼馴染殿」
「私とエクス、お前はどちらが王に相応しいと思う」
それは半ば意味のない問いかけだ。アリエスもまたこちらの意図を悟ったのだろう。その桜色の唇をにやぁと三日月の形に歪め、こちらに身を寄せると、自らの耳元に囁くよう言葉を吹き込んだ。
「お前たちのどちらが王になろうが構わない。俺は俺のやりたいようにするだけさ。だからシュルツ王子。私の心を意のままにしたいのなら、お前自身の唇でこの俺を口説いてみせろ」




