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君のソナタ  作者: R a bit
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39/39

♯28,君は彼方6

そういえば前回言った『あと3話書く』は外川と恋澄の話の事でこの作品自体はまだ続きます。

9月中旬、時偶長袖が恋しくなる日が訪れる季節の中俺は真新しい墓石の前にしゃがんでいた。盆に多くの人が来たのだろう、周囲には日差しに当てられたくたびれた花園が広がっていて、眼の前の墓石(といっても骨壺を入れる穴を石板で蓋をした小さな物)には何もなかった。水をかけ線香を上げる、供えるものが思いつかなくて手元に有るのはあの本だけだった。幾度となく墓石が乾き、煙が立ち消えていた。こんな事を盆の真っ最中に行えばナニかに取り憑かれたと思われるだろう。しかし実際俺は今何かに取り憑かれている。寂しさとも言えるのかもしれない。凌といられる時間もそう長くない。守も今でこそ良好な関係を築けているがそれがいつまで続くのだろうか。陽の角度が変わり影で【みこと】の文字が見えづらくなった。思考を止めてそんな変化に気づいたのは、その影が明らかに俺のものではなかったからだ。

「あら、奇遇ね宮古君。いくら死んだような顔してるからってリサーチは少し気が早いんじゃないかしら?」

「恋澄か…そいつは笑えないジョークだな、今すぐ日本教育は冗談のセンスを義務教育にするべきだと思ったよ。」

「当たり前じゃない墓参りで笑うなんて縁起悪いもの、TPOを弁えたのよ。それよりほら、早く渡しなさい気が利かないわね。」

恋澄は俺の隣にしゃがみ込んで手のひらを差し出してきた。そういえば勉強会の時も、外川に会わせる為に呼び出した時も制服を着ていたが、今日は私服らしい。恐らく初めて見た。高い背に長い黒髪、そして純白のワンピースにつばの長い麦わら帽子、夜に見れば何処かの都市伝説のような風貌だった。思わず見惚れていたが運よく気付かれなかったのか、気づいた上でか、恋澄は不満そうにこっちに顔を向けた。

「何ボケっとしてんだか…線香くらい上げさせてくれても良いんじゃないの?」

「悪いな気ぃ使わせて。面識なんて無いだろうに。」

慣れた手つきで恋澄は黙祷を済ませていた。ここに来ている以上当たり前だが、恋澄も誰か親しい人を亡くしているのだろう。

「私も大概だけれどどうしてこんな時期に来たの?この辺で貴方を見かけたことはあまりないもの、頻繁に来てるわけでは無いんでしょう?」

「つい最近葬式をしたばかりなんだ、もしかしたらまだこの辺に居るかもと思った。今日にしたのは偶々だな。」

「そう…それは羨ましいわね。」

隣のいつに無く萎らしい可憐な美少女は、どうやら話を聞いてほしいらしく含みを持たせた言い方をした。

「恋澄は…何で今日ここに来たんだ?」

少し前の俺ならそんなこと聞かなかっただろう。そしてこの行動は決して外川の為でも恋澄の為でもない。俺が彼女を知りたい、それだけだった。無論邪なことを抱いていたらきっと恋澄には見抜かれるのだろう。

「母親の墓参りに来たのよ、盆に行かなかったのは会いたくなかったから。」

「羨ましいってことは会いたくないわけじゃないのか?」

そも実際に二度と会えなくなって尚そんな事を本気で言うのなら墓参りにも来ない筈だ。ここに来るって事は何かしら思い入れや未練があるって事だ。

「会いたくないのは本当、約束を反故にしたままなの。今の私にはあの人との約束を果たせない。だからそうね会う資格がないとでも言い直しておくわ。」

恋澄は立ち上がり風に煽られた髪を耳にかける。目線の先には何もなく何も宿っていなかった。もう帰る気なのか一瞥して体の向きを切り替える。熱に頭を浮かされたのか、恋澄色芭という人間への興味からか、この時の俺は『今ここで彼女を放ってはいけない』という強い思い込みが脳内を占め、ついには行動へ至った。

「待てよ恋澄、『線香くらい』なんだろ?俺にも──」

瞬間本当に頭が熱に浮かされていたらしく、長時間しゃがんだ後に立った事と水分を取らなかった事とが災いし、強烈な吐き気と脳みそが解けるような浮遊感に襲われ堪らず意識を手放してしまった。



目が覚めた時真っ先に目に入ったのは空の暗さだった。季節感を考慮してとうに19時は回っていそうだ。次に気づいたのは俺が今倒れているのは草でも土でもなく、薄い使い古された布団だった。学校の保健室や病院のものでもない、祖父母の家にあるような質素なものだ。当然自宅のものではない。情報を整理しようと上体を起こし辺りを見渡す。見覚えのない光景の中で最近よく見る人物が机を睨みつけていた。

「あら漸く起きたのね、覚えてる?貴方私の目の前でいきなり倒れたのよ、症状からみて熱射病だろうけれどいったい何時間あそこにいたの?」

「何時間だろうな覚えてない、数時間記憶が飛んだ感覚だ。悪かったな恋澄助かったよ。」

「気にしなくて良いわ。恩を返すって言ったもの。」

恋澄は立ち上がり俺に何かを差し出す。薄暗い照明に照らされたそれはあの詔がよく読んでいた本だった。あの場所に置いていくか迷って結局決めきれていたかったが、どうやら忘れ物として彼女が回収してくれてたらしい。さっき見ていたのは当然机そのものではなく、この本だったようだ。

「中身、読んだのか?」

人の所持品とはいえたかが一冊の本、恋澄の趣味嗜好から察して読んでいても不思議じゃなかったが、少しバツが悪そうな表情がそれの考えを肯定していた。

「見られちゃマズイものだったかしら…確かに人の筆箱を覗く行為を咎める教師が小学生時代に居たわね。軽率な行動だったわ。」

「いや良いんだ、俺が個人的に読まないようにしてるだけで只の本だったろ?」

「そう…ね。少し内容は気味悪かった(・・・・・・)けれど、読んでいないならネタバレは無しにしておくわね。でも一つだけ、この本を読んで貴方に聞きたいことがあるの。構わないかしら?」

「あゝ勿論。」

再び椅子に座り状態を起こしたままの俺を見下すようにして、恋澄はヤケに神妙な顔をする。そしてそれは何処か亡き姉に似ていた。

「貴方はどうやって死にたい?」

「随分物騒な話題だな、強いて言うなら俺は『生きている内』に死にたい。これは持論だが、人には『生きる力』と『死に抗う力』があって歳をとる度に後者が強まっていく。カッコつけて言うなら『宮古律』という確固たる個人のまま死にたい。そんなところだ。」

突然の恋澄の質問にヤケに具体的に答えられたのは、やはり詔の影響だった。『人はいつ死ぬのか』を考えるうちに無たようなことを考えていた。当然そんな事情を知らない恋澄は想像以上の長文に少し困惑しつつも、真剣な回答に満足しているようだ。そういう点では心にも似ている気がする。

「私はね、未練を残して死にたいの。」

「大往生は嫌なのか?それとも一般的な幸福論へのアンチテーゼか?」

「私なりの順当な幸福論よ、死ぬときに未練の無い生涯を私は幸せとは思わないの。『もっと生きたかった』と思える人生を私は本当の幸せだと思うのよ。でもね」

恋澄の目の色が変わる。見下される形だがその真摯な眼はその高低差を感じさせない程真っ直ぐだった。

「外川信光との確執は、私にとって幸せな未練じゃない。貴方は私とあいつとの仲介をするんでしょう?なら少し昔話を聞いてくれないかしら。」

予想外の方向に話が進んだが、どちらにせよ何時かは恋澄とこの話をしなければならない以上、今俺が彼女の言葉を遮る理由はなかった。

「凡そ10年くらい前になるのかしら、私は世間の言う『頭のいい子』だったわ。同級生が公園に行き昨日のテレビの話をする中、私は市の図書館に足を運んでそこにあった中学以降の教科書や問題集に取り組んでいたの。当然クラスどころか小学校全体で私は浮いていた、そんな中で唯一できた友人が外川信光だった。哀れまれたのかもしれないけれど、あの頃の私にとってただ話を聞いてくれるだけでも心の底から嬉しかった。中学に上がってからも私は何も変わらなかった、でもアイツは違ったの。知性や品性を感じない一般的な男子中学生に変わり果てていた。当たり前に私は彼への興味を失ったわ。そんな中の事よ、中学1年二学期の期末テストで私は数学で一問だけ解けない問題があった。教師から生徒への挑戦状の様な1点しか配点されていない問題、それを外川信光は回答していた。」

息継ぎをしていたか疑いたくなる程饒舌に語っていた彼女の言葉が突然途切れた。表情は明らかに語り始めよりも陰っていた。単純にそれくらい思い出したくも無い出来事だったと、そう考える事もできたが俺には恋澄がまるで同情を誘うかのような物言いをするとは思えなかった。やがて何か決心したのか恋澄は再び口を開く。

「私は未だかつて無い程に外川信光という人物に興味を抱いていたわ。直ぐに私は彼がバスケ部に所属していることを知り、部内での様子だけでなく他校との練習試合も見に行った。素人目にも当時の外川信光のスキルが中学生の域を超えていると分かる程度に彼は天才だった。けれどアイツは絶対に自分から得点はしなかった。日常生活でも彼は自身の頭脳や身体能力を誇示せず、一般人を演じていたわ。私はそれが許せなかったの、私より優れた人間がそれを隠していた事を。」

恋澄はピリオドを打つ代わりに深い溜息を吐いた。外川が何故恋澄に目をつけられているのか分からないと言っていたが、成程話を聞く限りは恋澄の一方的な不満らしい。しかしだからといって外川が一方的な被害者でもなければ、恋澄がそうした事が仕方なかったという訳でもない。

「事情は把握した、当然協力もする。ただその前に一つ恋澄に話しておく事がある。」

体を起こし所持品の有無を確認し、帰宅の準備を整える。これ以上話すことも聞くこともないという意思表示だったが、最悪逃げるためでもあった。今から話す内容が彼女を怒らせるには十分過ぎるだろう。そう理解した上で言葉を紡いだ。

「お前が探してた人物…要はこの一年と数ヶ月の間、テストで一位を取り続けたのは俺だ。隠してて悪かったな。」

「貴方…!それを今ここで言う事意味、分かってるんでしょうね!?」

案の定声を荒げる恋澄の声を遮るように俺は扉を閉めて帰路についた。

ちこここ

個人的に作品の設定や展開をあとづけするのは(それが面白くなるであれば)肯定派なんですが、匂わせだけして放ったらかすのは許せないんですよ。お話を作る側としても読む側としても。つまり何を言いたいかと言うと『君は彼方2』の最後の最後で書いた橋李のくだりは忘れてください(覚えていたら)。前にどっかで言ったようにこの作品はマルチエンディングに作ってるのでフラグが折れる事があります。こんなことしてるから読者少ないんでしょうね。

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