犬鬼灯
次回でなんでこんなにメインキャラクターが切り替わるのか、複数人の話を並行させたのかがわかると思います。良くない構想だと分かっていても時系列順に書くにはこうするしかなく、メインキャラにそって話を書くとかえって複雑になってしまうのです。ほら、物語シリーズもそのエピソード(吸血鬼ハンターではない)だけ見れば楽しめても、実際に時系列で理解しやすいかと言えばそうじゃないじゃないですか、そんな感じです。
夏休みが終わりを迎え、俺の海呑高等学校での生活も二年生の二学期に突入した。守と付き合う事になり、外川と恋澄の確執の根幹を垣間見、そして詔が死んだ。これまでは俺が直接関与した出来事であって他にも夏休の最中に起きていた事がある。逢川と心が始業式に来ず、逢川は勿論心すらも休暇中の目撃情報がある日ピタッとなくなったのだ。『黒井心はもうあなたの前には現れませんよ。』守の部活に付いて行った、そして羽々滝から外川の話を聞いた日に重平百合花は俺にそう言った。あの時は何を言っているのか分からずに放置したが、『何か』を知っている重平がこの現状を言い当てたと言うことは、文字通り何かが起きている事になる。とはいえまだ初日そんな思いで俺は暫くこの一件を無視することにした。二人に余程の危険が迫っているならば重平はその事を言うだろう。普段は俺と橋李を誂うだけの厄災だが、根は純粋な少女だ。純粋すぎるあまり矢部に似てきているだけで世間を知れば言動も改まるだろう。
─なんてことを考えていた。横に立っている凌は何も言わず、眼の前に横たわる詔は何も見ず語らなかった。物語の長い回想を開けたような、今が現在なのか過去の記憶なのか。姉の顔を見るといつもそんな気分になる。詔はそれを見越してかあの日買った白いワンピースを着て死んでいた。俺は胸の上に犬鬼灯を置く。生前自分に似ていて好きと言っていた記憶があったからだ。理由は知らない。
「兄さんは良かったの?あの日家に帰らず病院に残ってれば死に目に会えたかもしれないのに。」
「良いんだよこれで、ギリギリまでお互いの顔見てたらどっちかが決心しきれなかった。それにそのセリフは俺もだよ。本当に良かったのか?詔に成ってから一度も会ってないだろ。」
今思えば配慮に欠けた発言だったかもしれない。なんでも覚えてしまう凌が一度目の姉の死を忘れているはずも無い。なんなら今でもついさっき起こった事のように感じているだろう。詔も凌に会いたいとは言わなかった。二人の間に落ちた暗い空気が後方から聞こえた声によってかき消された。そう聞こえたのだ。以前は聞いてもすぐに忘れた声が、今の俺には聞き取れてそれが誰なのかもわかった。横を見るとさっきまでとはまるで違う表情の凌が息を乱し始めていた。
「大丈夫だ俺がついてる。今日はもう帰ろう。な?」
裏口から凌を帰らせ俺は入口へと向かった。そこに居たのは声の主とそれを抑える二人の従業員。声の主の侵入を止めているようだった。
「お願いします通してください!家族何です!!」
声の主…俺の父親宮古憲正は俺の顔を見て安堵の表情を見せる。今すぐこんな男は知らないと言ってやりたかったが、この人が俺にとって親失格だとしても詔の父親である事は確かだった。
「本当に詔の父親です、通してあげてください。」
「悪いな律直ぐに済ませるよ。」
憲正は一瞥もせず詔の元へ向かう。もしこれが俺の…いや凌の葬式だとしても憲正はこれ程には感情を動かさないだろう。何せ詔の治療費は全て彼が負担している上、俺が家出するまで毎日のように足繁く詔のお見舞いをしていた。彼にとって詔は俺等兄弟よりも実子と言えるだろう。血の繋がりがなくとも実の子どもとして接するのは美談に違いないが、それで本当の子どもを疎かにするとは何と笑えない笑い話だろうか。憲正もその妻も俺には無関心だった。故に、否初めから俺も同じだった。だから今俺は両親に恨みなど持っていないし、憲正が詔の葬儀に来るのも当然の権利だと理解している。何となく変える気もせず、そんな事を考えて憲正が棺桶から手を放すのを待っていた。振り返った憲正は目の端に涙を滲ませている。それでいて表情はどこか清々しかった。
「何だ律、まだ居たのか。」
「あんたと久しぶりに話したいことがあったんだよ、悪いか?」
なんてこと無いと言うには些か距離の空いた会話だった。俺も最早それが何を意味するのかを忘れてしまっていた。
「律…お前聞こえているのか…?」
ついさっきのはやはり気の所為ではなく、俺は明確に憲正の、父親の声が聞こえていてそれに返事をしていた。
「そう…そうだな僕もお前に渡さなければいけない物がある。表に出よう。コーヒーはブラックで良いか?」
自動ドアが開き切る前に見をねじ込むようにして彼は外に出た。俺もその後を追う。
外に出たことを少しだけ後悔するような湿気と熱気から逃げるように、俺と憲正は辛うじて日陰になっている塀により掛かる形で並んでいた。さっきは気にならなかったが背は少しだけ抜かしていて、顔は全く似ていない。それでいて目元が少しだけ凌に似ている。当然ながら詔にも似ていない。
「驚いたよお前のその耳が治っていたとはね。やっぱりあいつに任せた僕の判断は正しかったみたいだ。」
「アイツってのは独鳥さんの事か?」
「いや独鳥君もそうだけど君にはもっと優秀な主治医を付けている。まぁ僕の計らいじゃなくて彼女きっての要望だったんだけどね。」
最早考えることすら馬鹿馬鹿しい。矢部治美の事だろう。定期的に俺以外の来客の痕跡があったのは憲正が俺に隠れて彼女を訪れていたという事になる。
「まあそんな事は今は良いんだ。それより律、これを。」
憲正は懐から何かを取り出して俺に差し出す。日陰のせいでくすんだそれが何なのかすぐに判別できなかったが、やがてそれの正体が浮かんでくきた。詔がよく読んでいたあの本だ。使い古された布のブックカバーにはネームペンで何か書かれていた。
「美琴になる前の詔に、自分に何かあった時に律に渡してほしいと頼まれていたんだ。」
あの知的な雰囲気とはかけ離れた幼稚な字が目に飛び込んでくる。
【本当に生きるのが辛くなったらこの本を読むといい。私はこれに幾度と救われてきた。しかし警告もする、これを読んだら幸せな最期を迎えられるとは思わない方が良い。】
「後は律お前次第だ。無論お前には必要ないのかもだけどね。」
話したいことがあるという俺の発言を忘れたのか渡すものを渡して去ろうとする。彼は彼で何か引け目のような物があるのか、引くに引けなくなっているのか。兎も角俺は声が届くうちに捨て台詞のように言葉を吐き捨てるのだった。
「俺はまだ生きるよ、いつかこの関係も変えて見せる。」
足を止めず父親は頭を軽く掻いて歩みを進める。聞こえていても聞こえていなくても、俺らが生きている限りいつかは変われる日が訪れるだろう。
高校3年生にして2年の頃より投稿頻度が上がっている気がします。やっぱ執筆意欲と勉強へのストレスは表裏一体みたいです。ただ最近気が狂ったのかslay the spire2を買いました。破滅とナイフが楽しい。受験に小説にスレスパ、私の高校生活一体どうなっちゃうの〜!!??本当にどうするんでしょうね。
次回予告
次回「♯28,君は彼方6」
前書きに認めましたがなんでこんな構想になっていたのかについてです。多分あと3話くらい書きますが、場合によってはさらに伸びるかも。




